新元号の名称が発表されてから、すでに多数の「令和」関連グッズが登場している。それらが発表1週間時点で発売されたものが、その後にどのくらい販売増加に結びつくのかを試算すると、11.0 億円(月額換算値)となった。それらの点数の内訳は、ゴム印、Tシャツなど価格がそれほど高額でないものがほとんどだ。むしろ、令和の経済効果は、10 連休をはさんで国内旅行などのかたちで本格化するだろう。
関連商品の代表はゴム印・Tシャツ・カレンダー
4月1日11 時41 分に新元号「令和」が発表されて、4月8日で丁度1週間が経過した。この時点までの令和発表後の消費活動への影響をまとめてみた(速報性のあるものとしてインターネット内に限定)。
少し驚くのは、事前に多くの関連商法が登場するだろうと予想していた筆者ですら、その予想を上回る製品数が多数出現したことである。
「令和」関連商品についてインターネット内のグッズのうち重複をのぞいた600 点をサンプルとして抽出して、その内容を分類した。この600 点は全てが財であり、サービス(旅行パックなど)を含んではいない。まず、分類としては、(1)令和の文字が製品に印刷・印字されているもの(53.2%)、(2)既存製品の価格を割引くもの(含むポイント割増、10.5%)、(3)「令和」にちなんでセールとして売り出すもの(令和の印字なし、割引なし、36.3%)となっていた。
このうち、(1)の「令和」の文字が付いた製品については、その29.2%が和暦を修正する用途のゴム印で最も多く、次に「令和」の文字の入ったTシャツ・パンツが11.0%、カレンダー7.8%、のぼり7.8%、酒類6.0%、ステッカー5.0%などとなっている(図表)。点数こそ多いが、単価はそれほど高くないものが主である。多くの製品では、外装の印刷・印字などを「令和」に替えて、既存の製品のパッケージなどを更新しており、追加コストをあまりかけていないことがわかる。
また、セールとして売り出しているものの中には、国旗のセットや和服・帯など、5月1日の改元の日にそれらを使う人が増えそうなことを意識したものが目についた。
(1)~(3)のすべての製品について、1点当たりの単価を調べると、1万円以下の製品(全数の8割)は2,774 円であった。実は、すべての製品の平均価格はもっと高額なのだが、それは少数の高額製品に平均値が引っ張られていると考えられる。そこで、ほとんどの消費者が購入するのは1万円以下であると仮定して、平均購入単価は2,774 円とみなすのが適当だと考えた。また、ネットではなく、リアルの販売では令和記念としてより高額な製品が売られている可能性が十分にある。
月額で11.0 億円の販売増加
次に、すべての消費者は、「令和」関連商品をどのくらい購入しているのだろうか。インターネット・サイトで関連商品が全体としてどのくらい掲載されているのかを推定してみた(この中に重複も含む)。4月8日の「令和」発表から丁度7日間で、検索エンジン(YahooJapan)にどのくらいヒットするかを調べると、「令和」のキーワード検索で10.10 億件のヒット件数があった。サンプル調査を試みると、何らかの商品に関連した記事が約1/4 ほどあった。そこに、ホームページのクリック率、さらにホームページを見て製品の成約に至る率(コンバージョン率)を乗じて、1か月間での販売数は39.7 万点と少し大胆な方法で推定した。これに平均購入単価2,774 円を乗じると、関連商品の売上は月額11.0 億円となる。
注:インターネット広告は、それを1か月間で閲覧した人の割合をクリック率(ここでは5%)で表す。さらに、そのホームページを閲覧した人の中で、製品の成約に結びついた比率をコンバージョン率という。通常のコンバージョン率は1%である。ヒット商品は1~3%とされるので、ここでは3%を採用した。
1週間の短期間で登場した製品の売上増は4月1日~30 日まで11.0 億円ということになる。この11.0 億円は、スタート当初の販売増加の効果としてもっと大きくなるかと思っていた。金額が膨らみにくかった理由は、単価が安いからだ。多くの事業者にとって、「令和」関連商品の市場に参加するための参入コスト(投資費用)は低いのだろう。特に、既存製品にアレンジを加えるときの追加的投資費用は、主に印刷代などに限られる。従って、今回も市場に素早く関連商品を投入できたのだろう。そうした参入障壁の低さは、安い価格で関連商品を大量に投入できた背景である。販売増加を大きく見込まないことは、マクロでの参入コストの大きさがそれほどの規模ではないことを示している。
