目次

1.はじめに
2.調査の実施概要
3.調査結果
(1)勤務先の退職金制度について
①勤務先の退職金水準の満足度
②自分の退職金額の認識度
③企業側の従業員教育の必要性
(2)確定拠出年金制度(日本版401k)について
①確定拠出年金制度を聞いたことがある割合
②確定拠出年金制度の仕組みの理解度
③確定拠出年金制度のメリット・デメリットの認知度
4.まとめ

要旨

①2000年4月に導入された退職給付会計、最近の適格退職年金・厚生年金基金の運用利回り低下、さらに2001年10月から施行された確定拠出年金制度など退職金・年金制度が話題となっている。このような状況下で、従業員は自分の勤務先の退職金制度に対してどの程度認識し、また新しく創設された確定拠出年金制度についてどの程度知っているかを探るために20代から50代の男女の勤労者(以下、従業員と表記)を対象としてアンケート調査を実施した。

②調査の結果、現在自分が自己都合により勤務先を中途退職した際に受け取る退職金額を認識している人は54.5%と半数をやや超える程度に過ぎない。同様に定年退職した場合での退職金額の認知度は、50代の人でも6割程度であり、特に退職金額を自分で計算した経験がある割合は3割に過ぎない。

③老後生活への不安や、退職金に不満を持つ人が多い割に、退職金額についての認識が低く、従業員の情報不足、勉強不足な面は否めない。しかし、従業員は勤務先にこのような点について勉強をする場(定年後の生活設計を教える講座)などがあれば、積極的に参加したい意向がみられた。

④また、新しい年金制度である確定拠出年金を「聞いたことがある」と回答した割合は65.0%であった。この「聞いたことがある」人を対象に、この制度の仕組みを知っているかと質問したところ、「理解している」と答えた人の割合は29.9%であったが、「なんとなく知っている」との回答まで含めると69.8%と7割近くになった。この結果を分析してみたところ、回答者の4割を占めた「なんとなく知っている」人は、「自分の退職金を自分で運用でき、その運用結果が自分の退職金額となる」という点は認識が高いものの、これ以外の特徴(メリット・デメリットなど)に関しては認識が低いことがわかった。

キーワード:退職金制度、従業員教育、確定拠出年金

1.はじめに

 企業の福利厚生の一環である退職金制度の導入率は、1997年時点で88.9%(労働省『平成9年賃金労働時間制度等総合調査速報』)となっており、多くの企業で採用されている。

 一般的な退職金制度とは、就業規則等により勤続年数や資格等に応じて、退職金額が決まっているものであり、従業員が中途退職もしくは定年退職した際は、企業側はその約束された退職金額を従業員に支払う。そのため従業員は、自ら就業規則等を調べることにより、だいたいの退職金額を計算できるはずである。

 2001年11月に発表された『生活保障に関する調査』(生命保険文化センター)によると、老後生活に不安を感じる人の割合は8割を超え、その大きな理由として「退職金・企業年金があてにならない」があげられているが、実際に従業員はどの程度自分の退職金額を認識しているのだろうか。

 また、最近の話題としては、2000年4月より導入された退職給付会計や適格退職年金・厚生年金基金の運用利回りの低下などがあげられるが、このような状況のなか、退職金・年金分野で、新たな動きがみられるようになった。

 その一つとして、「確定拠出年金法」が2001年10月より施行され、確定拠出年金制度が誕生したことがあげられよう。これは、企業側にとっては財務面・人事面に大きな影響をあたえ、従業員側には退職金を自己責任で運用することが要求されるまったく新しい制度である。

 このように退職金制度や年金制度の多様化がみられる中で、従業員は中途退職もしくは定年退職した際に受け取るであろう自己の退職金額についてどの程度認識をしているのか、また、新しく創設された確定拠出年金制度について、どのくらい認知しているのか等を明らかにすることを目的にアンケート調査を実施した。

退職金制度に関する意識調査
(画像=第一生命経済研究所)

