ハイテク株
(画像=Getty Images)

はじめに

街中を歩いていると、今や高齢層ですらスマートフォンを持つ時代となったのを実感する。また子供家族とのやり取りを希望したり孫が教えたりするからなのか、スマートフォン、さらにはガラケーすら持ってはいないものの、iPadなどのタブレット端末は保有しているという高齢層も増えている印象がある。

総務省は日本人のスマートフォン保有率について、全年代平均で56.8パーセント、60台で33.4パーセントに上る旨公表している(2016年ベース)。またスマートフォン保有率が増大するのに比例して日々のインターネット利用時間も増大しているという。グローバル規模で見てもスマートフォン・マーケットは成長し続けている。2018年第4四半期には1.2パーセントの成長率を記録したという。

このように我々の生活にインターネットはかつてない程に侵入してきている。だからこそ今まで以上に、仮にインターネットが我々の生活から消えたときのインパクトは大きくなっているというわけだ。

世界的にインターネット世界は今、実は分断の危機に陥っている。その様な中でインターネットがダウンするという事態すらあり得る。一昨年5月に世界的に発生した、ランサムウェア「WannaCry」によるサイバーテロを思い起こすだけでもそのネガティブ・インパクトがすさまじいことは明らかである。英国会計検査院はこれにより英国にある全地域医療連携システムの約3分の1が多大な影響を被ったとの調査結果を報告している。

今や預金も株式もデジタル化され、ほとんどの公的書類もデジタル上で管理されている。特に銀行がサイバー攻撃を受けた場合に世の中に与えるインパクトは致命的である。ところがこうした事態が仮に起こったとして救世主となり得るのが、実は最先端テクノロジーの結晶と想われがちな仮想通貨なのである。

本稿はインターネット世界が現在抱える状況を明らかにした上で、金融機関のインターネットへの依存度合いを確認する。そしてだからこそ実は仮想通貨が一つの抜け道になり得るということを議論する。

今インターネットで起きていること ~国家による分断を図るロシア~

主題に入る前にインターネットの経済的な役割について振り返ることにしたい。そもそもインターネットの導入が一般的になったのは1995年頃であったが、米国では1980年代からすでにPCが一般に導入されてきた。これと同時に、それ以前までロケット・サイエンティストとして米航空宇宙局(NASA)や大学で宇宙開発・研究に携わってきた物理学者らが、宇宙開発予算の縮小と共にウォール・ストリートへ流れ、コンピュータ導入の一般化とも相まって金融工学の発達・普及を促していった。そうした流れの中でインターネットは(米国流)金融資本主義のグローバル化を一挙に加速化させた。水野和夫・法政大学教授が「電子・金融空間」と呼ぶものの誕生である。

今ではスマートフォンを通じてインターネットへのアクセス率は飽和しつつあるとも言えなくもない。誰でもインターネットにアクセスし、もはや「21世紀の石油」とすら呼ばれている「情報(information)=データ(data)」を容易に取得している。ユーザー数増加率が逓減しつつある中で新たに「加速化」という方向で情報通信技術は発展してきた。すなわち5G、さらには6Gの導入によりインターネット通信をますます加速化させていく、また通信量を増大させるという方向性へと舵を切っていたというわけだ。

こうした中でインターネットやデジタルの氾濫に対する反対が露骨化しているのは読者も周知のところである。直近で言えば、ニュージーランドでの銃乱射事件を受け、フェイスブックはライブ配信の制限をせざるを得ない方向へと追い詰められつつある。そもそも2016年以来、「ポスト真実(Post-Truth)」が“喧伝”され、フェイク・ニュースが一般で議論されるようになり、グーグルなどいわゆるFANGなどと呼ばれる企業が影響を受けてきた。そうしたインターネットやデジタル経済への反抗として生じているのが国家によるインターネットの管理であり、その口火を切ったのがロシアである。

ロシアの連邦議会下院が2月12日(モスクワ時間)、外国とのインターネット接続を規制する法案を通過させた。この法案の主内容はこうなっているという:

1.送受信データの経路を制御するルールを策定し、ロシアのユーザー間で交換されるデータの外国移送の最小化を図る。
2.送受信データのクロスボーダーライン・ポイントの決定。危機に直面した際にデータ送受信の集権化を実施。
3.データ送受信元を特定する技術的手段の通信ネットワークへの導入。禁止された情報を伴うソースへのアクセス、通過するデータの制限。
4.外国のインターネットサーバーへの接続が不可能となった場合に備えた、ロシアのインターネットリソースの能力を保障するインフラの整備。

