私たち個人レベルでの投資では、外国為替投資や株式投資が主流であり、多少資産を持っていれば不動産投資(アパート経営)を行うことが多い一方で、富裕層となってくれば、国債や外国株、商品(コモディティ)と一挙に選択肢が広がってくる。資金の少ない我々には選択肢は少ないというわけだ。

しかし、時にその富裕層向けの投資商品が我々一般人向けに“喧伝”される場合がある。この意味で、昨年下旬ごろより注目が集まっているのが「航空機投資」である。航空機投資とは、投資家が航空機の購入資金を出資し主にリース契約を通じて航空会社などにその航空機を貸し出すことで、リース料およびリース契約満期が到来した後の航空機売却益で回収するという投資スキームである。航空機の金額は50億円から150億円と言うまでもなく高く、一般人にはとても買えるものではない。では何故その航空機投資が広く“喧伝”されているのか。本稿はその理由を探求するものである。

【航空機投資とは何か?】

航空機投資
(画像=国土交通省)

まずは改めて航空機投資とは何かについてまとめよう。航空機投資とは、投資の中ではオルタナティブ投資と呼ばれるものである。すなわち、株式や外国為替、債券といった伝統的な金融資産とは異なる特徴を持つ資産への投資である。不動産投資やインフラ投資がそれに該当する。 スキームとしては、投資家(場合によっては更に銀行)が特定目的会社(SPC)を設立した上で、同社は中古マーケットから航空機を購入し、それを航空会社にリース契約を通じて貸し出すというものである。

航空機投資のオルタナティブ投資としての特徴は、伝統的な金融資産とはリスク・プロファイル(リスクの所在)が異なる点である。そのため、伝統投資とオルタナティブ投資を同時にすることでポートフォリオ内のリスクを分散するというものである。   うしたオルタナティブ投資の中でも、航空機投資はメリットが多いのだという:

(1)資産の性質:不動産やインフラでは個別性が非常に強い一方で、機種別に航空機は均一であり、動産であるため、流動性が相対的に高い
(2)キャッシュフローの源泉:航空会社からのリース料であるが、不動産といったテナントからの賃料よりも信用リスクは低く、また空室率といった事業リスクも、相手が航空会社という大抵の国において寡占・独占状況にあるため、回収リスクは低い
(3)支払通貨の固定性:燃料支払において米ドル支払が主流であるために、航空機投資も米ドル支払が普通

またグローバルで総航空機数が増大しつつある上、航空会社各社は自社保有よりもリースでの航空機保有の比率を上げつつあるのであり、その理由は7つにまとめられるという:

(1)納入期間を経ずに人気機種を迅速に調達可能
(2)財務的な柔軟性
(3)機材入替の自由度向上
(4)新造機購入の際に必要な前払金が不要
(5)資本力が相対的に低いLCCにとっては航空機取得に必須
(6)資金調達コストの軽減
(7)残存価値リスクをリース会社へ転嫁可能

またリース契約を用いるため、節税効果が高いことが投資家にとってのメリットである。このような事情を踏まえると、航空機投資は航空会社だけでなく、投資家にとっても非常に魅力的な投資であるように見える。

次に航空機投資が抱えるリスクを考えよう。航空機投資はリース投資であるが、そのリース料支払主は航空会社である。その航空会社はグローバルな民間企業の中でも信用力が低い業界であることが知られている。それは燃料価格のボラティリティが高いことや地政学リスクとの相関が高いことなどが要因である。無論、だからこそリターンが高いのではあるが。

他には価格評価の専門性が高いことがある。機種に汎用性が高いと言ったが、航空機は不動産ほどの歴史があるわけがあるわけではないため、専門家の育成やその教育枠組が進んでいるとは、少なくとも我が国では言い難い。実は1980年代にオリックスといった我が国が中心となってこのマーケットに資金注入したために、航空機投資マーケットは拡大してきた。しかし、バブルを受けて銀行といった主流の金融機関は航空機投資マーケットでの影響力を充分に発揮できなかった。それが、リーマン・ショックの結果、それまで主流だった欧州金融機関からリース事業を買い取ることで邦銀は同マーケットへ続々参入してきた。とはいえども、充分な知見があるとは言い難いというのが現状である。

