「経済の崩壊が大きな人類の危機のように騒がれている昨今であるが、経済の崩壊などは人類の生存にとってはさしたることではない。その下に深く潜行して進んでいる家族の崩壊や、教育の荒廃、あるいは人間関係の悪化などこそ、いったん崩れたものを取り戻すには数世紀も必要とする深刻な問題なのに、口では危機を叫んでも、腰を入れて対策を立てる政治家は皆無に近い」(作家:大庭みな子氏)

 「いままでの日本の政治は、あまりにも経済が価値の中心でありすぎた気がします。それだけではなくて、生きるということと、人と人とがいい関係を保つことも大事な価値…」(千葉県知事:堂本暁子氏)

 昨夏、短い時間だったが郷里の郡山で40数年ぶりに小学校で担任だった女性の先生とお会いした。先生が若々しいのがうれしかった。「今年は単なる会食だけでは味気ないので、ちょっと遠出をするとか何かゆったりとしたプランを考えてほしい」と地元の友人に依頼したところ、最初に車で案内された先が猪苗代湖南岸に新設されたばかりのケアハウス(国などの補助を受けた高齢者用食事付きマンション)だった。このアイデアには当初驚いたが、友人が関係者であることを知り納得すると同時に我々が対象者であることを改めて自覚させられた。1人用24室(シャワー付き)、夫婦用3室(浴室付き)計30人収容の規模、他に共同浴場・露天風呂、介護施設との連携(複合施設の利点を生かし、要介護の時は優先的に特養へ入居可)、サービスとも万全のようで印象が良かった。入居一時金無し、食事付き月額利用料約9~17万円である。冬は寒そうだが当日は天候にも恵まれ猪苗代湖を前景に置いた磐梯山が綺麗だった。子供たちが水遊びに夢中だった。要支援の状況にたたされた時、在宅かこの種の高齢者向け施設への入居かの選択に迫られる人もいよう。一人での生活に不安を持つ高齢者も多い。

 今月号の的場副主任研究員のテーマはこのケアハウスである。この種の高齢者向け施設もいろいろあり煩雑で分かりにくい面も多いが、介護保険制度の導入により新たな問題も発生しているとも聞く。好ましく思えたケアハウスであり、都市部では満室状態で待機者も出ているとのことだが、ケアハウスの整備推進は目下のところ目標数の半分以下であり、整備が遅れている。そのような現状を分析し、今後の整備のあり方について利用者の満足度と安定的な経営との両面を視野に入れて提言を試みている。高齢者施設政策のあるべき全体像をまとめ上げるのを最終目的としているので、今後の継続的な研究に期待したい。

 もう一編は前田主任研究員による「ファミリーフレンドリー企業と組合の役割(上)」である。組合の最重要課題は労働条件の向上や雇用延長だが、働く女性と子育てなどの家庭生活との両立条件の整備(ファミリーフレンドリー)も大きな課題である。ちなみに育児休業制度を取り上げてみると、制度自体の無い企業が12%、制度があっても62%の企業では利用者がいないという。既婚者へのアンケート調査でも、利用しやすい職場が利用しにくい職場を若干上回っている程度である。育児休業取得後の昇進、配置転換などのトラブルも増加している。少子高齢化社会では働く女性の就労意欲の継続を図ることが緊要であり、両立のためには「組合に女性問題担当者」を配置し、職場全体で取得の奨励を進めることが重要と指摘している。ちなみに今月号の筆者は二人とも仕事と子育てとを両立させている女性研究員であるが、研究対象や分析内容のきめ細かさは女性ならではといえよう。

 さて冒頭の大庭さんの記事は河合隼雄著「家族関係を考える」の書評の中から、また堂本さんのは「文藝春秋」6月号の対談からの抜粋引用だが、各種の国際比較の統計を見るたびに日本の青少年の抱く日本の将来像にはいつも暗たんとした気分にさせられる。大庭さんの本質を突いた鋭い文章も女性ならではの指摘といえよう。(提供:第一生命経済研究所

ライフデザイン研究所 代表取締役社長
山ノ井清蔵