目次
1.本研究の問題意識と目的 2.日本の出入国管理の現状 3.外国人労働者と移民の受け入れに関する意識 4.外国人の受け入れのあり方に関する国民的議論を
要旨
①日本の外国人政策の特徴は、日本人(民族)/外国人、専門的・技術的労働者/単純労働者という区分を行い、本来その中間に存在する永住外国人や一般技能労働者についても、受け入れに消極的または排除するスタンスをとる二分法の論理にある。
②オールドカマー(第二次大戦前からの来住者)の代表である在日韓国人は、民族内のインフォーマルネットワークによるサポートを活用して、日本社会で一定の成功を収めている。
③ニューカマー(主に1970年代末以降の来住者)の中で、積極的受け入れを図っている「専門的・技術的労働者」は2000年末時点で約15.5万人に過ぎず、国際的な人材獲得競争の面で、日本は出遅れている。逆に、原則として受け入れない方針の単純労働者については、合法的な日系人から非合法な不法就労者まで、さまざまなルートでの供給が行われ、雇用調整が容易で安価な労働力として利用されており、建前と実態の乖離が大きい。
④受け入れに消極的な日本の現状を踏まえ、外国人受け入れに関する生活者の意識を探るため、アンケートを実施した。
⑤バブル末期の人手不足に起因した「不法就労者」や「単純労働者」へのニーズが低下したこと、外国人犯罪についてのネガティブなイメージ、などの影響を受け、外国人に対する見方は全般に厳しくなっている。
⑥「専門的・技術的労働者を積極的に受け入れて、単純労働者は原則として受け入れない」、「不法滞在者は排除する」という、現行の政策に対する支持は全体に高い。しかし、移民受け入れや不法就労者への在留許可の拡大についてもそれぞれ3割前後の支持があり、外国人受け入れの方向性に関する国民的コンセンサスは確立されていない。
⑦外国人によるサービス提供についての利用意向をたずねたところ、日本語能力の高さを条件とする意見が多く、看護・介護・家事・保育などヒューマンタッチなサービスほどその傾向が強かった。
⑧行政が提供している外国人に関する情報は、質・量の両面で問題がある。外国人受け入れの是非に関する国民的議論を進める前提として、多面的で偏りのない情報の提供が求められる。
⑨日本が受け入れを望む外国人の定着を図るには、生活・経済面での差別解消など、外国人が暮らしやすい社会を構築する必要がある。
キーワード:外国人労働者、移民、二分法
1.本研究の問題意識と目的
経済のボーダレス化の進展により、「モノ」(商品)、「カネ」(資本)、「情報」に続いて「ヒト」(労働力)が国境の垣根を越えて移動する時代に突入しており、国際移住機構(IOM)の「世界移住報告」によれば、1年以上自国外に住む長期移住者が、2000年には全世界で1億5,000万人に達するという。
一般に、「移民」とは「永住を前提として入国・滞在する者」を指す。IT技術者をはじめとする国際的な人材獲得競争が激化する中、伝統的移民国家であるアメリカ・カナダ・オーストラリアは、90年代を通じて多くの定住移民を受け入れることで、国際競争力の向上を図ってきた。
一方、EU諸国は、東西冷戦終結後の東欧からの大量の移民流入に対応し90年代に移民規制の強化を図った。しかし、ここへきてドイツが新移民法の制定を目指すなど、「優秀」な移民を積極的に受け入れる政策への転換を図っている。
巨大な人口を有し、かつ経済的に発展途上にある国が周辺に多い日本は、巨大な潜在的人口流入圧力を抱えているため、従来、外国人の受け入れに消極的な政策を採ってきた。しかし、今世紀には世界に先例の無い少子高齢社会を迎えることから、労働力の大幅な減少の影響が懸念されており、外国人労働者や移民の受け入れに対する注目が、バブルによる人手不足の時代以来の高まりを見せている。
そこで、外国人受け入れの現状を分析したうえで、生活者意識についてアンケート調査を行った。それらを踏まえて、日本における外国人政策の課題・問題点を明らかにすることが本研究の目的である。
2.日本の出入国管理の現状
(1)在留資格制度の概要
外国人が日本に入国して合法的に在留するためには、「出入国管理及び難民認定法」(以下「入管法」という)に定められた27種類、または入管特例法による「特別永住者」の在留資格*1を取得する必要がある。在留資格には、活動に制限の無い「身分または地位に基づく在留資格」と、活動できる内容が定められている「活動に基づく在留資格」があり、さらに就労の可否等細かく区分されている(図表1)。2000年末現在で、外国人登録者数は約169万人と過去最高を更新し、日本の総人口の1.33%を占めている。
(2)日本の出入国管理方針
