高齢化の進む日本では「人生100年時代」における生き方や人生設計の見直しが推進されている。課題となるのは、若い時に築いた資産を長持ちさせ、老年期に上手くコントロールしながら減らしてゆく方策だ。また、認知症などの罹患による資産管理や運用にどう備えるかという、信託設定や生前遺産相続もおろそかにできない。

そんな切実なリタイヤ後のおカネの問題に解決をもたらすべく、米国で1988年に誕生し、長寿・加齢への経済的指針を与える新しい学問が「ファイナンシャル・ジェロントロジー」、すなわち金融老年学だ。

米国で飛躍的に発達する「シニア向け金融サービス」

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(写真=PIXTA)

米国でも高齢化は急速に進行しているなか、2015年にはホワイトハウスで開催された「高齢化対策会議」で、米金融大手のバンク・オブ・アメリカ・メリルリンチと南カリフォルニア大学との産学連携により、老年期顧客の生活上のニーズをよく理解する金融アドバイザーを養成するプログラムの立ち上げが発表されるなど、シニア向け金融サービスが飛躍的に発達している。

背景にあるのは、政府の社会保障 (年金) プログラムや多くの民間年金基金で資金不足が予想され、「米国人は65歳でリタイヤできる」という長年の常識がもはや通用しなくなる一方、老親のケアをしながら出費のかさむ子育てを強いられる子世代が増加することが予測されるなど、問題解決の緊急度が増していることが挙げられる。

金融老年学とは ? 資産の「増やし方」と同じくらい「減らし方」が重要

金融老年学は実践的な学問だ。老年の顧客と、老親のケアをする子のニーズに寄り添い、特に医療費負担が高まることを見越して、 (1) 老齢者の介護費、 (2) 家賃、 (3) 食事宅配にかかる費用、 (4) 自家用車の維持費など、それぞれの費用の選択肢を示し、どの場面で出費を抑えるかなどの助言を行う。

リタイヤ年齢到達後の加齢を20年、30年の「長く進行してゆくプロセス」と捉えることで、心理学や社会学の知見を応用しながら、顧客のおカネに関する心配事を解決してゆくことが特徴である。

米国においては、子自身の年収の10%を親の処方薬、安全のための住宅改修、訪問介護、食事、交通費などに回すとのNational Alliance for Caregiving (全米ケア連盟) の調査結果もあり、家族への説明と「いかにうまく配分して資産を上手に減らすか」というファイナンシャルプランニングも大切な仕事となる。特にシニア層においては「上手な資産の減らし方」が、増やし方と同じくらい重要だと強調している。

国内でも求められる家庭の状況に適した資産運用と高齢投資家の保護

こうしたなか、日本でも金融庁が2017年11月に発表した「金融行政方針」で、「我が国の高齢化率は世界の中でも最も高い水準となっており、退職世代等に関する取組みが重要な課題である」と問題を定義し、「退職世代の金融資産の運用・取崩しをどのように行い、幸せな老後につなげていくか、金融業はどのような貢献ができるのかについて、外部有識者の知見も活用しつつ検討を進める」として、金融老年学の知見を活用して資産の運用と取崩しを含めた有効活用に取り組む姿勢を示した。

日本においては、世帯主が60歳以上の世帯が家計金融資産の60%以上を保有し、金融資産の他にも住宅・宅地などの実物資産を多く保有している状況にあると「金融行政方針」は指摘し、それぞれ家庭の状況に適した資産運用と高齢投資家の保護に重点を置く必要を説いている。

高齢化の進行が米国以上に急激に進む我が国においても、金融老年学が立ち上がり始めている。今後、訓練を受けた専門家が、多くの高齢者や家族の悩みを解決してゆくことが期待されている。(提供:大和ネクスト銀行


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