投資初心者にとってiDeCoの商品選びは難しい。高い利益が見込めるからと言って米国株だけを購入していれば、株の暴落や円高のリスクは避けられない。具体的な商品を選ぶ前に「アセットアロケーション」という考え方を用いて、資産配分を決定することが重要だ。
「アセットアロケーション」とは諸条件を考慮してポートフォリオを決定する作業のこと
iDeCoで資金運用を行う際は、いつの時点でどの程度の資金が必要になるかを考え、iDeCoで準備しておきたい金額の目標を決めるところから始める。
目標を達成するためには、さまざまな諸条件を考慮した上でそれを成し遂げるための手段を決定する必要がある。iDeCoの場合には、まず年齢、リスク許容度、拠出できる掛け金といった諸条件が出てくる。これらを考慮し、最適なポートフォリオを構築するのだ。
iDeCoにおいて、目標を達成するための手段はこのポートフォリオであるが、諸条件を考慮してポートフォリオを決定する作業のことを「アセットアロケーション」と呼ぶ。アセットアロケーションは「資産配分」を指す言葉で、「リスクを抑えつつ、リターンを目標に近づける資産配分を考えること」が基本概念だ。iDeCoでは、このアセットアロケーションを適切に行うことが重要となる。
長期投資であるiDeCoは適切なアセットアロケーションが重要
なぜiDeCoでは、アセットアロケーションが重要視されるのだろうか。
長期投資が前提となるiDeCoにおいては、分散投資の考え方が特に重要だ。長期投資では、市場予測が困難な中、特定資産に思わぬリスクが生じる可能性もある。iDeCoは老後資金の準備のために活用されることが多いので、途中でなくなってしまっては困る資金である。
「卵は一つのカゴに盛るな」という投資格言もあるように、長期の資産形成が目的のiDeCoにおいては、多くの資産に資金を配分し、リスク分散を行うような投資が求められる。そのため、適切なアセットアロケーションを行い、リスクとリターンをコントロールすることが何よりも必要となるのだ。
リスクとリターンがトレードオフの関係であることは、投資の世界の大原則だ。ローリスク・ハイリターンの資産は基本的にないといってよい。
株式だけの保有ではリターンが大きい分、値下がりの可能性も高いが、預金だけではリターンが少ない。こうした中で、リスクを抑えつつ、リターンを目標に近づけるためには分散投資を行うことが重要となってくる。アセットアロケーションは、ハイリスク・ハイリターンの商品と、ローリスク・ローリターンの商品を同時に保有することで、ポートフォリオをミドルリスク・ミドルリターンにする。この作業を複数資産で行いながら、リスクとリターンをコントロールしていくのだ。
アセットアロケーションを考える場合の3つの方法
具体的にどのようなアセットアロケーションを組めばよいのだろうか。
iDeCoの場合、目標とする金額と毎月の掛け金、投資開始時期を決めれば、目標とする利回りを求めることができる。
アセットアロケーションの基本は、各資産のリスクと期待リターンを過去の値動きから数値化するところにある。つまり、自身の目標利回りが最も低いリスクで達成できるように、複雑な演算で各資産の配分を求めていくのだ。とはいえ、iDeCoにおいてはそんな複雑な演算をわざわざ行う必要はない。
iDeCoでのアセットアロケーションを考える場合、次の3つの方法を参考にしてほしい。
各社のサービスを利用する
iDeCoにおいて、最も手軽かつ合理的にアセットアロケーションを決定する方法は、証券会社や銀行などが提供しているサービスを活用することである。iDeCoを取り扱っている金融機関には、ウェブ上でリスク許容度などを測るためのいくつかの質問に回答すれば、アセットアロケーションを提案してくれるサービスがある。利用条件のハードルは比較的低いものが多く、口座開設をしていない金融機関でもサービスを利用できることが多い。気軽にこうしたサービスを活用してみるのもよいだろう。
ほかの投資家のアセットアロケーションを参考にする
ほかの投資家のアセットアロケーションを参考にするという方法もある。分かりやすいのは、我々の公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のアセットアロケーションを参考にする方法を紹介する。
GPIFは、現在の運用も目標を名目賃金上昇率+1.7%と置いている。そのための基本的なアセットアロケーションは次の通りだ。
国内債券……35%
国内株式……25%
外国債券……15%
外国株式……25%
この数値は、アセットアロケーションを決定するための複雑な演算によって弾き出された割合である。この割合をベースに、自分の条件を元にしたポートフォリオを構築すれば、自ら複雑な演算をせずとも簡単にポートフォリオを構築することができる。例えば、リスクをもう少し減らしたいなら株式の割合を高くするなどのアレンジを加えればよいのだ。
GPIFのほかには、バランス型投資信託のアセットアロケーションを参考にする方法もある。運用報告書などを参考にしながら真似てみるのもいいだろう。
バランス型の投資信託を購入する
こうした方法が面倒であれば、バランス型の投資信託を購入し、ポートフォリオの中心にバランス型の投資信託を据える方法もある。バランス型の投資信託は、それ自体が分散投資を行っているため、アセットアロケーションを自身で細かく考える必要がない。バランス型の投資信託でも、株式の割合を小、中、大の3パターン設けるなど、リスク許容度に応じた投資が可能となっているものもある。
注意したいのは、購入前にそのファンドの目的とアセットアロケーションが、自身の投資目標とマッチしているかを吟味することだ。目論見書や運用報告書などを確認してしっかり判断するようにしたい。
また、バランス型の投資信託は、そのファンドのもとで、複数のファンドに投資しているため、運用手数料に当たる信託報酬が割高となるケースもある。複数商品を比較して信託報酬が過度に割高なファンドは避けるようにしたい。
運用開始後のリバランスも忘れずに
iDeCoにおけるアセットアロケーションでは、運用後のリバランスも重要となる。運用開始時に決めたアセットアロケーションは、運用の過程において割合が崩れていく可能性があるからだ。
例えば、最初に株式に50%、債券に50%でアセットアロケーションを組んだとしよう。運用の過程で株高となれば、株式型の資産が値上がりし、株式が70%、債券が30%となる状況も起こり得る。これでは、当初想定していたアセットアロケーションと比べ、過度にリスクを取っているという状況になる。この場合はアセットアロケーションを組み直すために、資産の売買や買付比率の変更などでリバランスを行うべきだろう。
リバランスは頻繁に行う必要はない。長期投資が前提のiDeCoは、相場の変動には静観の姿勢で挑むべきだ。通常の場合では1年に1回程度、自身の資産の状況を確認する程度でもよいだろう。その際、当初のアセットアロケーションから1割を超える変動がある場合に、初めてリバランスを検討したい。
ただしリーマンショックなどのように相場が急変したときは、アセットアロケーションのバランスが大きく崩れてしまう可能性が高い。その場合は適宜リバランスを行ったほうがよいだろう。
文・MONEY TIMES編集部/MONEY TIMES
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