トーマス・ハンマーは、西欧諸国に新たに入国した場合に移民が出会う「3つのゲート」論を提起しており、第1に短期滞在許可の入管審査、第2に永住許可の審査、第3に帰化の審査、という3つの関門を通過するとしている(近藤,2001)。
アメリカなど伝統的移民国家では、移民プログラムに基づいて入国時点から永住許可を与えることで最初から第2の関門に進む移民がいるが、ヨーロッパ諸国および日本では、永住許可の審査について数年の滞在期間を経過することを要件としている。
ところが、日本では永住許可申請の居住要件が原則10年以上なのに対し、帰化申請の居住要件は5年以上という逆転現象が起きており、これは、外国人に永住権を認めることに消極的な姿勢を表している(近藤,2001)。また、外国人労働者の受け入れについては、「専門的、技術的分野の外国人労働者の受け入れをより積極的に推進する」一方で、「いわゆる単純労働者の受け入れについては……十分慎重に対応する」という政策方針を堅持している(労働省『第9次雇用対策基本計画』、1999年8月)。
このように、日本の外国人政策の特徴は、二分法的発想に基づく排除の論理にある。日本人(民族)/外国人、専門的・技術的労働者/単純労働者、という区分を行い、本来その中間に存在する永住外国人や一般技能労働者についても受け入れに消極的または排除するというスタンスを採ってきた。
一方で、従来法務省は、不法滞在者への「在留特別許可」を、日本国籍保持者の配偶者・養育者や朝鮮半島からの密航者以外ほとんど与えていなかったが、2000年2月に初めて、日本社会に生活基盤を有し学齢期のこどもを抱える外国人家族に対し与えた。また、法務省が2000年3月24日に策定した『第2次出入国管理基本計画』では、「現行の在留資格に当てはまらない形態での就労」に関し在留資格の整備など今後前向きに対応していく方針をうち出し、「外国人の単純労働者を制限してきた従来の入管政策の転換」を掲げるなど、二分法的排除の論理を見直す動きも一部に表れてきたが、法制面などにおける明確な政策転換は行われていない。
(3)外国人の現状
日本に来住した時期で外国人を分けると、第二次大戦前に来住したオールドカマーと、主に1970年代末以降に来住したニューカマーとに大別される。代表的なオールドカマーとニューカマーの現状につき、以下に分析を行った。
1)在日韓国人の現状-SSC調査を通して オールドカマーの代表である在日韓国・朝鮮人については、日本語が母語化しており、最近では日本人との結婚が8割を超えるなど、日本社会への同化が進んでいる。日本人との結婚により、生まれたこどもが日本国籍を取得することや、年間1万人近くが帰化していることもあり、外国人登録者数は減少を続けている(坂中,2001)。
1995~1996年に、在日韓国人成人男性*2を対象に実施された「在日韓国人の社会成層と社会意識全国調査」によれば(金,1997)、日本人男性*3と比べ、教育年数と職業威信スコア*4で差が無く、収入では上回っていた。外国人としてのさまざまなハンデを抱えた在日韓国人男性が、日本人男性と同レベルに到達した要因として、民族集団内のインフォーマルな互助ネットワークによるサポートが重要であり、このインフォーマルネットワークの強さが、在日韓国人の自営業率や民族系企業への就業率の高さにつながったと分析している。
また、政府統計に基づく在日韓国・朝鮮人の分析によれば、在日3世が労働市場に参入しはじめた1980年代半ばから急速にホワイトカラー化が進行しており、その背景に在日3世以降の高学歴化があるとしている(勇上,2000)。
在日韓国人は、日本の植民地時代に朝鮮語使用禁止や創氏改名を強要された不幸な歴史や、同じ漢字文化圏に属するという特殊性があり、現在、定住化が進みつつあるニューカマーと同列に論じることはできないが、閉鎖的と言われる日本社会においても、移民や外国人定住者が成功し得ることを示した意義は大きい。
2)専門的・技術的分野の労働者の受け入れ状況 ニューカマーの中で、日本が積極的に受け入れを図っている専門的・技術的外国人労働者は、2000年末時点で、約15万5千人にすぎない(図表1)。この数は、アメリカが非移民の専門職労働者に発給するH-1Bビザ枠の約1年分(2000年度は11万5千人、2001年度からは19万5千人)にすぎず、国際競争力強化という観点からは、十分な人数を確保しているとは言い難い。
3)単純労働者の受け入れ状況 原則として受け入れない方針の単純労働者については、バブル期以降の政策変更に伴い、ニューカマーの中で、以下のような主役の変遷が起こっている。
