シンカー:物価上昇圧力が着実に強くなっているのは、マクロの需給の関係による一般物価の動きである。ミクロの個別品目ごとの相対価格の動きの重要性は徐々に低下してい くはずだ。携帯電話料金の引き下げ、原油価格の下落、そして幼児教育無償化などのテクニカルな大幅な引き下げは、瞬間的に消費者物価指数を押し下げるが、家計の名目所得が拡大している中、実質所得の更なる増加となり、他の需要が増加し、一般物価の基調への影響は小さくなるからだ。そして、マクロの需要超過の形が継続しているのであれば、特殊要因の影響が剥げ落ちた翌年に、前年比の物価上昇率は大きく跳ね上がることになろう。ミクロの個別品目の特殊要因に目を奪われて、転換点にあるとみられるマクロの一般物価の動きを見失わないようにしたい。テクニカルに2%の物価目標が遠のくことにより、政府・日銀が2%の物価目標を取り下げる可能性はほとんどないだろう。逆に、政府・日銀は先行きの達成に対する自信を深めるとも考えられる。2%の物価目標はグローバル・スタンダードであり、その達成のため、円安誘導ではなく、内需を拡大させるための国内要因として日銀は大規模な金融緩和を続けていると、日本政府は貿易赤字を問題視する米国を説得する必要に迫られていることも理由だ。
10月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比+1.0%と、9月の同+1.0%から変化が無かった。
引き続きエネルギー価格の上昇(10月は前年同月比+8.9%)が寄与している。
10月からの増税もあり、たばこの価格の上昇がコア消費者物価指数を0.04ppt程度押し上げている。
コアの季節調整済みの前月比+0.2%となり、6ヶ月連続の上昇となった。
10月のコアコア消費者物価指数(除くエネルギーと生鮮食品)も前年同月比+0.4%と、9月の同+0.4%から変化が無かった。
確かにエネルギーを含むコアと比較し上昇は弱いが、コアコアでも6月の同+0.2%から明確な持ち直しがみられる。
コアコアの季節調済み前月比は+0.1%と、7月の同+0.1%、8月の同+0.2%、9月の同0.0%と持ち直しが明らかになっている。
人手不足による人件費の上昇などを反映し、サービス価格の上昇が広がり始めていることが徐々に影響を与えてき始めている可能性がある。
失業率が低下をすると、賃金の上昇が強くなり、物価の上昇も強くなっていくというフィリップス曲線の関係がある。
過去のデータでは、2%台に定着するとようやく失業率の低下が物価の上昇率の拡大につながり、2.5%から2%への低下で加速感が確認できる。(3%台では失業率と物価の関係は一時的にほとんど確認できなくなる。)
昨年後半に失業率がようやく2%台に定着し、現在は2.5%から2%へ緩やかに低下中であることにより、物価上昇圧力も着実に強くなってきていると判断すべきだろう。
物価上昇圧力が着実に強くなっているのは、マクロの需給の関係による一般物価の動きである。
ミクロの個別品目ごとの相対価格の動きの重要性は徐々に低下していくはずだ。
携帯電話料金の引き下げ、原油価格の下落、そして幼児教育無償化などのテクニカルな大幅な引き下げは、瞬間的に消費者物価指数を押し下げるが、家計の名目所得が拡大している中、実質所得の更なる増加となり、他の需要が増加し、一般物価の基調への影響は小さくなるからだ。
そして、マクロの需要超過の形が継続しているのであれば、特殊要因の影響が剥げ落ちた翌年に、前年比の物価上昇率は大きく跳ね上がることになろう。
ミクロの個別品目の特殊要因に目を奪われて、転換点にあるとみられるマクロの一般物価の動きを見失わないようにしたい。
テクニカルに2%の物価目標が遠のくことにより、政府・日銀が2%の物価目標を取り下げる可能性はほとんどないだろう。
逆に、政府・日銀は先行きの達成に対する自信を深めるとも考えられる。
特殊要因による変動が予想される2019年を経て、2020年の物価上昇率の基調(除く消費税)は前年比+1.5%に到達すると予想する。
2%の物価安定の目標の実現は困難であり、その達成の後ずれは金融緩和策の副作用を大きくするため、緩和からの出口へのハードルを下げるため、日銀はより現実的な水準へ目標を修正する可能性があるという見方は、マーケットの誤解であると考える。
2%の物価目標はグローバル・スタンダードであり、その達成のため、円安誘導ではなく、内需を拡大させるための国内要因として日銀は大規模な金融緩和を続けていると、日本政府は貿易赤字を問題視する米国を説得する必要に迫られている。
2%の物価目標を達成できるほどに内需が拡大すれば、外国の商品・サービスの輸入は増加し、円安は金融緩和ではなく国際経常黒字が縮小したことが理由であると主張することができる。
物価目標をより現実的な水準に引き下げれば、日銀が為替目的のために大規模な金融緩和を続けているとの批判を受けるリスクがある。
その結果としての円高への転換は逆風となるため、2%の物価目標を引き下げる政策オプションはほとんどなくなったと考えられる。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司