派遣労働者数が1999年度に100万人を突破し過去最高となった(図表1)。ただし、企業の動向・派遣労働者の意識をみるとその増加の背景として厳しい雇用状況がうかがえる。

 派遣のタイプは、派遣元会社に常に雇用されている常用型タイプと派遣就労ごとに派遣元と労働契約を締結する登録型タイプに分けられ、労働者数では常用型175,715人に対して登録型892,234人と登録型が圧倒的に多い。また、派遣会社の形態は両タイプを対象にする「一般労働者派遣事業(許可制)」と常用型タイプのみを対象とする「特定労働者派遣事業(届け出制)」に分けられ、事業所数では一般労働者派遣事業の3,352事業所に対して特定労働者派遣事業は6,326事業所と倍近く多い(1999年度)。

<専門業務に対応するスペシャリスト?>

 図表2は派遣先企業の「派遣利用のメリット」であるが、1988年、1995年の時点と比較し「自社従業員数の抑制」「賃金・福利厚生費の減少」といった回答が増加する一方で、「養成困難な労働力の確保」が減少している。このことは専門業務に対応するスペシャリストへのニーズよりも、経済が停滞するなか企業の苦しい台所事情によるコスト削減のニーズが、派遣労働者数の増加に寄与していることを意味する。

 図表3は登録型派遣労働者の派遣選択理由と今後の就労意向である。「都合にあわせ働ける」は年々減少しており、また「技術や資格を生かす」よりも皮肉なことに「正社員の職がない」からとの回答が上位を占めている。今後の意向についても「派遣を続けたい」が減少し「正社員で働きたい」とする回答が増加している。厳しい雇用状況により正社員としての雇用機会がなく、やむをえず派遣労働者を選択している結果としてその数が増えているとすれば決して喜ばしい状況とはいえない。

<望まれる支援の充実>

 厳しい雇用状況のもと「専門性」や「低コスト」をキーワードに非正社員の割合を高めていく傾向が企業に強く、派遣労働者も増加することが予想される。また、ここ数年の採用抑制から若年労働者確保のため新卒派遣という形態も注目されている。

 なお、大手派遣元企業で常用型タイプの希望者を対象に、給与から拠出金を天引きする「擬似401K」を実施するとともに資産運用の社員教育も導入するといった先進的な事例も話題となった。ただし、派遣を巡るトラブルは絶えず、最近では派遣元と派遣先のどちらに責任があるのかといった過労死・過労自殺訴訟もおきた。

 今後、派遣労働者の増加が予想されるなか派遣元企業においては、労働環境を向上させるために労働条件の明示や就業規則の整備、技能水準をあげるための教育訓練機会付与など派遣労働者に対する一層の支援の充実が望まれる。(提供:第一生命経済研究所

拡大する人材派遣ビジネスだが…
(画像=第一生命経済研究所)
拡大する人材派遣ビジネスだが…
(画像=第一生命経済研究所)
拡大する人材派遣ビジネスだが…
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研究開発部 本橋徹