①不法滞在者 偽造旅券や密入国など、非合法的手段を使って入国・上陸した「不法入国者・不法上陸者」(以下、「不法入国者」という)と、合法的に入国し、許可された在留期間を過ぎても残留している「不法残留者」とを合わせ、「不法滞在者」と呼ぶ。バブル期に、人手不足を補うため大量に日本に押し寄せ、ストックベースではバブル崩壊直後の1993年にピークを迎え、不法残留者だけで約30万人に達した。近年は、日系人等の合法的外国人労働者に雇用を切り替える傾向が強まっており、法務省推計によれば、2001年初め時点で不法入国者約3万人、不法残留者約23万人の合計約26万人と、漸減傾向にある。
不法滞在者は就労を認められていないが、実際には2000年に入管法違反により退去強制手続きを執った51,459人のうち44,190人(85.9%)が不法就労を行っており、その多くは建設作業者・工員・ホステスなどの単純労働に従事していた。
②日系人 1990年6月に施行された改正入管法により、日系2・3世とその配偶者を主対象とする「定住者」の資格が新設され、ブラジル・ペルー出身の日系人が多数日本に押し寄せた。バブル崩壊後は、賃金水準の低下により一時のブームは去ったが、家族の呼び寄せが増える傾向にある。1999年末時点で日系人労働者は推計2 2 万人に達している( 警察庁等,2001)。
日系2・3世はほとんど日本語がしゃべれないこともあって、本国での学歴・職歴等は高いにもかかわらず、単純労働に就くケースが多い(労働省職業安定局,1997)。
③留学生・就学生 留学生・就学生については、資格外活動の許可を受けて行うアルバイトを除いては、就労を認められていない。しかし、1980年代半ば以降に「日本語学校」が乱立して、就学生を装った不法就労者が増加し、一時的に、「就学」の在留資格にかかわる不法残留者数が、「就学」の外国人登録者数の6割を占める事態が生じた。この偽装就学生問題の解決を図るため、1994年11月に審査・認定を厳格化した結果、1995年以降は、「就学」の在留資格にかかわる不法残留者数は一貫して減少傾向にある。
④研修生・技能実習生 1982年に研修生の在留資格が設けられ、技能実習制度については1993年に創設され、1997年には滞在期間が延長された。合計して最長3年の日本滞在が認められたことで、「研修・技能実習制度」に基づく外国人は、1990年代を通して着実に増加してきた。「研修生」は、実態は大部分が単純労働者であるにもかかわらず就労とみなされず、生活実費としての「研修手当」しか支払われていないことが問題とされている。また、「技能実習生」は、労働者として賃金が支払われているものの、「研修」先と同じ機関で働くことが義務づけられ、職業選択の自由が無いなどの問題がある。このため、「研修・技能実習制度」は、安価な単純労働者受け入れのためのローテーション政策として機能しているとの批判を、一部から受けている。
永住権を有する外国人を別にしても、外国人単純労働者は推計で50万人を超えており、原則として受け入れないとする政府方針との乖離は大きく、その背景には製造業の中小企業を中心とする根強い外国人雇用ニーズがある。被雇用者の中心は、不法滞在者から合法的な日系人に移行する傾向が見られるものの、不法滞在者、留学生・就学生、研修生・技能実習生など、多様なルートを通じて労働力の供給がなされているのが実態である。
(4)外国人受け入れ上の問題点
日本に在留している外国人は、以下のようなさまざまな問題を抱えている。
1)就労 外国人の単純労働者は、不安定な雇用状態を余儀なくされている。日系人は、入国や就労に際しブローカーを利用する割合が高く、派遣・請負などの形態による間接雇用が多い。また、外国人単純労働者は、直接雇用される場合でも期間を定めた有期雇用が中心で、いずれにしても常勤の正社員雇用からは排除され、雇用調整が容易で安価な労働力として利用されている。
2)社会保障 1990年6月に施行された改正入管法による不法就労対策の強化を背景に、不法滞在者や定住外国人に対する社会保障の制限がうち出された(駒井ら,1999)。不法滞在者は、社会保障制度のうち、国民年金、国民健康、介護、雇用(失業)などの保険加入が認められず、生活保護の支給も受けられない。
また、健康保険については不法滞在者を含めた外国人労働者の加入が認められているものの、雇用主や外国人自身が保険料負担を嫌って加入を避けるケースも多い。外国人の医療保険への加入率は、日本人従業員に比べて低く、格差が大きい*5。このため、未払い医療費の発生を恐れて診療拒否を受けるケースなど、深刻な問題が発生している。
3)教育 欧州などの事例をみると、外国人労働者の2・3世は、高い教育を受けて社会的に統合された層と、言語も不十分で職業的にも底辺を構成する層に両極化が進んでいる(井口,2001)。
