中小企業の中には経営者や中間管理職が現場で手を動かすことに奔走してしまい、人事評価制度の構築を後回しにしているところも多いのではないでしょうか。近年の中小企業を取り巻く環境を考慮すると、そのまま後回しにし続けていては人材不足を解消できません。今回は企業や社員を守る企業防衛の手段として、中小企業が人事評価制度を導入するべき理由をデータから解説します。
人手不足の深刻化が進んでいる
中小企業庁が作成した「2016年版 中小企業白書」によると、社員規模の少ない企業ほど賃上げ率が低く、5,000人以上の大企業が前年比2.2%向上したのに対し、1,000~4,999人は2.0%、300~999人は1.8%、100〜299人は1.6%と下がっています。このことからも100人未満の企業の賃上げ率は、これ以上に伸び率が低いことは想像がつきます。
一方で従業員数過不足DI値(※)は、製造業が-11.4%、非製造業が-14.8%と、賃上げの努力もむなしく、人手不足が進行していることがわかります。このことから同庁は「中小企業でも賃上げは行われているが、人手不足感が強まっている」という見解を示しました。
(※)今期の従業員の水準について「過剰」や「不足」と答えた企業の割合(%)のこと
新規採用はコスト高で手が出せない
このような背景から、各社は採用活動を活発化させています。その証拠に2018年8月31日に厚生労働省が発表した7月の有効求人倍率(季節調整値)は前月より0.01ポイント上昇の1.63倍を記録しています。これは1974年1月の1.64倍以来の高水準であり、企業がいかに人材を欲しているかがわかる数字です。
しかし採用資金が潤沢ではない中小企業にとっては、むやみに新規採用を行うわけにもいきません。実際中小企業が中途採用にかけるコストは、最小限に抑えられています。
みずほ情報総研株式会社の「平成28年度 中小企業・小規模事業者の人材確保・定着等に関する調査作業報告書」によれば、中小企業の効果があった採用ルートとしては「ハローワーク」「親族・知人・友人の紹介」が多数を占めており、就職ポータルサイトや説明会・セミナーといった数十万〜百万円単位でコストがかかる採用方法には手を出せていない状態です。
また入社予定者1人あたりの採用費平均は50万円強のコストがかかるため、なかなか有効な手段として活用できていないのが実情です。以上のことから、外部からの人材獲得は中小企業にとって難しいことがわかります。すると残されているのは、「今ある人材を生かし、残していく」という選択肢です。
中小企業の防衛手段としての人事評価制度
今ある人材を生かし、残していく手段の一つが、人事評価制度の構築です。企業の事業戦略や経営戦略に基づいた人事評価制度が構築できれば、企業が本当に欲しい人材を評価して重要なポストを与えられますし、社員もどのような成果を残せば評価されるかが明確になります。結果、組織としての生産性が向上し、限られた人材で今まで以上のパフォーマンスを発揮できるのです。
しかし現状の中小企業の人事評価は、年功序列賃金制が影を落としており、成果をフェアに評価して待遇に反映させられていないケースが少なくありません。
また給与の査定を含む日々のマネジメントに経営者が関与しているケースも多く、その場合は経営者の決定だけで人事評価が下されてしまうおそれがあります。スピードという面では有効なやり方かもしれませんが、経営者の主観が多分に入り込んでしまい、フェアな評価にはなりません。
人事評価制度において大切なのは、企業の事業戦略や経営戦略に基づいてフェアに差をつけることです。現在、人材不足で苦しんでおり、かつ人事評価制度をうまく活用できていない中小企業は、この視点から改めて人事評価制度を見直す必要があるでしょう。
人事評価制度は会社と社員を守るもの
今後も事業を継続して会社と社員を守るためには、今いる人材を生かし、より高い生産性を実現していく必要があります。人事評価制度はそのための有効な手段の一つです。現時点でこれといった人事評価制度を導入していない中小企業はもちろん、制度は導入しているものの成果が出ていないという中小企業も、改めて人事評価制度について考え直してみてはいかがでしょうか。(提供:あしたの人事online)
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