シンカー: 10月以降の株価の急落場面では、金利と株価には負の相関関係がみられることが多かった。これは、低金利を前提とした株価のバリュエーションが、金利の上昇により調整されていたことを意味する。現在、相関関係は徐々に順相関に戻りつつあることは、株価のバリュエーションの調整は終盤になり、純粋に景気動向に反応する形になってきていることを意味する。そして、マーケットが米国景気拡大がもう少し長続きするとみるようになれば、金利と株価の通常の順相関は安定化するとみられる。2019年には、堅調な景気動向を背景としてFEDの利上げはもう少し進行し、米国の長期金利の上昇と株価の上昇という順相関がみられる局面がいったんはあると考える。その後は、物価上昇の強さがFEDの利上げの動向を左右し、利上げによる引き締め効果が強ければ、2020年に一時的な景気後退が起こる可能性がある。ただ、その景気後退は構造調整ではなく速度調整であり、2四半期連続のマイナス成長だが通年ではプラス成長になるような浅いものとなると考える。
最新のSGグローバル・レポートと要約
●世界経済(12/11):岩場を避ける舵取り
弊社の世界経済予測における最も重要な変更は、米国が次にリセッション入りする時期である。弊社は2016年11月にトランプ氏が大統領に選出された直後、現在の米国景気拡大は2019年遅くから2020年初めに終了すると予測した。これはその時点の従来予測を1年遅らせたもので、背景には新政権が大規模な財政刺激策を実施するという見込みが固まったことがあった。しかし弊社は現在では、最近の動向を基に、米国景気拡大がもう少し長続きするとみている。即ち、米国がリセッション入りする時期を2020年初めから中頃と見込んでいる。
こうした変更を受けて弊社は2019年GDP成長率予測を、米国は従来予測を0.8PP上回る2.4%に、先進国全体も同じく0.3PP上回る2.1%とした。後者の引上げ幅は比較的小さいが、(力強さを増す米国がけん引するとはいえ)ユーロ圏成長率予測の下方修正が主因である。とはいえ弊社もユーロ圏GDP成長率予測を、2020年は0.5PP引上げて 1.2%とした。米国リセッションによる逆風の発生時期が従来見込みよりも遅れるとみたことが背景。ただ2021年予測は従来予測から引下げた。
世界経済見通しとしてそれより重要なことは、新興国の大半で見通しが悪化したことだ。背景は、株式市場の下落、債券利回り上昇や、新興国通貨下落圧力を引き金とする金融政策引締めを受けた、金融状況タイト化である。これ(新興国見通しの悪化)は、2019年中国GDP成長率の弊社予測を小幅上方修正した(従来予測を0.1PP上回る6.2%へ)にもかかわらず発生した。
このためグローバル経済成長率の弊社予測を、 2019年、2020年ともにPPP(購買力平価)ベースでは小幅下方修正した(それぞれ0.1PP引下げて順に3.6%、3.3%に)。なお2019年は、市場為替レート加重ベースでは従来予測から変更していない。
●欧州経済(12/10):ECBプレビュー:量的緩和は終了、経済指標やブレグジットの重石がTLTRO の味方になる
景気減速を示す気掛かりな兆しが出ており、見込まれていた通りブレグジットを巡る不確実性も続いている。だがECBは10日(月曜)からの週に、差引きでの資産買入れを終了させると広く見込まれている。新しいスタッフ予測は、スタート地点が下がったことを反映する必要はあるが、従来と同じく2019年には景気が堅調に拡大、コアインフレ率も上昇するという内容になるだろう(今回から2021年予測が加わる)。ただ、見通しに対するリスクは「下方に傾いている」に変わるとみられる。再投資方針も議論されるだろう。弊社は、ECBがその(再投資の)実行に関して可能な限り柔軟性を確保するとみている(時期と対象や対象資産年限)。しかし、出資比率が原則となる可能性は非常に低く、政策スタンスの変更は無いとみられる。ECBに、来年の再投資やTLTRO新シリーズに関してコミュニケーションを急ぐ姿勢は全くみられない。