金融商品で資産運用を行うなら、NISAを使うメリットは大きい。ただしデメリットも知っておく必要がある。キーワードは、非課税期間が終了する「5年後」だ。その内容や対策について説明する。
NISAのデメリット1……損益通算ができない
NISAのデメリットは主に2つある。1つは損益通算ができないこと、もう1つは非課税が終了したときに元本が切り下げられる可能性があることだ。ここでいうデメリットとは、「NISAを使うことによって、結果的に納める税金が増えてしまう」という意味だ。
説明にあたって、まずは以下の計算式を確認してもらいたい。分配金や配当金などのインカム・ゲインを加えると複雑になるため、ここでは売却益(キャピタル・ゲイン)のみについて述べる。
決済(売却・解約)時の価格-元本=損益
通常はこの損益がプラスになったとき、つまり利益が出たときに税金が発生する。マイナス、つまり損失が出れば税金は発生しないが、他の取引で生じた利益から損失分を差し引くことができる。利益が出たときに源泉徴収されていたら、確定申告をすることで還付を受けられる。これを損益通算と呼ぶ。この損益通算をできないことがNISAの1つめのデメリットだ。「利益が出たとき」のみメリットが発生するのがNISAだともいえるだろう。
NISAのデメリット2……5年後の非課税が終了したときに元本が切り下げられる可能性がある
NISAの非課税期間は5年間だ。4年後の年末までに損益を確定していれば、この2つめのデメリットが生じることはない。問題となるのは、非課税期間を終了した時点で「含み損」が出ているときだ。
「もし今、決済したら損失が出る」状態を「含み損が出ている」という。この場合、何もしなければ決済したのと同じことになる。年末時点の価格で、NISA専用口座から通常の口座に移し替えられるのだ。
たとえば、2016年にNISA専用口座で120万円分の投資信託を買ったとしよう。非課税期間の最終年となる2020年までに受け取る分配金は、すべて非課税となる。もし2019年1月に150万円まで上昇したときに解約すると、30万円のキャピタル・ゲインが出る。これもNISAを利用しているので非課税だ。
しかし保有し続け、2020年末に100万円になってしまったとする。このまま通常口座に移管すると、元本は100万円に修正される。もしその1年後の2021年末に、購入価格である120万円に戻ったとしても、売却すると20万円(決済時価格120万円-修正後の元本100万円)に対して税金がかかってしまうのだ。
デメリットというよりも、「リスク」という表現のほうが適切かもしれない。5年後に価格がどうなっているかは、誰も分からないからだ。デメリットを「確実に発生する不利益」と定義すると、NISAにデメリットはないと言える。せいぜい口座を開設する手間がかかるぐらいだろう。
2023年までならロールオーバーで損益の確定を先延ばしできる
このリスクを回避する手段が「ロールオーバー」だ。回避といっても完全になくなるわけではなく、先延ばしといったほうがいい。
ロールオーバーとは、非課税期間が過ぎた金融商品をそのままNISA専用口座で保有し続けることだ。その場合、翌年の非課税枠を利用することになる。
たとえば2016年に120万円を投資して、2020年末に100万円になったとする。ロールオーバーした場合、2021年の非課税枠が100万円分使われることになる。同年中にあと20万円の投資ができる。
仮に2020年末時点で120万円を超えていても、全額をロールオーバーできる。非課税枠は全額を使うことになるので、2021年にNISA専用口座で新たな買い付けはできない。
NISAで買い付けできるのは2023年までなので、ロールオーバーが可能な最後のタイミングは、2022年の年末から2023年の年初にかけてということになる。
NISAを始めて5年後、「移管」「ロールオーバー」「売却」どの選択肢がベストか
まとめると、非課税期間終了時の選択肢は3つある。通常口座への移管、ロールオーバー、そして売却だ。どれを選ぶべきだろうか。
ロールオーバーのデメリットは、非課税枠を使うことだ。NISAを使って他の金融商品を買う予定があれば、その金額によっては移管か売却を選んだほうがいい。
移管と売却どちらがいいかは、その銘柄やタイミングによるので何ともいえない。上がると思えば持っていたほうがいいし、下がる可能性が高いと思うならすぐに売ったほうがいい。
NISAは、確実に所得控除されるiDeCoと違い、制度を利用するメリットがあるかどうかは運用結果による。「せっかくNISAがあるのだから資産運用する」ではなく「NISAがあってもなくても資産運用はするが、使ったほうが得だから使う」というスタンスでいたほうがいい。過度な投資はリスクを生むだけだ。
NISAのデメリットも理解して真剣にお金と向き合おう
NISAをきっかけにして、資産運用に興味を持つようになった人もいるだろう。もともと投資になじみのある人にとってはメリットの大きい制度だ。ただしデメリット(リスク)もあり、絶対に儲かるものではないことも頭に入れておかなくてはならない。簡単ではないからこそ、お金と真剣に向き合う良い機会になるかもしれない。
文・山田悠記(マネー系ブックライター)/MONEY TIMES
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