「口座開設は書類手続きが面倒だ」。金融機関で口座を開設したことのある人の多くが思うことだろう。新規に金融機関に口座を開設する際には、様々な書類への記入や厳しい本人確認が行われる。この口座開設に関係するワードに、「KYC」と言うものがあるのはご存知だろうか。

金融機関の口座開設に関連するワード「KYC」とは?

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(画像=Africa Studio/Shutterstock.com)

KYCとはKnow Your Customerの略であり、和訳すると顧客確認となる。一般的には新規に金融機関の口座を開設する際に、金融機関側から求められる口座開設に関する書類手続きを指す。

数多くのチェック項目や、様々な個人情報の記載、本人確認書類の提出など煩雑な作業が続くのが特徴だ。近年ではアメリカの外国口座税務コンプライアンス法(通称FATCA)の制定など新しい規制の影響もあり、以前に比べさらに口座開設時のチェック項目が増え、よりKYCを複雑にしている。

金融機関にとっては悩みの種

金融機関にとっては、新規口座開設に必要な煩雑なKYCが悩みの種にもなっている。金融機関は顧客や預かり資産を増やすために、新規口座の開設数を増加させようと様々な取り組みを行っている。しかし口座の開設を検討している顧客がいても、KYCの煩雑な作業が面倒という理由で口座開設に至らない顧客もいる。

KYCの煩雑さが影響するのは、金融機関の新規顧客獲得だけではない。そもそも日本人の投資に関するマインドは、諸外国と比べて非常に低いと言われている。日本銀行調査統計局が2017年8月に発表した「資金循環の日米欧比較」によると、日本人の家計の資産構成は52.5%が現金・預金で構成されており、株式は10.9%、投資信託4.0%、債券1.3%と投資に関する資産は極めて少ない。

アメリカは現金・預金がわずか13.1%となっており、株式が36.2%、投資信託11.8%、債券5.9%と投資の割合が日本に比べて極めて高い。

ユーロ圏でも現金・預金が33.0%、株式19.2%、投資信託9.6%、債券2.5%とアメリカには劣るが、投資の割合は日本に比べて高い。

このように諸外国と比べて日本人の投資マインドは低いため、現在投資の割合を増やそうと官民挙げて様々な取り組みを行っている。しかし、いざ投資を始めようと口座開設を試みた人が、KYCの煩雑さにより断念し、投資をあきらめる事態も想定される。投資をしたいと思う人が口座開設を断念する事態は、日本経済全体にとっても大きな損失となってしまう。

セキュリティと簡便性はトレードオフ

KYCが煩雑であれば、簡便化すればいいのではないか。そう思うかもしれないが、単に簡便化すればいいというわけにはいかない事情もある。

そもそも複雑なKYCは、口座開設を行なう顧客の保護のために行われている。KYCの簡便化はセキュリティレベルの低下につながる。KYCが簡便化されることで、口座がマネーロンダリングなどの犯罪に利用されやすくなるという懸念もある。

残念ながらKYCは、簡便化とセキュリティがトレードオフの関係であり、簡単には簡便化できないのだ。

ブロックチェーンを活用したKYCの取り組み

これまでセキュリティの観点からKYCを安易に簡便化することはできなかったが、技術の進歩によりKYCの簡便化の可能性が見え始めている。

国内3大メガバンクである三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3行と金融庁は、2017年10月よりスマートフォンのアプリで利用者の本人確認を実施することで、別の銀行での口座開設時に手続きを簡素化できるサービスの実証実験を開始している。

これまで銀行ごとに煩雑な口座開設手続きが必要だったが、このサービスが実用化されれば、一度どこかの銀行で口座開設をすれば他行での口座開設の手続きは簡便化され、顧客の負担も金融機関側の事務処理の負担も軽減される。

この実証実験には仮想通貨で培われたブロックチェーンの技術が活用されている。ブロックチェーン技術によって、顧客情報など口座開設時に必要なデータを複数のコンピューターで分散管理し、データ改ざんなどを防ぐことが可能になる。

このような取り組みを開始しているのはメガバンクだけではない。GMOインターネット <9449> では、ブロックチェーンを利用したプログラムをオープンソースとして公開するプロジェクト「GMOブロックチェーン オープンソース提供プロジェクト」において、本人確認を簡単・スピーディーに行えるKYCの公開を行なっている。こちらもブロックチェーンを活用し、KYCの簡便化を目指すプログラムだ。

顧客の利便性とセキュリティが天秤にかけられ、なかなか簡便化に踏み切ることができなかったKYCだが、ブロックチェーン技術の台頭に伴い、いよいよ煩雑な書類や本人確認を必要としない口座開設が可能な時代がやってくるかもしれない。

文・右田創一朗(元証券マンのフリーライター)/MONEY TIMES

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