福岡市の中心地、天神から歩いて15分。大通りから少し外れたアパートの1階に、夜な夜なグルメ好きが集う隠れ家的な酒場がある。それが、『酒場 みんなの黄ちゃん』だ。
店主の黄 小晃(こうしょうこう)さんは料理人としての経験がない。それなのに、ここで味わえる料理はどれも本格派。福岡を代表するような良店が、『みんなの黄ちゃん』のために料理を提供しているからだ。
現在はフレンチの名店『コキンヌ』がテリーヌを、過去にはビストロ『Yorgo』やワインカフェ『クロマニヨン』といった人気店が料理を提供してきた。こうした他店の人気メニューとともに、黄さんがこだわって選んだ日本酒やワインが楽しめる。普通の立ち飲み酒場ではなかなか味わえない料理・酒のラインナップに、訪れる客は虜になっているようだ。
趣味の食べ歩きや前職のつながりが「コラボメニュー」のきっかけに
『みんなの黄ちゃん』では、黄さんがセレクトした日本酒や自然派ワインが楽しめる。二軒目、三軒目使いのお客さんが多いが、何かつまむものを……となったときに客を喜ばせるのが、福岡の名店とのコラボメニューだ。他店のメニューが楽しめる飲食店というのは珍しいが、きっかけはなんだったのだろう。
「ご協力いただいているお店は、私が食べ歩いている中で仲良くなったお店、そして前職でつながっていたお店が多いです。そうした方たちが、私が店を出すときに『力を貸すよ』って言ってくれたんです。私は、飲食の仕事は好きだったけれど、調理ではなくサービスの経験がほとんど。お酒は仕入れることができても、料理がすごく得意というわけではなかったので」
そう話す黄さんは、神奈川県の出身。関東にいるときは、女性に人気の『DEAN & DELUCA』などで働いていたが、友人の店の手伝いで福岡へ移住。その後、博多区で自然派ワインや各地の地酒を扱うリカーショップ「とどろき酒店」に就職した。
黄さんは「もともと飲食畑だったので、酒屋で働くことのほうがイレギュラーだった」と笑うが、「とどろき酒店」で働いたことが、今の店の開業に大きく関係している。2016年には角打ちを兼ねた『とどろき酒店 薬院stand!』をオープン。黄さんはここの立ち上げスタッフとして加わり、開業のノウハウを学んだ。その後、『みんなの黄ちゃん』をオープンすることになるが、「とどろき酒店」の店主とは今でも関係が続き、仕入れの面で協力してもらっているそうだ。
「『とどろき酒店 薬院stand!』を立ち上げたあと、今の店をオープするために退職しました。というか『とどろき酒店』から、独立を後押しされて……。私としては“まだ早いんじゃないかな”って思っていたんですけど(笑)。今では、以前働いていた店に来てくださっていたお客さんが、こちらにも顔を出してくれたりします。うれしいですね」