2.調査の実施概要

 調査の実施概要ならびに対象者の基本的属性は以下のとおりである。

①調査対象:20代から50代までの全国の男女勤労者661名(ライフデザイン研究所生活者モニター)
②実施時期:2001年11月
③調査方法:質問紙郵送法
④有効回収数:628名(有効回収率95.0%)
⑤回答者の属性

 本調査の対象者には、パートタイマー・アルバイトなどを含むため、本稿の執筆にあたっては分析の対象を正社員(退職金制度がある人のみ)に絞った。(図表1)

3.調査結果

(1)勤務先の退職金制度について

①勤務先の退職金水準の満足度
 初めに、自分の勤務先の退職金水準に満足しているかを質問してみたところ、全体では満足している(「十分満足」、「どちらかというと満足」の合計)との回答は少なく、20.1%と2割程度であった。一方、不満である(「どちらかというと不満」、「不満である」の合計)との回答は59.8%と約6割を占めた(図表2)。

 さらに年代別でみると、40~50代では7割近くが不満であると回答し、年代があがるにつれ、不満度は高まる結果となった。

退職金制度に関する意識調査
(画像=第一生命経済研究所)

②自分の退職金額の認識度
 退職金水準に対する不満を持つ人が多いということは、自分の退職金額を認識していると考えられるので、次に“自分の退職金額はいくらぐらいかを知っているか”について質問してみた。この質問は、“現時点で自己都合により中途退職した時の退職金額”と“定年退職した時の退職金額”の2つについて調査している。

(自己都合により中途退職の場合)
 まず、現時点で自己都合により中途退職した時の退職金額を認識している割合(「退職金額を自分で計算したことがある」、「自分で計算したことはないが、職場の上司・同僚などから聞いてなんとなくわかる」の合計)は54.5%となった。特に、「退職金額を自分で計算したことがある」との回答は25.1%と4人に1人の割合であった。このように、現時点で勤務先を中途退職した場合にいくら退職金を受け取れるかを認識している割合は半数をやや超える程度にとどまり、年代間での差もあまりみられない(図表3)。

 また、男女別にみても、男性の認識度は56.2%、女性は51.9%とあまり差はみられなかった。

退職金制度に関する意識調査
(画像=第一生命経済研究所)

(定年退職の場合)
 もう一方の定年退職時における退職金額の認識度については、全体では48.6%と半数に満たない結果となった(図表4)。自己都合の場合の退職金額とは違い、男女差がみられ、認識度に関してみると、男性の56.2%に対して、女性は37.6%と20ポイント近い差がみられた。定年まで(意識して)働きつづける女性が、男性より少ないことによるものと思われる。また年代差もみられ、20代の22.9%から50代の60.9%へと年代があがるに従いその割合は上昇していくが、定年に近づきつつある50代でも6割程度の認識という結果にとどまった。特に、50代で定年時における「退職金額を自分で計算したことがある」と回答した人はわずかに30%であり、退職金額の計算などについては、勤務先に任せきりの状況がわかる。

 このように「退職金額を自分で計算したことがある」人が少ないなかで、退職金水準に不満を感じている人が全体で6割程度いるということは、上司や同僚などの職場の人間からの情報に基づいた、漠然とした不満感を持つ人が多いのではないかといえる。

 また、各年代を通して「関心はあるが、よくわからない」との回答が多いように、自分の退職金額をあまり認識していない状況は人生設計を考える上で問題があるように思われる。

退職金制度に関する意識調査
(画像=第一生命経済研究所)

③企業側の従業員教育の必要性
 今後、公的年金の給付水準の引き下げや支給開始年齢の引き上げなどがあることからも、老後に関する不安はさらに高まると想定される。

 実際に2001年11月に発表された『生活保障に関する調査』(生命保険文化センター)によると、老後生活に対して不安を感じる人の割合は全体で80.9%にものぼる。さらに、民間企業に勤務する正社員や公務員に対して、その不安の具体的内容を聞いてみると、男性では「公的年金はあてにならない」(78.8%)についで、「退職金や企業年金があてにならない」(58.6%)が第2位となっている。女性では、「公的年金はあてにならない」(82.6%)、「日常生活に支障がある」(54.5%)についで、「退職金や企業年金があてにならない」(48.3%)が第3位となった。