ただし関連委員会を再び招集する可能性はある。経済見通しがさらに明確とならなければ、追加緩和に対する多少の抵抗が示されるとみられ、3・4月がTLTROの決定には重要な期間となる。重要なことに、流動性の追加はほぼ確実だが、タカ派は2019年後半の利上げ開始を交換に引き出そうとするかも知れない。これにより、重要な妥協(銀行強化を通じた信頼感上昇、信用拡大、投資増強見通しにつながると弊社は考えている)への道が固まる可能性がある。デレバレッジがこれまで量的緩和(QE)の効果を損ねていることから、ECBはツールを再調整して、為替レートや資産効果チャネルではなく信用チャネルに焦点を当てることが必要になるだろう
●債券市場(12/10):外国債券市場見通し (2019年上半期):より狭く、より高く、・・・リスクは増大
2019年の少なくとも前半は、中央銀行の金融政策は引き締められ、債券利回りはフォワード水準を上回る見通しだ。しかし、経済成長は安定せず、ボラティリティーが上昇し、年後半にはリスクが高まるだろう。景気サイクルが進むにつれ、賃金や物価は上向きとなる。最大のリスクは依然としてイタリア情勢、英国の欧州連合(EU)離脱問題、トランプ米大統領の経済政策であろう。2018年とは違って、良識が勝ることを想像するしかない。2018年にはイタリア国債の戦術的トレードが成功した。2019年も同様の成功を期待したい。不透明感が強いことは、欧州中央銀行(ECB)の慎重かつ我慢強い対応を意味する。不確実性が足元でユーロ圏の成長に強力なブレーキをかけている。しかし、この状況は急速に変わる可能性があり、それは金融引き締め、フィクシングレートの上昇、デュレーション・ロングのリスク増大を意味しよう。
米国債市場では、来年を二分すると前半は政策引き締め、利回りの上昇、イールドカーブのフラット化が見込まれるのに対し、後半は利回りの低下、さらにはイールドカーブの小幅なスティープ化すら予想される。それまでに米連邦準備制度理事会(FRB)の追加利上げが少なくとも2回あり、米国10年国債の利回りは第2四半期に3.50%まで上昇する見通しだ。2019年前半は米物価連動国債(TIPS)が通常の米国債をアウトパフォームするだろう。TIPSロングのリスク対リターンは、短期セクターの5年物までは良好とみる。投資家は最近の原油価格下落に注目しているが、関税問題への関心は比較的薄い。ユーロ圏では、弊社はブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)の上昇を見込み、10年物HICPスワップやBEIカーブ・スティープナーを選好する。
我々は英国のEU離脱が協定どおりに実現するとの見方を変えていない。そのため、イングランド銀行(BOE)は金融引き締めに動く可能性があり、英国債利回りは上昇するかもしれない。協定なき離脱よりも間違いなくリスクは小さい。
●債券市場(12/10):不安の種
世界の債券は金融市場の混乱で恩恵を受けた。米国10年国債の利回りは再び3%を割り込み、ドイツ10年国債の利回りは0.23%と年初来のボトムに到達した。リスク資産の急落とともに最近、米国債イールドカーブの2年-5年、3年-5年が逆イールドに転じたことは、歴史的に見ると景気後退を示唆する予兆であり、無視することはできない。米国10年国債の利回りが最近のレンジを下放れしたことを受け、弊社はデュレーション中立型の投資スタンスを推奨し、「質への逃避」買いがフラットニング・ポジションを支えると予想する。ユーロ圏では景気の弱さに不安な兆候も見られるが、欧州中央銀行(ECB)は12月13日の定例理事会で資産買い入れの終了を宣言するとみられる。足元の債券市場には割高感が生じており、欧州債の先行きに弱気な見方をオプション取引で具現化するのが望ましい。
シエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司