信用取引のメリットの一つに、「売り建てによって、株価の下落局面でも収益のチャンス!」があります。株価の上昇局面でしか利益がねらえない現物株取引と最も異なる点ですし、信用取引について説明した書籍やウェブサイトでも、ほぼ間違いなく掲載されている特徴なのですが、そのわりには売り建てに対して距離を置いている投資家も多いようです。

信用取引,トウシル
(画像=トウシル)

これまで現物株オンリーだった方にとっては「株券を借りて売った後、安く買い戻すことで利益を得る」という仕組みがイメージしにくい面があるほか、古くから「信用売りの損失は青天井」と言われていることも影響しているのかもしれません。

買い建ての場合、どんなに株価が下がっても0円までですので、建玉金額以上の損失は発生しませんが、売り建ての場合は株価に上限がない分、損失も無限大になってしまうという考え方です。こうしてみると、信用取引の売り建ては買い建てに比べて不利に見えてしまうのかもしれません。

確かに「損失額に上限があるかないか」でみれば売り建ては不利です。ただし、買いが買いを呼ぶ展開と、売りが売りを呼ぶ展開とでは、「ライブドア・ショック」、「リーマン・ショック」、「チャイナ・ショック」などの言葉があるように、直近10年間だけでも売りが加速して急落する展開が多く、むしろ買い建ての方が痛手を被った場面が少なくありません。そのため、損失額上限の有無で有利・不利を判断しない方が良いと言えそうです。

また「天井三日、底百日」という相場格言にもある通り、一般的には相場の上昇局面の期間は短い傾向にありますので、売り建ての損失が青天井になるまで株価が上昇し続ける可能性は、相場が急落する可能性よりも低いと考えられ、必ずしも売り建ての方が不利ではないと思われます。

ただし、実際の取引においては売り建てが不利な面があるのも事実です。まず挙げられるのは「貸株料(かしかぶりょう)」です。正確には「貸借取引貸株料」といいます。一部では、「売り建ての金利みたいなもの」という説明を見かけますが、これはあまり正しい説明ではありません。

貸借取引貸株料は、証券金融会社が証券会社を通じて売り方から徴収されるお金のことで、その金額ですが、楽天証券では建て玉金額の1.10%(年率)を日割りで計算したものを日々徴収しています。

しかし、これは金利ではなく、2002年から導入された信用取引規制の一種です。当時は2000年のITバブル崩壊後の下落基調から立ち直っていない時期ですから、売り建てによるさらなる相場下落圧力を抑制しようという当局の意図があったのかもしれません。仮に売り建てが増えても、いずれは返済買い圧力になりますし、以降の株価は当時よりも大きく上昇してきたことを踏まえると、現在は不要な規制と言えるかもしれません。

さらに、信用売り建てには思わぬコストが発生する可能性があります。それが「逆日歩(ぎゃくひぶ)」と呼ばれるものです。

信用取引の売り建てが増えた場合、証券会社は株券を貸し出すことになりますが、銘柄の発行済み株式数には限度があるため、あまりにも売り建てが増えてしまうと株券の調達に苦労することになります。もちろん、証券金融会社でも貸し出す株券が足りなくなるという事態が発生します。そんなとき、証券金融会社は機関投資家などから株券を借りることになるのですが、「もちろんタダで」というわけにはいきません。機関投資家に支払う「借り賃」が発生します。そしてその借り賃を売り建ての投資家から徴収します。これが逆日歩です。

逆日歩が厄介なところは、「いつ発生するかわからない」ことと、「いくら発生するかわからない」ことにあります。場合によっては想定を遥かに超える逆日歩が発生し、取引の損益に大きな影響を与えるケースもあります。次回はこの逆日歩について細かく見ていきたいと思います。

土信田 雅之(どしだ まさゆき)
楽天証券経済研究所 シニアマーケットアナリスト
1974年生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒業。国内証券会社にて企画や商品開発に携わり、マーケットアナリストに。2011年より現職。中国留学経験があり、アジアや新興国の最新事情にも精通している。

(提供=トウシル

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