シリコンバレーで進む「デジタル破壊」と「デジタル革命」
昨年、私は仕事でシリコンバレーに出張に行ってきた。シリコンバレーと言えばITのメッカ、イノベーションの聖地だ。現地でエネルギー系企業のCEOとお会いし、その方からとても興味深いお話を伺った。ここで、それを紹介したい。
「Destruct(破壊)。それが、シリコンバレーで一番よく飛び交う言葉です」
今、シリコンバレーでは、イノベーションを象徴するかのような2つの大きな波が起こっている。1つがデジタル破壊、もう1つがデジタル革命だ。
デジタル破壊とは、読んで字のごとく、デジタルを使って破壊すること。ITを活用する新規参入事業者が登場し、長年、多くの人に親しまれてきた事業を破壊していく事象だ。具体的な例を挙げれば、アマゾンによって、書店、百貨店、小売店が激減した。ウーバーの登場によって倒産に追い込まれたタクシー会社も少なくない。
「かつて、広大な米国では、クルマという移動手段を持たなければ生きていけなかった。ところが、スマートフォンで呼べば、2~3分で、自分が乗りたい場所までクルマが来てくれるようになりました。ウーバーのおかげで、クルマを所有しなくても不便さを感じなくなった。また、食材の調達も、インスタカートのサービスを使えば、スーパーに足を運ばなくて済むようになりました。会議中にお腹が空けば、1時間後にはサンドイッチが届く」
このように、ITを活用する新規参入事業者が、これまでにない新しい満足を生み出すことによって、既存の事業を破壊している。これがデジタル破壊だ。微笑ましい理想の話ではなく、恐ろしい現実の話である。
デジタル破壊によって駆逐されることを回避するため、ITを使って自己変革しようという取り組みが、デジタル革命だ。具体的には、新しい技術を持つスタートアップ企業と組んで、自ら事業を新しい次元に進化させている企業が増えている。例えば、米国の大手電機メーカー、ゼネラルエレクトリック社は、ソフトウエアの分野に進出している。
「様々な企業が、自ら事業を変革し、顧客に新しい満足を創出しています」
これが、デジタル革命だ。
ドラッカーこう言っている。
「イノベーションに優れた企業は、人のつくったものは遅かれ早かれ、通常は早く陳腐化することを知っている。競争相手によって陳腐化させられるのを待たずに、自ら陳腐化させ、廃棄することを選ぶ」
書店、百貨店、小売店は、ここ数年でどんな変革を起こしただろうか。ここ数年でどんな新しい満足を生み出しただろうか。自ら変革を起こし、新しい何かを生み出しているとは思えない。
“自ら変革する力のない企業は壊していい”
“自ら変革する力のない企業を破壊することはカッコいい”
これがシリコンバレーなのだ。Destruct(破壊)とは、一見、マイナスに感じられる言葉のように聞こえるが、その真意は「スーパークール(とてもかっこいい)」だ。
米国の人口は約3億人。シリコンバレーの人口は約300万人。シリコンバレーの人口は米国のたった1%なのに、そこで米国の全投資額の50%が投下されている。既に起こっているデジタル破壊とデジタル革命は、今後さらに、予想を超えた勢いで、大きな潮流となって社会を変えていくことは間違いない。
〈後編〉へ続く
山下淳一郎(やました・じゅんいちろう)トップマネジメント〔株〕代表取締役
ドラッカー専門のマネジメントコンサルタント。東京都渋谷区出身。外資系コンサルティング会社勤務時、企業向けにドラッカー理論を実践する支援を行なう。中小企業役員と上場企業役員を経て、ドラッカーの理論に基づく経営チームのコンサルティングを行なうトップマネジメント〔株〕を設立。現在は、上場企業に「後継者育成のためのドラッカーの役員研修」「経営チーム向けのドラッカーのトップマネジメントチームプログラム」「管理職向けのドラッカーのマネジメント研修」を行なっている。著書に『日本に来たドラッカー 初来日編』『新版 ドラッカーが教える最強の経営チームのつくり方』(ともに同友館)、『ドラッカー5つの質問』(あさ出版)などがある。(『THE21オンライン』2019年02月10日 公開)
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