日本では、外国籍のこどもを小・中学校に通わせる義務が無い。また、学習言語としての日本語の習得が不十分で授業についていけなかったり、日本の教育制度になじめない、などの理由で不就学の状態に陥るケースも多い*6。97%近い高校進学率を誇る日本社会において、外国人子女に関する教育格差は看過することのできない問題である。
4)外国人犯罪 ピッキングによる空き巣犯を中国人グループと結びつけて考える傾向など、犯罪は外国人問題の負の側面として意識されており、来日外国人、特に不法滞在者の犯罪が多いことが問題とされてきた(図表2)。外国人による刑法犯の大きな特徴は、複数犯による犯行が検挙件数の半数を超え、犯罪の組織化傾向が顕著になっていることである。この背景には、犯罪目的で出入国を繰り返す国際窃盗団の存在や、「蛇頭*7」など密入国をビジネスとする国際犯罪組織と不法入国者との結びつきが挙げられ、これらの職業的犯罪者の存在が、不法滞在者による犯罪発生率を押し上げている。
日本の現状は、単純労働者が専門的・技術的労働者を数的にはるかに上回るなど、建前と実態の乖離が目立つ。また、就労・社会保障・教育といった社会生活上の重要な場面で差別を受けている外国人、特に単純労働者とその子女の社会的底辺化を招いている。
また、外国人犯罪がマスコミにセンセーショナルに取り上げられることによる、外国人全般に対するイメージの悪化も懸念されている。
(5)「外国人労働者問題に関する世論調査」
総理府(現内閣府)では、「外国人労働者問題に関する世論調査」(以下「世論調査」という)を、1988年2月、1990年11月、2000年11月の3回にわたり実施している。1990年と2000年の世論調査の時系列比較からは、以下のとおり外国人に対する見方が厳しくなる傾向が見受けられた。
①外国人の増加、日本社会への定着により、外国人がより身近な存在となり、外国人労働者問題に対する関心は、ブームとなったバブル期と変わらない水準を示している。
②バブル末期の1990年時点に比べ、人手不足を理由とした単純労働者や不法就労者へのニーズは弱まっている。ただし、少子高齢化を背景とする将来の労働力不足に対する危機感は高い。
③不法就労者について「良くないことだ」と考える人、その対応について「すべて強制送還する」とする人が、それぞれ5割近くに達しており、不法就労者に対する意識は一段と厳しくなっている。
④何らかの形で外国人の単純労働者を認めるよう取り扱い緩和を望む意見が依然7割近くと多数を占めているが、「受け入れを認めない現在の方針を続ける」が2割を超え、単純労働者に対する意識も厳しくなっている。
3.外国人労働者と移民の受け入れに関する意識
(1)アンケート調査の概要
これまでに述べてきた、日本の外国人政策と外国人の現状に関する問題意識に基づいて、2001年1~2月に「外国人労働者と移民の受け入れ」に関するアンケート調査(以下「本調査」という)を行った。調査方法は以下のとおりである(図表3)。
(2)外国人に対するイメージ、意識
まず、外国人が身のまわりに増加していると感じる(「かなり感じる」と「やや感じる」の合計、以下同じ)人は、65.8%と全体の3分の2近くに達した(図表4)。年代別では20代で47.1%と半数に満たないのに対し、50代(77.3%)・60代(77.9%)では8割近くを占めており、年代が高い人ほど外国人が増えていると感じている。
次に、生命保険文化センターが行った「日本人の生活価値観調査~1991」(生命保険文化センター,1992)を参考に、外国人との人的交流に関する次の4つの考え方についてたずねてみた(図表5)。
積極的に外国人の友人をつくりたい →「友人」 職場に外国人の同僚がいても抵抗を感じない →「同僚」 自分の家の隣に外国人が住んでも抵抗を感じない →「隣人」 自分の兄弟姉妹やこどもが外国人と結婚してもかまわない →「結婚」
肯定派(「そう思う」+「まあそう思う」の合計、以下同じ)の割合は、「同僚」(76.2%)「隣人」(65.6%)「友人」(56.4%)「結婚」(53.3%)の順で高く、いずれも半数を超えた。「同僚」「隣人」として外国人が周囲に存在するという、受動的な状況への抵抗感は少ないが、「友人」をつくることや家族の「結婚」を了解するといった行動や判断を迫られるケースでは、否定派(「あまりそう思わない」+「そう思わない」の合計、以下同じ)も4割を超えている。
外国人との交流に関する意欲の強さについて、上記4質問に基づき4区分し、年代による傾向を見てみた(図表6)。全般的には、年代が若いほど交流意欲が強い。ただ、40代では最も交流意欲が強い層が17.9%と、平均(27.2%)を10ポイント近く下回っていることが目につく。
