年末を控えてマーケットではリスクばかりが強調されている。先週の米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げ決定を受け、米株マーケットは下落した。13日(フランクフルト時間)には欧州中央銀行(ECB)が量的緩和を終了させることを決定したものの、欧州随一の大国であるドイツの経済状況を憂慮している旨、同銀行の理事が言及しているのだ。

デジタル,原田武夫
(画像=日本貿易振興機構(JETRO))

他方で、トランプ米政権はこれに反する動きを見せている。まずロシアの億万長者であるオレグ・デリパスカに対する経済制裁を解除することを公表した。今年4月6日(米西部時間)に掛けたものだったが、デリパスカ・ルーサルCEO兼オーナーが同社株式保有率を50パーセントにまで減らすことに合意したためであるという。またトランプ大統領はTwitterを通じて勝利宣言と共にシリアからの撤兵を始めたことを公表した。勝利宣言と家族が帰還するという期待感からハッピー・クリスマスが到来するかのように見える。

では、このハッピー・クリスマスが到来したとして、それは明るい年明けをも保障するのだろうか。筆者はそうであるとは考えない。むしろ年頭からまた新たな嵐が生じる危険性がある。本稿は年明けに生じ得る米株式マーケットにおける波乱を議論するものである。

まずは上述したトランプ大統領による2つの動きを検討しよう。まずデリパスカに対する経済制裁であるが、確かに米国が制裁を緩和したのは事実である。しかし、ロシアに対する制裁を行っているのは米国のみではないことに注意すべきである。つまり、欧州連合(EU)もロシアへの制裁を課していることを忘れてはならない。しかもEUによる制裁は来年(2019年)1月末で期限を迎える予定なのである。そうした中で対ロシア・ウクライナ情勢が悪化しているのを受け、同制裁を強化する可能性があった。実際に、米国らがその強化を要請してきていた。この様な文脈がある一方で、実はEU各国による注目すべき公電がリークされた。ロシア・ウクライナ間で争点となっているクリミア半島にロシアが核兵器を持ち込んだ可能性があるというのだ。こうなってくれば、EUが対ロシア制裁の延長を行う蓋然性は増大する。そうなればこれに乗じて米国が制裁強化を行う可能性もあると考えられる。

またシリア撤兵に対しては、未だ過激派が重要都市に存在しているために時期尚早であるとフランスが述べていることに注意すべきである。そもそも「イスラム国(IS)」は米国がその創設を支援してきたという分析が存在する

その真偽は定かではないものの、仮に偽であったとしても、かつて米国がISの指導者であるアル=バグダーディー師を殺害したと公表した後に、ロシアが同師の生存を報道したことがあった。米欧らが、(1)その(残党の)存在が“喧伝”される、(2)掃討のための兵が派遣される、(3)掃討を完了する、というプロセスを繰り返すことを通じて、ISを軍需増強のためのツールとして用いている面がある点に留意する必要が在る。 以上の考察を踏まえると、トランプ政権によるこうしたハッピー・クリスマスはたとえ実際に到来したとしても、それは「一時的な(temporary)もの」と考えた方が妥当なのだ。

では、次に何が生じると考えればよいのか。実は定量分析を見る限り、来年1月上旬に米株マーケットで新たな下落局面が到来する可能性があるのだ。しかも、ダウ平均株価ではそこまで大きな下落にならない可能性がある一方で、S&P500およびNASDAQはそれ以上の下落になる可能性がある。これらの指数の差は何か。それは「GAFA」の存在である。

最早我が国でも一般的になりつつあるが、「GAFA」とはグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンそれぞれの頭文字を取ったもので、いわゆるハイテク株を指す。ダウ平均株価とS&P・NASDAQの差はその指数内部における「GAFA」の比重である。後者においてはハイテク株の影響力が高いのである。したがって、「GAFA」を巡り新たな動きが生じると見るのが妥当である。

弊研究所が半年に1回のペースで発刊している「中期予測分析シナリオ」の直近号でも述べているとおり、トランプ政権は「内国化=国境を閉じる」方向で動いている。「GAFA」といった巨大IT企業の存続は当然ながら米国の国益に沿うものの、他方で、この内国化という文脈では国境を無視するこうした企業の存在は迷惑という面もある。だからこそ、「GAFA」を育成しつつも彼らの動向を阻害する、他方でそれによるマーケットにボラティリティーが生じて、金融機関にとってはビジネス・チャンスとなる。

今やグローバルでも「GAFA」に対する当たりは強い。まず欧州だ。欧州連合(EU)全体による大手IT企業への課税方針は年内合意に至らなかった。しかし、先週、フランスのルメール経済・財務大臣が欧州連合に先駆けて「デジタル課税」を来年(2019年)1月より開始すると公言したのだ。こうなってくれば欧州で連鎖的にデジタル課税が進展してもおかしくない。英国も先々月29日(GMT)に再来年4月からデジタル課税を導入することを決定している。次に我が国である。我が国も独自に大手IT企業に対する課税スキームを構築中である。インドやシンガポールも同様である。何より今月頭のG20会合でこの方針が決定されているのである。

我が国では外国に比べ年末年始の休暇が長い。その間に何をすべきか、今ならまだ検討し実行する時間がある。年始の乱高下に備えなければならない。そしてその後はどうすればよいのか。来年1月19日に開催する年頭記念講演会を是非その参考にして欲しい。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

大和田克 (おおわだ・すぐる)
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー。2014年早稲田大学基幹理工学研究科数学応用数理専攻修士課程修了。同年4月に2017年3月まで株式会社みずほフィナンシャルグループにて勤務。同期間中、みずほ第一フィナンシャルテクノロジーに出向。2017年より現職。