要旨
●4月から外国人の新たな在留資格として「特定技能」を加えた改正入管法が施行される。単純労働分野では正式に就労を目的とした在留資格はこれまで無かったため、今回の「特定技能」の創設は外国人政策の大きな転換となる。
●政府は向こう5年で34.5 万人を特定技能で受け入れる方針だ。ただし技能実習から特定技能1号へのシフトが少なからず起こるため、外国人労働者数全体に与える影響はここから小さくなると考えられる。外国人労働者数の増勢は、これまで通り、ないしは若干加速する程度にとどまる可能性が高いのではないか。
●外国人労働者は企業の人手不足を一定程度解消することになるだろう。しかし、新興国の賃金上昇で日本に来るメリットは薄れるほか、近隣国との獲得競争も予想される。2018 年には韓国の最低賃金が日本の最低賃金を超えた。門を開けば来てくれる状況がいつまでも続くとは限らない以上、企業は外国人労働者の受入を既存ビジネスモデルの延命策とせずに、生産性改善、低い賃金を前提としたビジネスモデルからの脱却を進めていくことが肝要といえるだろう。
4月から改正入管法が施行
4月1日から、外国人の新たな在留資格である「特定技能」の創設を盛り込んだ改正入管法(出入国管理及び難民認定法)が施行される。単純労働分野では正式に就労を目的とした在留資格はこれまで無かったため、今回の「特定技能」の創設は外国人政策の大きな転換となる。
外国人労働者数は146 万人(2018 年10 月末時点、厚生労働省)に上っており、このところ+20 万人弱/年のペースで増加している(次ページ・資料1)。在留資格別にみると、このところの増加が特に著しいのは留学生を中心とする「資格外活動」や日本での職業技能の研修を目的とした「技能実習」の在留資格者だ。人手不足が深刻化している飲食業や小売業、建設業や製造業への従事者が多くなっている。国籍別に見ると、増勢が著しいのがベトナムだ。ベトナム国籍の労働者は2012 年時点では26,828 人だったが、2018 年は316,840 人と10 倍以上に増加している。シェアで見ても中国に次ぐ2番目の大きさとなっている。
新資格での受入は最大34.5 万人が想定されている
「特定技能」は1号・2号の2種類に分かれている。当面受入の中心となるのは「特定技能1号」になる。在留資格を得るには、①「技能実習に3年以上就く」ないしは②「特定技能試験(職業技能と日本語能力)をパスする」のいずれかが必要になる。在留資格の就労期間は最長5年間で、家族の帯同はできない。基本的には期間を限った形での就労を前提とした資格だ。これに対して、特定技能2号は1号を経て更に高い技能・日本語試験をパスすることで得られる資格で、期間は更新制で上限は無く、家族の帯同も可能だ。
特定技能での受入業種は資料3で示した14 業種となる(2号の受入は建設業、造船舶用工業の2業種に限定されるほか、実際の受入開始は2021 年度から)。対象は人手不足度合いの強い業種に限定されている。また、外国人労働者は女性や高齢者の活用、生産性の改善でもなお足りない部分に限定して活用する方針で、政府の試算する将来的な人手不足数の一部を特定技能での最大受入見込み数として運用する形となっている(「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針について」(2018.12.25 閣議決定))。向こう5年の受入数は最大34.5 万人が想定されている。業種毎にみると、介護業(6.0 万人)や外食業(5.3 万人)、建設業(4.0 万人)が特に多い。
技能実習からの置き換え部分も、34.5 万人は純増要因ではない
新たな在留資格の創設は、4月以降の外国人労働者数の増加要因となる。ただし、特定技能2号の受け入れは21 年度まで見送られることもあり、短期的な影響はさほど大きくは無いだろう。足元の外国人労働者数は既に20 万人弱/年のペースで増加している中で、特定技能の受入数は最大でも6.9 万人/年(34.5 万人÷5年)である。そして、このすべてが外国人労働者の純増要因となる訳ではない。特定技能1号の要件の1つは技能実習からの移行であり、この場合労働者数の純増要因にはならない。また、新規に日本に来る外国人労働者についても、従来であれば技能実習を選択していた人が、特定技能1号を選択することも起こる。いずれにせよ、技能実習から特定技能1号へのシフトが少なからず起こるため、外国人労働者数全体に与える影響は年6.9 万人から小さくなると考えられる。外国人労働者数の増勢は、これまで通りないしは若干加速する程度にとどまる可能性が高いのではないか。
いつまでも来てくれる訳ではない、少子高齢化は先進国共通現象
中長期的に見れば外国人労働者が「呼べば来てくれる」状況がいつまでも続くとは限らないということを指摘したい。2018 年6 月のレポート1でも指摘したとおり、外国人労働者が日本に来る誘因となっている賃金差は、新興国の経済成長によって縮小していくからである。資料4は「各国通貨建てでみた日本の最低賃金」を「各国の最低賃金」で除したものを「日本への出稼ぎ魅力度指数」として定義し、その推移をみたものだ。指数は「最低賃金を前提とした場合、同じ時間労働した場合に日本で働くことによって自国よりも何倍の賃金が得られるか」を示す。近年労働者が急増している「ベトナム」の値は 2018 年時点で 22 倍に上っている。しかし、この値は趨勢的に低下している。新興国の経済成長に伴って賃金が日本を上回るペースで上昇するためだ。同資料では、IMF の一人当たり GDPの予測をベースに延長推計を行っている。こうした傾向は今後も続くだろう。
また少子高齢化やそれに伴う人手不足に悩む国は日本だけではなく、多くの国で共通する現象だ。隣国の韓国や台湾は外国人労働者をすでに積極的に受け入れており2、日本との獲得競争が生じてくる ことが予想される。出稼ぎ労働者は賃金の高い国を選好しやすいと考えられる。資料5は日本・韓国・台湾の最低賃金(ドルベース)をみたものだが、2018 年には日本と韓国の水準が逆転した。3国の中で日本は長らくトップに立っていたが、賃金面では韓国がすでに優位に立っている。
外国人労働者は企業の人手不足を一定程度解消することになるだろう。しかし、新興国の賃金上昇で日本に来るメリットは薄れるほか、近隣国との獲得競争も予想される。門を開けば来てくれる状況がいつまでも続くとは限らない以上、企業は外国人労働者の受入を既存ビジネスモデルの延命策とせずに、生産性改善、低い賃金を前提としたビジネスモデルからの脱却を進めていくことが肝要といえるだろう。(提供:第一生命経済研究所)
1 Economic Trends「外国人労働者の積極受入へ舵~2018 年骨太方針のポイント(外国人労働者編)」
2 韓国の外国人労働者数は96.2 万人(2016 年時点、韓国統計局)、台湾の外国人労働者数は70.6 万人(2018 年時点、台湾労働省)。全人口に占める割合は韓国1.9%、台湾2.9%、日本1.2%。
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 副主任エコノミスト 星野 卓也