次に、イメージする外国人労働者像をたずねてみた。外国人労働者という言葉でもっとも強く思い浮かべる地域は「東南アジア・南アジア系」(44.0%)であり、以下「東アジア系(韓国・中国・台湾等)」(22.9%)「中南米系」(14.4%)「西アジア系」(12.8%)の順で、ここまでで全体の94.1%と大部分を占めている(図表7)。
* ライフデザイン研究所が1999年に行った調査(下開,2000)で、「外国人」でイメージする地域を複数回答でたずねた結果は、「北米」(90.7%)、「西欧」(71.4%)、「東アジア系」(65.5%)、「東南・南アジア系」(60.7%)、「西アジア系」(43.7%)、「中南米系」(43.1%)の順で、本調査と異なり北米、ヨーロッパが上位を占めていた。労働者というイメージが、北米、ヨーロッパとは結びつかず、アジア、中南米と結びつきが強い、といえる。
(3)外国人労働者に関する意見
外国人労働者に関して一般によく言われる、肯定的な4意見(図表8)、否定的な7意見(図表9)のそれぞれについて回答内容を、「そう思う」=3点、「まあそう思う」=2点、「あまりそう思わない」=1点、「そう思わない」=0点で点数換算し、肯定度と否定度(点数が高いほどその傾向が強い)を算出してみた。その結果、全体平均では、肯定度が1.55、否定度が1.59と、大きな差は見られなかったが、最も点数が高かったのは、否定的意見の「①スラム化したり犯罪が増える」であり、外国人犯罪に対するネガティブイメージは強い。
肯定度(4 意見の平均値)、否定度(7 意見の平均値)、およびその差(=肯定度-否定度)について属性別の傾向をみると(図表10)、男性では、40代は差が-0.41と否定的傾向がきわだって強く、60代は肯定度(1.80)、否定度(1.74)ともに高い。女性では、30代の肯定度が1.37と低いこと以外、年代による差は比較的少ない。また、「外国人が増えている」と感じている人ほど否定度が高く(肯定度はあまり変わらない)、「外国人との交流意欲」が高い層ほど、肯定度が高く否定度は低い傾向が見られた。
少子高齢化により、将来的な人手不足が懸念されるサービス業の各分野について、「技術が十分であれば、外国人が提供するサービスを利用したいか」とたずねたところ(図表11)、「利用することに抵抗を感じる」割合が3割近くと高いのは「①家政婦」「②在宅での身体介護」「③在宅での家事援助」で、逆に1割に満たず低いのは「⑫飲食店の店員」「⑪美容師・理容師」「⑩コンビニの店員」である。外国人が勤める店に行くことに抵抗は感じないが、自宅に外国人が入り込むことに抵抗が強い傾向が見てとれ、特に女性でその傾向が強い。
また、「カタコトしか通じない外国人でも利用したい」割合が低いのは、上記①~③と「⑦保母・保父」「⑧介護施設での介護」「⑨病院での介護」でいずれも2割以下であった。言葉によるコミュニケーションの必要性は、看護・介護や家事・保育などのヒューマンタッチなサービスほど強いことがわかった。
* 2000年の総理府世論調査では、介護労働に携わる外国人受け入れについてたずねており、受け入れを認める42.8%/受け入れを認めない48.3%という割合であったが、受け入れを認めない理由(複数回答)として最も多かったのは、「介護には日本語でのコミュニケーション能力が必要である」の69.5%であり、本調査と整合性のある結果を示している。
(4)外国人受け入れに関する賛否
積極的受け入れ策を採っている専門的・技術的労働者については、「条件を緩和して、受け入れを拡大するべきだ」が、50.9%、「現在の方針を続けるべきだ」が38.5%と、受け入れに肯定的な意見が多く、「受け入れを縮小するべきだ」はわずか4.8%にとどまった(図表省略)。
原則として受け入れない政策を採ってきた移民については、「受け入れを拡大するべきだ」が3分の1強(33.5%)に対し、「現在の方針を続けるべきだ」が48.6%と半数近くを占め、「受け入れを縮小するべきだ」は6.4%にすぎない(図表12)。属性別では、「受け入れを拡大するべきだ」は男性既婚者で39.2%と高くなっている。
不法就労者に対する在留許可については、「一切許可すべきではない」が28.0%、「個別限定的に許可すべき」が41.3%、「一定期間の滞在や生計基盤が確立している場合には許可すべき」が27.0%と意見が分かれた(図表13)。「一切許可すべきではない」とする人の割合は、60代は36.4%と20代(18.3%)の倍近くに達し、年代が高くなるほど厳格な取り扱いを求める傾向が強い。
