設備投資には、生産効率のアップ、売上の伸長への寄与、積極的な事業展開が可能になる等のメリットがあります。設備投資の促進に一役買っている税制優遇措置として、「特別償却」と「税額控除」が挙げられます。本稿では、この税制優遇措置である「特別償却」と「税額控除」、そしてそれを利用した設備投資について説明します。
「特別償却」と「税額控除」の節税効果
「特別償却」とは、通常の減価償却費とは別に経費の追加計上ができる制度です。課税ベースの利益から特別償却費を差し引くことで、法人税が減税できます。一方、「税額控除」は法人税額から税額を直接控除する制度です。
特別償却と税額控除は計算方法の違いにより、節税効果にも差が出ます。そこで両者の違いについて、資本金1,000万円の中小企業が耐用年数(税法上の使用可能期間)10年の機械装置を1,000万円で購入したと仮定して見ていきましょう。ここでは中小企業経営強化税制(中小企業者等が、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づき一定の設備を新規取得し、指定事業の用に供した場合、即時償却または税額控除を選択適用することができる制度)を例にします。
特別償却は、機械装置を購入した初年度に「取得価額1,000×100%=1,000万円」の経費を一括計上することで、法人税実効税率29.74%(平成30年度)に相当する約297万円分の節税効果が得られます。しかし減価償却費に計上する取得価額の枠を使い切ったため、翌年度以降の期間は経費の計上額は0円です。そのため、耐用年数をトータルでみると、納付する法人税は特別償却を利用する前と同額になります。つまり、特別償却は設備投資した初年度分の納税を先延ばしにする制度なのです。
一方、税額控除は購入した初年度に「取得価額×10%(※資本金3000万円超1億円以下の法人の場合は7%)=100万円」の税額を法人税額から控除することができます。しかも特別償却とは違い、減価償却費に計上する取得価額の枠を使いません。そのため、節税効果は297万円に100万円を加えた397万円分になります。つまり、税額控除は税額控除分だけ税金を免除する制度と言えます。
それぞれが活用できる業種と条件は?
そもそも特別償却と特別控除は経済政策です。そのため、活用できる業種と条件は制度の趣旨によって違ってきます。今度は中小企業投資促進税制(機械装置等の対象設備を取得や製作等をした場合に、取得価額の30%の特別償却又は7%の税額控除が選択適用できる制度)を例に説明します。
まず、活用できる業種は小売業、卸売業、製造業などに限定され、不動産業、物品賃貸業、電気業、水道業、映画業以外の娯楽業、性風俗関連特殊営業は除かれます。
次に、活用できる主な条件は以下の通りです。
特別償却の適用対象法人は、資本金又は出資金の額が1億円以下の中小企業者又は農業協同組合等です。税額控除の適用対象法人は、資本金又は出資金の額が3,000万円以下の中小企業者又は農業協同組合等です。ただし、特別償却と税額控除いずれについても、いわゆる大企業のグループ会社は適用対象から外れます。
一方、主な適用対象資産は、160万円以上の機械装置、70万円以上のソフトウェアなどです。ただし、中小企業投資促進税制の適用対象は新品に限られて、中古は含まれません。
特別償却はどのようなときに活用するのか
トータルで払う税金が変わらないなら特別償却を選ぶ必要はないのではないか、とお感じになるかもしれません。しかしタイミングによってはメリットがあります。そのタイミングとは、資金繰りの苦しい企業が設備投資後の支出を先延ばしにしたいときです。メリットは2つあります。
ひとつは、特別償却は購入した初年度の節税効果が抜群です。たとえば、銀行から融資を受けて設備投資をした場合、特別償却による節税のお陰で支出せずに済んだキャッシュを借入金の返済に充てることができるため、節税が借入金返済額の一部を補てんする役割を果たします。
もうひとつは、利益または累積利益が少ない年度でも活用できる点です。税額控除の限度額は一般的には法人税額の20%ですが、税額控除の限度額が法人税額の20%を超えた場合は、その超えた分の金額について1年間の繰り越しが認められます。
他方、特別償却については、たとえば、設備を購入した初年度に利益から特別償却費が控除しきれなくても、青色申告繰越欠損金として最大10年間繰り越すことができ、翌年度以降の利益から差し引くことができます。
資金繰りの状況に応じて特別償却と税額控除を使い分ける
特別償却と税額控除のポイントは、どう経営に活かすかに尽きます。積極的な事業展開や新規事業の拡大が設備投資の動機であり、減税はそのバックアップの役割を果たしているからです。税金面で長期的視点から得したい場合は税額控除、設備投資後の納税の一部を先延ばしにしたい場合は特別償却を選択したほうが有利になります。資金繰りの状況に応じて両者を使い分けることを心がけましょう。(提供:みらい経営者 ONLINE)
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