相続対策というと、一般的にイメージされるのが「被相続人から配偶者と子への相続」を前提とした相続対策です。しかし、現実には、これが必ずしも功を奏するとは限りません。むしろ、盲点となりやすい「孫への贈与」を活用したほうがよい場合もあります。

一般的な相続のデメリットとは

特に遺言などがない場合、被相続人から配偶者および子に対して相続が行われるのが一般的です。そのため、相続対策もその親族内で行われるのが普通ですが、ここに落とし穴があります。具体的は次のような点です。

●配偶者が亡くなった場合に納税資金を用意できない
相続税法では、「配偶者の税額軽減」という制度があります。これは、被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈などにより取得した正味の遺産額が「1億6,000万円か配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額まで」は相続税がかからないというものです。この制度を活用して相続税額を抑える世帯も珍しくありません。

ただ、たいていの配偶者は被相続人と同世代です。そのため、例えば被相続人の相続が一段落した後、配偶者の死亡による2次相続が間もなくして始まることもあるでしょう。しかし、2次相続では配偶者の税額軽減は使えません。また、法定相続人が1人いなくなることで相続税の基礎控除額が下がり、相続税の課税額があがる可能性が高くなります。

●親子間での生前贈与は相続前3年以内だと効果が薄くなる
相続対策の一つとして真っ先に検討されるのが「生前贈与」です。生前贈与として一般的な暦年贈与課税制度では1年間あたり110万円までの贈与については非課税となっています。この制度を上手に活用して節税できればよいのです。ただ、注意したいのが「相続前3年以内の生前贈与は相続財産に加算される」という点です。

相続前3年以内に行われた生前贈与の加算対象は、贈与額が110万円未満のものも含まれます。そして、相続の発生つまり被相続人の死亡はタイミングを予測できません。そろそろ相続対策を……と思い、親子間で110万円の枠内で贈与をして相続対策を講じたはずが、突然贈与者が死亡したことで意味がなくなってしまうこともあります。

●子への贈与も将来相続税が課税される
仮に親子間での贈与を上手に行うことで相続対策ができたとしても、次は子と孫の間で相続対策が必要になります。もし、子と孫の間での相続対策をしていなかったら、子は相続税を低く抑えられたとしても孫には高い相続税が課せられてしまうのです。一方、生前贈与を含めた相続対策の多くは、勉強や相談など一定の準備期間を要します。

財産保有者の高齢化が進んだ現在、親子間での相続だけでなく、子と孫の間の相続でも対策を同時並行で考えておくくらいでないと、税金で相続財産がなくなってしまうこともありえるのです。以上のような理由から、一般的な相続対策には限界があるといえるかもしれません。そこで、有効なのが盲点となりやすい「孫への贈与」です。

孫への贈与のメリット

孫は代襲相続や遺贈がない限り、被相続人の財産を相続等で受け継ぐ可能性は低いものです。もし孫が遺言により相続をした場合、相続税に関しては「本来の納税額+2割相当額」を納付しなくてはなりません。孫への贈与は、相続税対策という点では一見無益にみえます。しかし、長い目で見ると後々の相続対策という点では有益になります。

●2次相続・3次相続の負担を軽減
日本では相続税の税率が高いため、2次相続・3次相続と相続を繰り返すごとに相続財産が減っていきやすい状況にあります。特に、孫の世代になると納税資金に苦しむことになりやすいのです。しかし、ここであえて先回りして孫に生前贈与をしておくことで、相次ぐ相続税の納付による資産の目減りを防ぐだけでなく、将来発生する相続税の納税資金を準備しておくことができます。

●生前贈与加算を避けられる
先述の相続開始前3年以内の贈与が相続財産に加算されるのは、相続人等が生前に受けた贈与財産です。もし孫が被相続人から生前贈与のみを受け、相続等により取得した財産がないのならば、たとえ相続開始前3年以内に行われた贈与であっても相続財産への加算はありません。

●教育資金贈与の非課税制度などを活用
また、孫への贈与で非課税制度を活用することも可能です。祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合、最大1,500万円まで贈与税が非課税になります。本来、相続や贈与は子や孫を幸せにするためのものです。あくせく節税策を講じて無理に有形資産を遺すよりも、今すぐ孫の将来につながることに資金を活用するほうが子孫の幸せにつながるかもしれません。

節税を含めた相続対策の目的は、できるだけ多くの資産を子や孫に遺し、その人生に役立てることにあります。子だけでなく孫の将来をも考えた相続対策は、お金の節約だけでなく、それぞれの人生をより豊かにする可能性が高いのです。(提供:相続MEMO


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