* 2000年の総理府世論調査では、不法就労者へのアムネスティ付与の是非についてたずねており、「付与しない方がいい」という意見が22.1%と「付与した方がよい」の17.0%を約5ポイント上回った。一方で、「一概に言えない」(49.2%)、「わからない」(11.7%)といった、意見を決めかねている人が最も多かった。
また、「両親がともに外国人のこどもが日本で生まれたら、日本国籍取得を認めるか」については、「認める」という出生地主義が55.9%と半数を超え、「認めない」の27.5%を大きく上回り、こどもの受け入れには受容的な傾向を示している(図表14)。なお、「認めない」とする比率は、男性(33.6%)が女性(22.1%)を11.5ポイント上回っている。
(5)外国人の人権・社会保障
日本に居住している外国人の人権の取り扱いについては、「同じような権利が認められないことはやむを得ない」が53.0%と半数を超えており、「同じような権利が認められるべきだ」とする40.6%を上回っている(図表15)。「同じような権利が認められるべきだ」とする人の割合は、20代は57.7%と60代(28.0%)の倍以上に達し、若い人ほど、外国人の人権を重視する傾向にある。
さらに、個別具体的な生活・労働上の権利について外国人に認めるべきかを、不法就労者と合法的な居住者に分けてたずねた(図表16)。
代表的な回答パターンとしては、「合法的な外国人居住者についてのみ認める」が7~8割と多数を占め、「不法就労者を含めすべての外国人居住者に認める」が2割前後、「合法的な外国人居住者であっても認めない」は4%未満という分布を示している。
項目別では、以下の2点が特徴的な傾向として挙げられる。第1点は、「⑨生活保護の受給」、「⑧失業保障の受給」について、「不法就労者を含めすべての外国人居住者に認める」は約5%か、それ以下で、「合法的な外国人居住者であっても認めない」が2割弱を占めることである。生計基盤が確立できていない外国人に、社会的コストをかけてまで支援を行うことへの抵抗感が見てとれる。2点めは、「①子女が教育を受ける権利」を「不法就労者を含めすべての外国人居住者に認める」とする意見が3割を超え、こどもに対しては寛容な傾向が見受けられることである。
なお、外国人労働者が生活するうえでかかる公的サービス費用を、負担すべき主体をたずねたところ、「主に受け入れ企業が負担すべき」が37.6%と最も多く、「主に外国人労働者自身が負担すべき」の23.4%と合わせ、直接的な受益者に負担を求める意見が6割以上を占め、「国民全体で負担すべき」は31.9%であった(図表省略)。
(6)アンケート結果のまとめ
本調査で示された「外国人受け入れ」に関する生活者の意向を整理すると、以下のような傾向がうかがえる。
1)肯定的な意向が強い面 ・積極的受け入れを推進する方針を採っている専門的・技術的労働者について、「現在の方針を続ける」または「条件を緩和して受け入れを拡大する」とする意見が、合わせて約9割を占めた。
・日本で生まれた外国人のこどもについて「日本国籍の取得を認める」とする出生地主義を支持する意見が5割を超え、また「子女が教育を受ける権利」についても「不法就労者を含めすべての外国人居住者に認める」が3割を超えるなど、こどもには寛容な傾向を示した。
2)否定的な意向が強い面 ・外国人労働者に関する意見で、最も支持が高かったのは、「スラム化したり犯罪が増える」という外国人犯罪に関するネガティブイメージであった。
・外国人の人権について「認められないこともやむを得ない」が半数を超えた。個別の権利でみると、「生活保護」「失業保障」を除くと、合法的な滞在者には95%以上が認めているが、不法就労者には2割前後しか認めていない。
3)意見が分かれた面 ・「移民の受け入れ」について、消極的な「現在の方針を続けるべきだ」または「縮小するべきだ」とする意見が合わせて5割を超える一方で、「受け入れを拡大するべきだ」とする意見も3分の1強を占めた。
・不法就労者に対する在留許可については、「個別限定的に許可すべき」が4割強と最も多かったが、「一切許可すべきではない」と「一定期間の滞在や生計基盤が確立している場合には許可すべき」もそれぞれ3割弱を占め、大きく意見が分かれた。
4)その他 ・「外国人労働者」でイメージする地域は、アジア・中南米である。
・若い世代ほど、外国人との交流に積極的で、あまり外国人が増えているとは意識せず、不法就労者への在留許可に寛容である、といった傾向が見受けられる。
・サービス提供を受ける際、自宅に外国人が入り込むことには抵抗感が強い。また、看護・介護・家事・育児といったヒューマンタッチなサービスでは、高い日本語能力を求める傾向がある。
4.外国人の受け入れのあり方に関する国民的議論を
