(本記事は、北澤孝太郎氏の著書『まんがでわかる 営業部はバカなのか』=ゴマブックス、2018年11月10日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
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世の中の営業本には、「企業の営業力=個別営業マンの訪問件数×個別営業マンの滞在時間×個別営業マンのセンス」のようなことが多く書かれています。
言い換えれば、センスの良い営業マンが勤勉に働けば営業力はアップする、ということです。確かにその面は否定できません。
しかしながら、売れる営業マンは、もともと特別な能力を持っていたわけではなく、人の何倍もの時間と手間をかけていると説明しました。
「営業力」とて同じことです。努力した分だけ、伸ばすことができるものなのです。
私はその会社における営業力とは、次の式で表現できると考えています。
企業の営業力〇=(個別顧客対応力+新規顧客開拓力+顧客価値創造力)×好印象頻度
企業の営業力?=個別営業マンの訪問件数×個別営業マンの滞在時間×個別営業マンのセンス
ここからは、一つひとつの要素を具体的に説明しながら、営業力の伸ばし方についてお伝えしていきます。
個別顧客対応力とは
個別顧客対応力とは、顧客教育と課題の再生産により、こちらが設定した個々の顧客の課題に対し、それぞれ全精力を傾けて対応する力のことです。この力がその企業との取引を伸ばしていくといっても過言ではありません。
個別顧客対応力を強化するためには、次の2つが必要です。
⑴課題になりそうなことを予測し、それを解決できそうな知識を提供して顧客教育を行う力
⑵時期がきたら、その課題を特定し、解決する力(更に次に取り組むべき課題の予告を認識させる力→課題の「再生産」)
さらに、顧客がその課題を課題だと思い、解決しようと意志を持ってくれるような興味を喚起させる知識を提供することも必要です。
常に課題を探し続ける
取引を伸ばしていくためには、受注した課題を解決している間も、営業マンは次の課題探しに奔走しなくてはいけません。
せっかくひとつの課題を解決しても、次の課題を顧客が発見してくれなければ、取引は拡大していかないのです。まずは、顧客への知識提供と顧客教育を行い、顧客との間で課題設定と解決を終えたあと、さらに課題の「再生産」をして、取引を拡大させていきます。
これは自社においても同じことで、より高いレベルの課題の解決策を顧客に示せるように、社内の技術者やマーケティング担当などの関心を担当顧客の課題に向けさせて、常に教育しておく必要があります。
課題解決というと、どうしてもBtoB(対企業)のビジネスケースだけを連想しがちですが、BtoC(対一般消費者)も同じことです。個別顧客対応力も、その企業が持っているトータルの力がBtoBであれば営業マン、BtoCであれば店頭やインターネットを介した販売活動を通じて顧客に注がれます。
BtoBの場合、顧客との付き合いが浅いうちは、営業マンなどのセールス部門が音頭を取ることが多いでしょう。
しかし、徐々に付き合いが深くなるにつれて、音頭を取るのはプレセールス部門(SEなど)のような部隊に移り、やがて商品企画や製造部門に移っていきます。「この顧客の営業マンは、本当は製造の彼じゃないの?」なんて言われることも起こりえるでしょう。それでいいのです。
そのように実働部門に移り変わっていくことで、その顧客の真のパートナーとなっていきます。
課題の設定は可能な範囲で
顧客の課題は、こちらの能力をストレッチさせられる範囲(企業努力によって伸ばせる範囲)で設定します。そのため、自社にどんな力があるのか、社員にはどのような能力があるのかなど、現状を把握しておくことが重要です。そして、その課題と解決法を提示し、顧客に納得してもらいます。もし、顧客の課題が自社だけでは応えられないことが明白であると判明した場合は、「今の段階では私たちだけではできません」と正直に言うことも必要です。それが信用にもつながるからです。訪問件数×滞在時間は、このようなプロセスのためにあるとも言えるでしょう。
新規顧客開拓力とは
新規顧客開拓力とは、文字通り新規顧客を開拓する能力です。ここでは、「出会い設計能力」と「人間関係構築力」が重要です。加えて、課題を解決する力も必要になります。前述の個別顧客対応力を発揮するための土台、場、機会をたくさん創る力だとも言えます。
新規開拓は全社で取り組む
この分野は、これまで営業マン個人が培うべき力だと思われてきました。そのため、他部署の人は自分には関係ないと思われていたかもしれませんが、実はここでも全社の力を結集すべきなのです。その方が、力は確実に大きなものになります。
まず、営業マンは“いい出会い”をするために、情報を求め、それを確認するために出歩かなければなりません。そのときに、全社の情報網がとても役に立つのです。「経理の〇〇君の父親は、〇×社の社長だ」なんて話はよくあります。そのような縁はフル活用すべきです。
もし、「個人的なことを営業に利用するべきではない」なんて雰囲気があるとすれば、それこそ営業を蔑視している証拠です。〇×社が、経理部員もまた営業活動の一翼を担う存在であり、新規顧客を獲得することは企業活動において本当に尊いことだという認識がある会社なら、彼が家庭で仕事の話をしても父親は決して気を悪くしないでしょう。むしろ前向きな話に変わるはずです。
営業マンが、そのような少しのとっかかりからでも人間関係を構築していけるように、全社の力を結集します。営業マンの相手がたとえ担当者クラスの人であっても、その担当者の上司と自分の上司、またその顧客の社長と自社の社長の人間関係ができるように動くべきです。そのようにして顧客との関係を創っていくのです。
繰り返しになりますが、企業が個人の関係資産構築を大いに支援することが重要です。従業員が個人的な関係資産をつくることは、企業にとってもプラスになるという認識を徹底するようにしてください。
北澤孝太郎
東京工業大学大学院 特任教授(MBA科目 営業戦略 組織担当)。レジェンダコーポレーション 取締役。1962年京都市生まれ。1985年神戸大学経営学部卒業後、株式会社リクルート入社。20年に渡り、通信、採用・教育、大学やスクール広報などの分野で常に営業の最前線で活躍。採用・教育事業の大手営業責任者、大学やスクール広報事業の中部関西地区責任者を担当後、2005年日本テレコム(現ソフトバンク)の執行役員法人営業本部長に転身し、音声事業本部長などを歴任。その後、モバイルコンビニ株式会社社長、丸善株式会社執行役員、フライシュマン・ヒラード・ジャパン バイスプレジデントなどを経て、現職。営業リーダー(組織長や部長、役員)教育の第一人者として、数多くの研修や講演の経験を持つ。現在、東京工業大学大学院 環境・社会理工学院の特任教授として、大学・大学院で日本初であり、現在も唯一の営業の授業を担当している。著作に、『営業部はバカなのか』(新潮新書)、『優れた営業リーダーの教科書』(東洋経済新報社)、『人材が育つ営業現場の共通点』(PHP研究所)、『営業力100本ノック』(日本経済新聞出版社)などベストセラー作品が多数ある。
文・MONEY TIMES 編集部/MONEY TIMES
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