 このように、老後に対して多くの人が不安を感じ、また、その大きな要因として「退職金や企業年金があてにならない」と答えている。先に述べたように、定年に近づきつつある50代では7割近くが退職金水準に不満を持っているにもかかわらず、自分の定年退職時の退職金額を認識している割合は6割程度であり、特に「退職金額を自分で計算したことがある」とした回答はわずかに3割である。

退職金制度に関する意識調査
(画像=第一生命経済研究所)
退職金制度に関する意識調査
(画像=第一生命経済研究所)

 確かに従業員側の意識の低さ、あるいは勉強不足ともいえるが、従業員はそのような点について勉強する場が与えられれば、積極的に参加したい意向を持っているのだろうか。

 この意向を探るべく、1つの事例として、まず“自分の勤務先に福利厚生の一環として、定年後の生活設計を教える講座(退職準備セミナー)があるか”を聞いてみた。その結果、「ある」との回答は23.1%と2割程度であった。従業員側に質問した結果なので、あくまで参考としての数値ではあるが、実施している企業は少ないことがわかった(図表5)。

 次に、このような“定年後の生活設計を教える講座があれば、参加したいか”という意向について尋ねてみた結果、図表6のようになった。

 参加したい(「有料でも参加したい」、「無料なら参加したい」の合計)との回答は72.0%と高くなっている。また、「有料でも参加したい」というように、勤務先でこのような勉強をする機会があれば、多少の費用がかかっても構わないとしている人も11.9%にのぼる。特に「有料でも参加したい」との回答は年代があがるにつれその割合が増加し、50代では21.8%となった。

 企業側も従業員教育(例えば、ライフプランセミナーや退職準備プログラムなど)を行い、従業員に対して老後生活や退職金への意識を高め、事前の準備の必要性を教えるような施策を行うことも必要である。

(2)確定拠出年金制度(日本版401k)について

 今回の調査で自分の退職金額の認識度が低いということがわかったが、そのような状況のなか、2001年10月に従業員側に自己責任原則が求められる確定拠出年金法が施行された。今後、自分の勤務先に導入される可能性もありうるこの制度について、従業員はどの程度認識しているのかを探ってみた。

退職金制度に関する意識調査
(画像=第一生命経済研究所)

①確定拠出年金制度を聞いたことがある割合
 “確定拠出年金制度を聞いたことがあるか”と質問したところ、65.0%の人が「聞いたことがある」と回答した(図表7)。2001年10月から確定拠出年金法が施行され、その前後にマスコミ等でも取り上げられた割には、低い認知度であると思われる。

 男女別にみると、男性では73.4%、女性では52.9%と、男女間で20ポイントの差がみられた。

②確定拠出年金制度の仕組みの理解度
 確定拠出年金制度を「聞いたことがある」と回答した人(n=301)を対象に“この制度の仕組みを知っているか”と質問したところ、理解している(「よく知っている」、「だいたい知っている」の合計。以下、「制度を理解」と表記)割合は29.9%と3割程度にとどまった。ただし、「なんとなく知っている」との回答まで含めると69.8%と7割近くに達する。このように、「なんとなく知っている」との回答が最も多く、確定拠出年金制度を聞いたことがある人の4割近くは、漠然と制度内容を把握していることがわかった(図表8)。

③確定拠出年金制度のメリット・デメリットの認知度
 先の質問で、「制度を理解」または「なんとなく知っている」と回答した人は実際に確定拠出年金制度の各メリット・デメリットをどの程度知っているかを調査した。

 最初に全体を俯瞰する意味で、確定拠出年金制度を聞いたことがある人(n=301)を対象に確定拠出年金制度の各メリット・デメリットの認知度を聞いてみたところ、図表9-1、2のようになった。

