環太平洋経済連携協定(TPP)参加11ヵ国の新協定「TPP11」が、2018年12月下旬に発効する。11月中旬までに、日本、メキシコ、シンガポール、ニュージーランド、オーストラリア、ベトナムの7ヵ国が国内の手続きを完了。残る4ヵ国もこれに続くかたちとなる。トランプ大統領の誕生により米国が離脱することになったが、それでも世界の国内総生産(GDP)の13%を占める巨大な自由貿易圏が誕生することになる。

日本のGDPに8兆円規模のプラス効果

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(写真=Wright Studio/Shutterstock.com)

米国の離脱が決まった当初は、「米国抜きでのTPPは意味がない」との懸念も強かったが、TPP11は、域内人口5億人をカバーし、GDPは11兆米ドル。その経済規模は、成長の著しい東南アジア諸国連合(ASEAN)の4倍だ。米国抜きであっても十分なスケールメリットがある。さらに、韓国や英国、インドネシア、タイなども加入意向を示している状況だ。

TPP11の参加国全体で99%の品目の関税を撤廃することになる。企業には輸出や海外進出に向けた環境が整備され、消費者にとっては輸入食品の値下げなどの恩恵が見込まれるのだ。政府の試算によると、日本の実質GDPはTPP11がない場合に比べて約1.5%押し上げられる効果があると見込まれている。これは、2016年度のGDP水準で換算すると約8兆円にあたる数字だ。また、雇用機会は約0.7%(約46万人)増加するという。

影響懸念される農産物、コメは生産維持、牛肉は減少か

TPPの影響を大きく受けると考えられているのが農産物だ。農林水産省は、関税率10%以上かつ国内生産額10億円以上の品目である農産物19品目への影響を試算した。主要生産品のうちコメについては、TPPによる生産減少額はゼロとしている。「交渉の結果、現行の国家貿易制度や枠外税率を維持することができたため、輸入の増大は見込みにくい。

オーストラリアには国別枠を設定するが、政府の備蓄米の方針を見直し国別枠の輸入量に相当する国産米を新たに備蓄米として買い入れる。その結果、国産米の生産量や農家所得への影響は受けにくい」と説明している。反対に、影響を大きく受けるとみられるのが牛肉だ。同試算によると、TPPによる生産減少量は約200億円~約399億円。

牛肉は冷蔵、冷凍ともに38.5%の関税が課されているが、2033年にはこれが9%まで低下する。ただ、農林水産省は「和牛は品質・価格面で輸入牛肉と差別化されており、当面、急激な輸入増は見込みにくい」とも指摘している。このほか、牛乳・乳製品、豚肉などにも影響が見込まれている。

米国の交渉復帰可能性はあるか

米国は、TPP交渉の席に再び戻る可能性はあるのだろうか。日本は、米国と2019年1月以降に物品貿易協定(TAG)交渉を開始する見通しだ。ただ、TPPが発効すればオーストラリアやニュージーランドの農産品の関税が撤廃されて有利になるため、米国内の農家からTPP交渉への復帰論が出てくる可能性はある。また、収束の見通しが立っていない米中貿易摩擦への対抗策にTPPを利用する可能性もあるだろう。米国が参加すれば、TPPによる経済圏は世界のGDPの4割を占めることになる。

自由貿易による技術移転やイノベーションを促進

政府は、TPPの発効による一連の定量的な効果は「本来期待される効果の一面でしかない」と指摘している。TPPのような広域的かつ多国間での貿易協定をきっかけとして、貿易や投資が拡大し、オンリーワンの技術や魅力を持つ企業との取引を通じた技術移転やイノベーションを促進することが、自由貿易圏の最終的な目標だからだ。

日本企業は、先進国に比べてホワイトカラーの生産性が低いと指摘されている。そうした中、TPPやその他貿易協定による自由貿易の拡大で、技術移転によるイノベーションや他国との競合が起き、労働者の生産性を押し上げることが期待されている。生産性の向上は賃金の上昇へとつながり、賃金上昇は人々の消費を刺激し、働くインセンティブとなるのだ。

企業活動の活性化は、国内外からのさらなる投資と成長をうながす。少子高齢化が進み、国内市場の縮小が見通されている日本にとって、海外に活路を求めるのは必須だ。政府は、「TPPは、こうしたメリットは協定を締結するだけで自然発生的に得られるものではない」と主張する。TPPなど貿易協定によるメリットを最大化するためには「官民足並みをそろえた行動が重要だ」と指摘しているのだ。(提供:百計ONLINE

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