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(画像=株式会社絶好調の松村康夫専務取締役と高橋さん)

接客は「テクニック」より「気持ち」

接客で最も大切なものはという問いに、高橋さんはこう答えた。「目の前のお客様にどうしたら喜んでいただけるか、どうしたら笑顔になっていただけるのかという気持ちが一番大事だと思います。そもそもお客様が店に来てくださること自体が当たり前のことではありません。それに対して感謝の気持ちを持つことです。接客のテクニック、手法はたくさんありますが、気持ちこそが一番大切だと思います」。

細かいテクニックを駆使するよりも、客への強い思いをベースに持ち、そこに価値判断基準をおけば様々な状況にもその基準に従って対応が可能である。後はそのスピードであったり、具体的な方向性の正しさであったり、そういった部分の問題に過ぎない。

飲食店の最大の付加価値は接客であり、その接客の極意は、相手を思いやる心。この古典的とも言える法則は、21世紀の今も生きている。食事や飲み物はロボットが出すのではない。飲食の現場で必然的に人と人との接点が生まれ、そこでの快適さは、飲食という目的を超えた重みを持つこともある。

そんな高橋さんの将来の夢は「女性が輝ける会社にし、業界にすること」。現在、『燗アガリ』で接客をするかたわら、運営会社の人財育成統括というポジションにつき、新卒採用者の育成も担当。自らが手にしたノウハウを後進に伝え、会社の成長に寄与することが求められ、その重責が双肩にかかっている。彼女の現在のポジションが、接客がいかに飲食店の将来を左右するかを象徴している。

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(画像=『燗アガリ』の名物、のどぐろの一本炙り)

4年前、フラリとやってきた30代のサラリーマンが見た光景

高橋さんには今でも忘れられない思い出がある。4年前、『絶好調てっぺん』勤務時代、30代のサラリーマン風の男性が1人で訪れた。あいにく満席のため普通なら断るところだが、高橋さんはそうしなかった。「何か感じるものがありました。お客様が一人で来られたのは何か意味があるのではないかと思い、何とかしたいと思いました」。そこで「少しお待ちください」と言って、店内で席を調整して何とかカウンター1席を用意できた。

それ以来、その男性は定期的に顔を出すようになった。4年が経過した今年、高橋さんはその時の話を聞かされた。当時、男性は仕事上の悩みを抱えており、気分転換にとフラッと訪れた居酒屋が満席。普通の店なら断るであろうし、1人の客ならなおさら断りやすい。ところが高橋さんはたった1人の初見の客のために何とか席をつくろうと店内を走り回った。男性はその姿を見て感動し、刺激を受けたという。その後、仕事も順調になり、前向きに生きる日々となり、すっかり常連となった今、4年前の小さな出来事について、ポツリと語ったという。

「あの時の事があるから、僕は今でもこうやって通っています」。     高橋夏穂(たかはし・かほ)
1992年、福島県郡山市出身。地元の高校卒業後、服部栄養専門学校に進学。在学中から株式会社絶好調の店舗でアルバイトを始め、卒業後に正式に社員となる。運営店舗の店長などを経て、現在は同社の人財育成担当。S1グランプリは5年前からエントリーし、第13回の今年、初めて全国大会に進出、ファイナリストとなった。『燗アガリ』での愛称は「夏穂ちゃん」「女将(おかみ)さん」。

『燗アガリ』
住所/東京都新宿区西新宿7-16-12 新YSビル3F
電話/03-5338-5337
営業時間/平日17:00~24:00 土日祝16:00~24:00(フードL.O.23:00、ドリンクL.O.23:30)
定休日/不定休
席数/70

魚の一本炙り、特に「のどぐろ」が人気。また、注文を受けてから炊く「鉄釜コシヒカリ」はおかずなしでも美味しく食べられるとして、人気を集めている。料理に合う日本酒は利き酒師の資格を持つ高橋さんらに頼めばアドバイスしてくれる。(提供:Foodist Media

執筆者:松田 隆