シルバー世代になっても「まだまだ現役」「生涯現役」という経営者は多いと思われます。いつまでも現役で頑張りたいという意欲は大事ですが、経営者であれば引き際は本気で考えるべきです。そこで着手しなければいけないのが、事業承継の問題です。もし先延ばしにしたらどうなるのか、その末路と、悲惨な結末にならないようにするための対策を考えます。

事業承継を先延ばしにすると「会社の稼ぐ力」は低下する

M&A
(写真=PIXTA)

経済産業省の「2013年 中小企業白書」によると、経営者の高齢化とその会社の稼ぐ力の低下は比例関係にあります。つまり、経営者の年齢が上がるにつれ、会社の稼ぐ力が落ちていくのです。このデータから考えると、50〜60代のうちに事業承継をするのが理想です。

事業承継には、さまざまな選択がありますが、稼ぐ力がなくなった会社を継ぎたいという方はなかなかいないでしょう。放置し続けた結果、経営者が引退する頃には後継者も譲渡先もないという、周囲(家族、従業員、取引先等)にとっては悲惨な結末が待っています。

生涯現役でいることは、経営者自身にとっては理想かもしれませんが、会社自体が消滅しては元も子もありません。

事業承継の具体的方法「継ぐ人がいるパターン」

では具体的な事業継承の方法を確認してみましょう。事業承継には「継ぐ人がいるパターン」と「継ぐ人がいないパターン」があります。

「継ぐ人がいるパターン」はシンプルです。子や従業員等の後継者に経営者としてのノウハウを伝えるとともに、自社株対策をすれば済みます。ただし、自社株対策にはかなりの手間や費用が掛かりますので、早めに対策を開始することが重要です。

中小企業の自社株の株価算定方法には、「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」の2つがあります。

「類似業種比準方式」とは、類似業種の株価を基に、評価する会社の一株当たりの「配当金額」、「利益金額」及び「純資産価額(簿価)」の三つで比準して評価する方法です。

もう一つの「純資産価額方式」は、会社の総資産や負債を原則として相続税の評価に洗い替えて、その評価した総資産の価額から負債や評価差額に対する法人税額等相当額を差し引いた残りの金額により評価する方法です。

上記の方法で算出した結果、株価が高額になった場合は、多額の相続税等が課されるのを避けるために、株の価値を引き下げる必要があります。純資産価額を減らすには、相続税評価額等を圧縮しやすい不動産に投資する、役員退職金を支給して会社の財産を減らす、等々の方法があります。

事業承継の具体的方法「継ぐ人がいないパターン」

事業承継の労力が大きいのは、「継ぐ人がいないパターン」です。最近では、後継者難による廃業も目立つようになってきました。

帝国データバンクの「2017 年 後継者問題に関する企業の実態調査」では、後継者決定の有無について、「後継者あり」が33.5%、「後継者不在」が66.5%と、後継者候補不足の現実が浮き彫りになっています。

継ぐ人がいないために廃業を考える経営者も多いですが、M&Aの検討も選択肢の一つです。M&Aはこれまで大企業が行うものというイメージもありましたが、近年では後継者難に悩む中小企業が専門業者を介して利用するケースも増えています。

実行のプロセスは、次のような流れで進んでいきます。 まずは企業価値の評価を行います。基本的には財務面のデューデリジェンスを実施します。

  1. 売却先見込み企業の選定
  2. 売却先見込み企業との交渉
  3. 詳細条件のすり合わせ
  4. 契約書の締結
  5. 実行

売却先見込み企業の選定は、M&A仲介会社や金融機関等に依頼するのが一般的です。また、知り合いや取引先に買い取りを打診するケースも見られます。

自社の事業規模を考えるとM&Aを躊躇(ちゅうちょ)する経営者もいるでしょう。自分の会社は価値がないと思い込まず、まずはカウンセリングやセミナーに参加して、客観的に自社の評価を受けるべきです。

事業承継後の業績は現状維持・好転が7割以上。早めのバトンタッチを

後継者や買収企業が見つかっても、自分がいないと会社はまわらないと心配される経営者もいらっしゃるでしょう。しかし、データでみる限り、ご心配は無用です。

経済産業省の「平成24年度 中小企業の事業承継に関するアンケート調査」によると実際に事業承継を行った会社の業績は、「変わらない」~「良くなった」が75.9%と、全体の約4分の3が悪い影響がなかったと肯定的に答えています。その中で業績が「良くなった」が26.6%、「やや良くなった」が22.8%と半数近くの会社に業績の改善が見られます。

手間のかかる事業承継ですが、きちんと進めれば、会社が安定・発展する可能性は高まります。それによって、家族、従業員、顧客等も幸せになるプラス効果が期待できます。事業承継は先送りしないですぐに着手すべきです。その先には会社の明るい未来が待っています。(提供:Wealth Lounge


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