(1)国民的議論の必要性
本調査および2000年の総理府調査で示された生活者の意向には、外国人犯罪に関するネガティブなイメージが色濃く反映しており、日本社会に役立つ専門的・技術的労働者については積極的に受け入れるとする一方で、不法就労者や単純労働者に対する見方は厳しさを増している。現時点では、外国人受け入れの方向性に関する国民的コンセンサスは確立されていない。
とは言え、従来の二分法的発想による排除の論理に基づき問題の先送りを続ければ、建前と実態の乖離はますます大きくなり、さらに、ダブルスタンダードを用いて、外国人を使い捨ての安価な労働力として日本が利用しているとの国際的批判を招くことにもなろう。
今世紀に世界に先例の無い少子高齢社会を迎える日本は、今こそ外国人受け入れに関する国民的議論を行い、コンセンサスを形成すべき時が来ていると言えよう。
(2)外国人受け入れに関する情報の整備・充実を
本調査の自由回答の中でも、「今まであまり考えたことがなかった」「身近な問題でなく難しかった」という意見がかなり寄せられており、国民的コンセンサスを形成する前提として、多面的で偏りのない情報を広く国民に周知することが求められる。その点、日本では統計・理論的根拠に乏しい漠然とした外国人脅威論がセンセーショナルに取り上げられる傾向が強い。
ここでは、外国人受け入れを否定する大きな論拠となっている「外国人犯罪」と「社会的コスト」に関する情報について、問題点を指摘しておきたい。
1)外国人犯罪 警察庁は、『来日外国人犯罪の現状(平成12年中)』の中で、1990年からの10年間で来日外国人犯罪の検挙件数・検挙人員が大幅に増加していること、刑法犯と特別法犯(入管法・外登法を除く)検挙人員に占める不法滞在者の割合が、来日外国人の27.3%を占めること、また凶悪犯・薬物事犯における不法滞在者の割合が高いことなどから、「犯罪の温床となる不法滞在者」という分析結果を導き出している。
しかし、不法滞在者の犯罪検挙者数は、刑法犯と特別法犯(入管法・外登法を除く)2,110人、凶悪犯159人であり、確かに日本人に比べ割合は高いが、約26万人の不法滞在者の中では一部にすぎないとも考えられる(図表2)。
また、厳しい入国管理をかいくぐるため、「蛇頭」などの国際犯罪組織に高い手数料を払って入国するケースも多い不法入国者と、入管法違反の摘発におびえながら人目を恐れて暮らす人も多い不法残留者とでは、動機・状況に大きな違いがある。これらを一くくりにして「犯罪の温床となる不法滞在者」と決めつけ、また、マスコミがセンセーショナルに取り上げることは、ミスリードを招きかねない。
2)外国人受け入れの社会的コスト 本調査では、外国人労働者にかかる公的サービスについて、直接的な受益者である企業や外国人労働者に負担を求める意見が強く、この背景には、外国人労働者の受け入れは社会的コストが大きいという一般認識が色濃く表れている。
この認識の論拠の一つが、労働省(現厚生労働省)が92年6月にまとめた『外国人労働者受け入れの現状と社会的費用』である。外国人の製造業生産工程従事者を対象に、出稼ぎ期(単身)は、社会的メリット(税収、社会保険料)が社会的コスト(社会保険給付など)を上回るが、定住期(夫婦二人)、統合期(夫婦とこども二人)には、コストがメリットを大きく上回ると結論づけている。
この試算については、井口泰が「公的年金保険料の徴収額を試算に加えれば、費用超過をまかなって余りある。報告書の結論は、『企業における雇用管理や生活面の援助を進めて、社会的費用の増加を抑制すべきだ』というものであって、外国人労働者を受け入れるべきでないという主張ではない」という根本的な指摘を行っている(井口,2001)。
移民コスト研究について、90年代のアメリカは「科学的」躍進を遂げ、精密なデータ、事実、方法論が多数報告されている(NIRA,2001)。外国人受け入れのあり方を論じるうえで、コスト分析は基礎となる資料であり、科学的分析に基づく冷静な議論が望まれる。
「犯罪の温床となる不法滞在者」や「外国人労働者の受け入れは社会的コストが大きい」といった言説が一人歩きする一方、不就学児童・生徒数や高校進学率など基礎的な統計データが未整備な現状では、外国人受け入れのあり方に関する国民的な議論を深めることは困難であり、情報環境の整備が急務である。
(3)今後に向けて
日本では今まで、外国人受け入れのあり方について、労働力としての側面のみを重視して議論を行ってきたきらいがある。
しかし、積極的受け入れを図っているはずの専門的・技術的外国人労働者が、日本に来住・定着しないのは、日本の社会が、外国人をその背景・文化も含めて全人的に受け入れる姿勢に欠けていたことが大きな要因であろう*8。