今後も拡大していく販売増加額
なお、令和発表後の1週間で登場した関連製品数は、今後はどのようになると予想されるだろうか。ホームページのキーワード検索で「令和」でヒットした件数は、発表から1日後は8.89 億件。7日後は10.10 億件であった。
注:令和のヒット件数が一本調子で増えるかどうかは慎重に考える方がよいという見方もある。令和でツイートされた件数は初日は13 万件前後と大きく盛り上がったが、2日目は3万件前後まで減衰した。ネット内の話題は熱しやすく冷めやすい。
現在は、1週間というごく短期間で商品化された製品が対象となっているため、関連製品の単価は低い。今後、より大きな投資費用をかけた製品が登場してくる可能性は十分にある。
現時点では、令和がまだスタートしておらず、令和の名称を何らかの商機と捉えた足の速い事業者の参入に限定されている。今後は、10 月に予定される消費税率の引き上げに絡んで、5~9月にかけて割引キャンペーンを打ち出す事業者の増加が予想される。また、10~12 月はいよいよスタートするキャッシュレス決済のポイント付与と絡めて、元年キャンペーン割引を企画する事業者が現れることが予想される。4月1日以降に改めてわかったことは、「令和」という言葉をきっかけにして、多くの数の民間企業がかなり積極的に商機をつかもうとしている様子である。今回、関連商品を売り出した企業では、直接的な販売増加よりも、間接的に話題としてメディアなどに取り上げられることで、知名度アップを狙ったとされるものもある。良い意味で商魂たくましいとはこのことだろう。巷間、日本企業にはベンチャー精神が乏しいと論評されることがあるが、なかなかどうして強かではないか。
令和のPRコストは僅か24 時間で10 億円
令和という言葉は、4月1日よりも前はキーワード検索でもヒット件数はほぼゼロだったろう。それが1日後の4月2日の11:41 には、8.89 億件ものヒット数に増えた。1つのキーワードが一夜にして8.89 億件も増えた経験は、極めて稀ではなかろうか(日本語限定)。
初日の8.89 億件を、インターネット内でのPR費用で換算すると、10.2 億円に相当する。少し意味づけをすると、政府が「令和」という言葉を国民にインターネットでPRするために事業者にどのくらいの費用を支払わないといけないかを計算したものである。この費用を機会費用だと考えると、政府は1日間(24 時間)で10.2 億円の利益を得たのと同じことになる。
令和効果はこれから本格化
関連商品の販売増加額は、月額11.0 億円と限定されていた。通常、経済効果といえば、数千億円から数兆円という巨大な金額として喧伝される。そうした試算に比べると地味である。ただ、リアルの販売ルートで令和関連グッズがもっと販売されている可能性もある。ここではリアルのルートの販売分を含めていない。
令和が喚起する需要増については、むしろ、4月末からの10 連休による国内旅行増の方が、令和関連グッズの販売増よりも圧倒的に大きい。筆者は、10 日間で総額14,824 億円の国内旅行消費が支出されて、それは前年比+3,323 億円の増加となると推定している。こちらは、4~6月のGDPにも明らかに上向きの勢いを与えることだろう。やはり、消費の勢いは、モノよりもコトに移っているとみられる。
令和関連商品の中には、国旗、和服・帯、日本酒といった和の文化と深く関係したものもあった。それらがどのくらい人気を集めるのかはまだわからない。10 連休が終わっても、改元の5月1日に前後して、数々の皇室行事がテレビなどに映し出されるだろう。皇室の伝統を紹介することが、京都、奈良に旅行してみたいと思う人々の気持ちを喚起する可能性も大いにあると筆者はみている。
関連商品が勢いよく登場して、それらが活発にメディアに紹介されることは、また消費増の前哨戦が活発だったという段階に過ぎないだろう。海外からやってくる景気減速の圧力に対して、どのくらい対抗するパワーとして令和効果は威力を発揮するだろうか。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生