ロシア国内でも一般レベルだけでなく、関係省庁レベルで競争力低下や接続規制にかかるコストの観点から批判的な声が強いのだという。それ以外にも、インターネットが世界規模で一時的なシャットダウンを経験したという設定でのテストを検討しているという(なお同実験は今月1日までに行われる予定だったというが、それが実施されたという報道はどうも見当たらない)。

もっとも、こうしたグローバルでのインターネットからの遮断は今に始まったわけではない。北朝鮮があるからだ。北朝鮮はいわば国全体を内部ネットワーク化しているわけで、ロシアの専門家の中には現在ロシア当局が進める形よりも、こうした北朝鮮のような内部ネットワーク化の方が低コストで簡単であると薦める声すらあるという。

読者の中には、「このような措置はいわば“独裁国家”が行う身勝手な動きだ」「民主主義が根付いた西洋諸国で起きるはずがない」という批判を述べる方がいらっしゃるかもしれない。しかし、そうした方に考えて直して頂きたい動きが、実は英国を中心として起こっているのだ。

個人によるインターネット奪還 ~英国が考えるインターネット解体~

インターネットを巡る技術はさまざまなものがあるが、その中でも多大な貢献をしてきたのがWWW(ワールド・ワイド・ウェブ)であった。これを開発したのが英国人のティム・バーナーズ=リーである。同人が構想した当時のウェブとは、分散化されたプラットフォームで、誰もがサイトを公開し、ほかのサイトにリンクを貼れるというものであった。

この技術を開発しナイトの称号を有するティム卿が昨年(2018年)、ウェブを支えるルールや基準を確立する必要があるとの認識をもつ人々と共同で、Contract for the Webというコミュニティを創設し、インターネットにあるデータを個人の下に取り戻そうとしているのだ。同人はこれを「インターネット界のマグナ・カルタ」と呼んでいるという。

国家としての英国もこれを支援するかのような動きを見せている。いわゆるテクノロジー・ジャイアントに対してユーザーを「保護する義務」を強制させる法案を検討中なのだという。

英国ですら、インターネット空間の解体運動が生じている。このまま何も起こらないとは決して言いきれないのである。

おわりに ~インターネット障害下で活躍し得る仮想通貨~

インターネットに障害が起きたとして最も影響を受ける一つが金融である。あらゆる金融商品がデジタル上で取引されている。こうした中で国内の資金決済システムである全銀ネットは、元来公衆交換電話網を用いるデータ通信手段を利用してきた。しかし、2024年1月にNTTの固定電話網がIP網へ移行し、これに伴いISDNの「ディジタル通信モード」が終了することから、2023年12月末までに、金融機関や日銀、利用者ら間のコンピュータ接続方式であった全銀協標準プロトコルのうち、公衆交換電話網を停止する措置を取る旨、一昨年(2017年)に公表しているのだ。もはや既存の金融システムはインターネットへの依存度をますます増大させているのである。

これに対し、一見インターネットが必須に想える仮想通貨が実は真価を発揮する可能性があるのだ。仮想通貨(ブロックチェーン)はそれにアクセスするのにインターネットが利用されており、またデジタル上の通貨だということでインターネットの必要性が前提視されているが、実はそのようなことはない。

古くは2014年にフィンランドで実施されてきたのだが、ビットコインはアマチュア・ラジオを通じて送信することができるのだ。具体的には、インターネット非接続でアンドロイド携帯と4つのポータブル・アンテナを用いて、ニュージーランドにおいて12.6km先に仮想通貨を送信することが出来たのだという。

我が国においても、金融とは関係ない形ではあるが、博報堂の子会社がトークンとして実装されたデジタル・アセット情報をラジオ番組の音声に埋め込むことで視聴者に転送し、視聴者はスマホのDappsでそれを受信するという配信方法を実証したのだという。

無論こういったシステムは現時点でインターネットを前提としたものであるから、直ちにインターネットに置き換わることは無い。但し、ラジオというアナログ機器がデジタルを上回る可能性があるという「抜け道」が現前にあるのだ。そのことを念頭に置きつつ、インターネットの存在といったこれまでの“当たり前”はもはや“当たり前”ではないという柔軟な発想に切り替えなければならない。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

大和田克 (おおわだ・すぐる)
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー。2014年早稲田大学基幹理工学研究科数学応用数理専攻修士課程修了。同年4月に2017年3月まで株式会社みずほフィナンシャルグループにて勤務。同期間中、みずほ第一フィナンシャルテクノロジーに出向。2017年より現職。