 メリットについてみてみると、「自分の退職金を自分で運用できる」ということは、75.7%と4人に3人は認知していたが、最も低い認知度であった「勤務期間が短くとも受給する権利が得られる」では、28.9%と3割を切っているように、ばらつきが大きい結果となった。

 デメリットについては、「原則60歳までは退職金を引き出すことができない」についての認知度は、22.9%と極めて低い結果であったが、その他の項目については、7割以上の認知度となった。

退職金制度に関する意識調査
(画像=第一生命経済研究所)
退職金制度に関する意識調査
(画像=第一生命経済研究所)
退職金制度に関する意識調査
(画像=第一生命経済研究所)
退職金制度に関する意識調査
(画像=第一生命経済研究所)
退職金制度に関する意識調査
(画像=第一生命経済研究所)

 また、男女別にみても各メリット・デメリットの認知度には差がみられない。

 次に、先ほどの確定拠出年金の「制度を理解」していると回答した層と「なんとなく知っている」と回答した層に分けて分析をしてみた。その結果が図表10-1、2である。

・メリットの認知状況
 「制度を理解」している層では各項目ともおおむね6割以上認知していたが、「なんとなく知っている」と回答した層では各メリットの項目間でばらつきがみられた。

 「なんとなく知っている」層では「確定拠出年金というものは自分で運用でき、その運用がうまく行けば想定以上の退職金を手にすることができる」という点については7割以上の認知度となった。しかし、「勤務先が倒産しても、それまでに勤務先から拠出された掛金(年金資産)は確実に従業員のものとなる」(40.8%)、「税制上の優遇措置がある」(34.2%)、「勤務期間が短くとも受給する権利が得られる」(25.0%)については、低い結果となった。

 特に、「退職しても、転職先で確定拠出年金を導入していると、自分の退職金口座を持っていける」というポータビリティ(携帯性)については、労働市場の流動化が想定される状況下では画期的内容ともいえるが、45.8%と認知度はあまり高くない。

・デメリットの認知状況
 また、デメリットである「原則60歳までは退職金を引き出すことができない」についての認知度は、「制度を理解」している層でも4割程度で、「なんとなく知っている」層では2割に過ぎない。

 この分析の結果、確定拠出年金制度を聞いたことがある人のなかで4割と最も多くを占めた「(制度を)なんとなく知っている」と回答した人は、「確定拠出年金とは、自らリスクを負って自分で運用ができ、その結果いかんで退職金額は増減する」ということは認識しているが、その他の特徴(メリット・デメリット)については認識が低いことがわかった。

4.まとめ

 老後に対して多くの人が不安を感じ、その大きな要因に「退職金や企業年金があてにならない」をあげ、勤務先の退職金水準について不満を持つ人が多いが、今回の調査の結果、自分で退職金額の計算をした経験者が少ないということがわかった。以上のことからも従業員は退職金制度に対して関心は高いが、意識や認識の甘さが表れた結果となった。

 2001年10月より施行された確定拠出年金制度を聞いたことがある割合は65%と認知度は低い。また、確定拠出年金を「聞いたことがある」と回答した者の4割を占める「なんとなく知っている」層では、「自分の退職金を自分で運用でき、その運用結果が自分の退職金額となる」という点は認識が高いものの、これ以外の特徴に関しては認識が低いことがわかった。

 このような状況では、確定拠出年金において従業員側に求められる「自分の退職金を自分で運用するという『自己責任』という意識」は低いと思われる。しかし、確定拠出年金制度だけではなく、すでに始まった支給開始年齢の引き上げや、2004年の年金制度改革で想定される公的年金の給付水準のさらなる引き下げなどもある。このように、従業員は今後の人生設計(特に、老後生活)の不安に対する自己防衛の第一歩として、退職金に対する意識や知識を高める努力が必要とされる。一方で、企業側も従業員の不満や不安を軽減するような施策(従業員の人生設計に対する教育制度など)を取る必要があると思われる。(提供:第一生命経済研究所

業務推進部 副主任研究員 岸晃司