【なぜ今航空機投資が“喧伝”されているのか?】

このようにスキームや現状を考えると、非常に望ましい投資であるというのが航空機投資である。しかし、そうであるならば一般人に対して同投資を“喧伝”する必要は無く、富裕層の間で密やかに“流布”されていればよい。となれば航空機投資マーケットに異変が生じていると考えるべきだというのが卑見である。

まず考えなければならないのが、地政学リスクとの関わりである。航空会社が債務不履行を起こしてしまえばこのスキームに問題が生じるのは言うまでもないが、その航空会社にとっての事業リスクで大きいのが「地政学リスク」である。たとえば、ドイツ当局がイランの航空会社に対して来週(27日週)から制裁を開始する可能性が報道されている。他にもラテン・アメリカにおいては各国が対立を深めている。こうした中で、航空会社が従前どおりの事業活動を行うことが出来るとは断言しがたい。

トランプ米大統領がいわゆる「モンロー主義」に則るように、グローバル社会から撤退している。他方で、BREXITなど欧州の分断化も進みつつある。

次に原油価格との関係性である。航空機投資において憂慮すべき最大のリスクが、燃料価格の上昇である。目下、昨年11月頃から低迷を続けてきたものの、原油価格はここ1週間で再び上昇しつつある。米軍撤退が始まり、また欧州各国が復興に向けたスキームを構築し終えたシリアに対し、イスラエルが同国に在るイラン関係施設を二度爆破している。上述したように欧州の対イラン政策も厳しくなってきている。このように原油マーケットでボラティリティの増大がある以上、航空会社が厳しい経営環境に在るのは明らかだ。

それ以上に考えなければならないのが、航空機に替わる新たな乗り物の登場である。昨日(24日(米東部時間))、米航空大手のボーイングが「空飛ぶタクシー」の試験に成功したという。グローバル社会で分断化が進めばすすむほど、長距離便の重要性が低減することとなる。そうなれば、現在の航空機マーケットで主流である大規模ジェット旅客機のニーズは低減していく。他方でそうなっていけば、リージョナル・ジェットといった中小規模航空機は「空飛ぶ自動車」とった新たな資産に代替される蓋然性が増大していくこととなる。これが進展していけば、小口の「プチ航空機投資」が多数増えていくこととなる。その場合、リターン水準が低減することになるため、個人投資家を相手にした方がマシであるということだ。

また富裕層が徐々に資産の現金化を進めている点も忘れてはならない。たとえば世界的な銀行家であるロスチャイルド家の中核企業であるRothschild &Co.は自らの基幹ビジネスである信託事業を昨年10月に売却しているのだ。いくら不動産やインフラ資産よりも流動性が高いとはいえ、株式よりは売却が難しいため、航空機は優先的に処分すべき資産なのである。このような背景があるために、個人投資家に航空機投資の道が開かれ始めたというのが卑見である。

投資手法1つを取ってみても、世界規模で地殻変動が生じている。そうした変動の中で注目すべきポイントを知るために弊研究所は、最も基本的な調査分析レポートとなる「中期予測分析シナリオ」を去る1月19日に上梓した。それを超えて、リアルタイムで何が起こっているか、来年度(2019年度)の見通しを知りたければ是非弊研究所の無料セミナー(ここをクリック)へ参加して頂きたい。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

大和田克 (おおわだ・すぐる)
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー。2014年早稲田大学基幹理工学研究科数学応用数理専攻修士課程修了。同年4月に2017年3月まで株式会社みずほフィナンシャルグループにて勤務。同期間中、みずほ第一フィナンシャルテクノロジーに出向。2017年より現職。