日本が受け入れを望む外国人の来住・定着を促進するには、外国人にとって暮らしやすい社会の形成が不可欠であり、そのためには、教育・社会保障など生活・経済面での外国人差別の解消、こどもの日本国籍取得に関する出生地主義の適用、永住権取得に要する居住年数の短縮など、受け入れ環境の整備が求められよう。
また、外国人受け入れに関する国民的議論を深めるためには、行政はもちろんのこと、マスコミや研究者も、2001年4月に施行された情報公開法などを活用したうえで、国民に多面的な情報を提供する責務がある。筆者自身、今後の研究テーマとして取り組んでいきたい。(提供:第一生命経済研究所)
【脚注】 *1 「特別永住者」は「日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法」(「入管特例法」)で定めた資格であり、主な対象者は戦前から日本に在住している在日韓国・朝鮮人である。
*2 SSC調査は、在日本大韓民国民団が保有する韓国国民登録台帳を用い、在日韓国人成人男性をサンプルとして抽出しており、女性および在日朝鮮人は調査対象となっていない。
*3 日本人男性については、10年に1回行われている「社会階層と社会移動全国調査(略称SSM調査、直近は1995年に実施)のデータを使用し、対比を行っている。
*4 1995年のSSM調査では、威信調査を同時に実施している。威信調査では、56個の職業について調査対象者に5段階評価をしてもらい、その平均値を職業威信スコアとしている。(佐藤,2000)
*5 市区町村の中で日本一ブラジル人人口の多い静岡県浜松市が1999年7月~10月に行った「外国人の生活意識実態調査」では、市内に在住する18歳以上の南米日系人を対象に健康保険への加入状況をたずねている。その結果、「国民健康保険」(18.1%)「社会保険(被用者保険)」(16.5%)への加入率は低く、「入っていない」が50.9%と過半数を占めていた。また、健康保険に加入していない理由としては、「会社が加入させてくれない」が47.8%と最も多かった。(浜松市,2000)
*6 浜松市では、まったく学校教育を受けていない学齢の外国人子女が、2001年5月現在で全体の34.7%にも達している。
*7 「蛇頭」は諸外国への密入国を中心に活動する中国の国際犯罪組織。密航請負料の取り立てをめぐり、殺人、誘拐等の凶悪事件を引き起こしている。
*8 1970年代以降、日本の外国人政策立案の中核をになってきた法務省の坂中名古屋入国管理局長は、「今の日本は、外国人の才能を引き出して活用するような社会でない」ことを認めている。(坂中,2001)
【参考文献】 ・井口泰,2001,『外国人労働者新時代』ちくま新書 ・金明秀,1997,『在日韓国人の社会成層と社会意識全国調査報告書』在日韓国青年商工人連合会 ・警察庁・厚生労働省・総務省,2001,『不法就労等外国人対策について』 ・警察庁来日外国人犯罪対策室,2001,『来日外国人犯罪の現状(平成12年中)』 ・駒井洋・竹澤泰子・渡戸一郎,1999,『新来外国人の行政需要と自治体の国際化施策との関連に関する研究』 ・桑原靖夫編,2001,『グローバル時代の外国人労働者』東洋経済新報社 ・近藤敦,2001,『外国人の人権と市民権』明石書店 ・財団法人入管協会,2001,『在留外国人統計(平成13年版)』 ・坂中英徳,2001,『日本の外国人政策の構想』日本加除出版 ・佐藤俊樹,2000,『不平等社会日本』中公新書 ・産業雇用安定センター,1994,『改訂日系人雇用の基礎知識』労働新聞社 ・下開千春,2000,『地域住民の国際化と国際交流に関する調査研究』ライフデザイン研究所 ・鈴木江理子,2001,『日本における多文化主義の実現に向けてPART1』フジタ未来経営研究所 ・内閣府大臣官房政府広報室,2001,「外国人労働者問題に関する世論調査」『月刊世論調査』2001年6月号 ・浜松市,2000,『外国人の生活実態意識調査報告書』 ・法務省入国管理局,2001a,『本邦における不法残留者数(平成13年1月1日現在)』 ・法務省入国管理局,2001b,『平成12年における入管法違反事件について』 ・労働省職業安定局,1992,『外国人労働者受け入れの現状と社会的費用』労務行政研究所 ・労働省職業安定局,1997,『外国人労働者の就労・雇用ニーズの現状』労務行政研究所 ・勇上和史,2000,「日本における移民労働者」『大阪大学経済学Vol.49 No3・4』307-319 ・NIRA・シティズンシップ研究会,2001,『多分化社会の選択』日本経済評論社
研究開発部 副主任研究員 野呂夏雄