SDGs,基礎知識
(画像=Alexandros Michailidis/Shutterstock.com)

はじめに

読者の身の回りに外国出身の方はどれ程いるだろうか。日本では高齢化に伴う国内需要の減少を補うための1つの施策としてインバウンド需要、すなわち外国人旅行者を積極的に呼び込んで消費を促そうと動いている。特に人気観光地である東京、大阪、そして京都では各地のホテルが高まる需要に対応しきれないため、本来であれば住居として貸し出しているマンションの一室やはたまたラブホテルまで観光客用のホテルとして提供する動きが出ている

日本にやってくるのは観光客だけではない。経済的に豊かな日本で稼ぎたいと外国人が労働者として日本へやってくるパターンも非常に多くなってきている。いわゆる外国人労働者として彼らは日本に中長期的に滞在し、日本で稼いだ給料を本国の家族に送金したり、自分自身の勉強のために消費したりしている。

この状況は決して日本固有の現象ではなく、世界的に生じている現象である。彼らが日本の労働需要を満たしてくれればそれで良しとする考えもあるかもしれないが、海外では外国人労働者といった存在が自国の労働者を締め出しているという批判も上がっている。

さらに深刻な問題として世界的に取り組まれているのが、本国から止むなく出ていくことになった難民を巡る問題である。難民を巡っては、米国とメキシコ間でトランプ米大統領が国境線に壁を建設し移民の不法入国を阻止しており、欧州に目を向ければドイツや東欧地域で難民の受入を制限する動きが広がっている

なぜ彼らがそのような扱いを受けざるを得ないのか。その理由としては地元住民との軋轢が生じていることがある。具体的に行く当てもなくやってきた難民たちが町にたむろすることで治安が悪化しかねないというのだ。さらに深刻な理由が難民に紛れてテロ行為を働くために入国する人物がいる可能性があることだ。実際に去る2015年にパリで起こったテロ事件は移民と称して入国した人物の仕業であるという声が上がっている。

このように移民を取り巻く環境というのは日に日に悪化の一途を辿っている。そして先日、カナダで移民および難民に対する新しい政策方針が公表された。カナダにこれから移民として入国しようとする人物に対してAIによる審査を導入するというのだ。つまり大量の情報をベースにしてAIがその人物が入国して良いか否かを決めてしまうということだ。当然ながら当該処置を巡っては新たな移民差別ではないのかと懸念する声がある。さらにそうした動きに合わせる形でカナダでは、ある人物がカナダに移民申請をしたとして、仮に同人が過去他の国から移民申請を拒否されている場合、カナダもその人物の受入を拒否する可能性があると“喧伝”しているのである。

こうした移民を巡る情勢として、ブラジルではAIを使って新たにどれ程の移民もしくは難民が生じうるのか予測を立てようとする動きも出ている。米国ではトランプ米大統領がより米国へやってくる移民を減らすことと、加えてAIをより積極的に導入することを目指すと発言している。すなわち単純労働はAIにさせよということである。米国においてはAI技術で移民分類分けをすることはまだないものの、それでもグーグルやアマゾンは顔認証システムの共通ルール策定を求めるなど、移民対策としてAIを使う素地が出来つつある。  なおカナダにおいてはまずAIを使って移民の分類作業を実施するに留めると発表している。収集したデータを基にして将来的にはAIが全ての判断を担っていく可能性がある。カナダにおけるこの動きはさらに前進することになるものと考えている。その理由は既に米国とカナダの間で難民情報について共有する旨合意しているからだ。入国希望者の情報が上記の両国間も含め複数国家間でシェアされるようになれば、あらゆる地域で移民への引き締めが加速する可能性がある。そしてこの状況がこれから日本で生じる本当の展開を予兆しているとしたらどうだろうか。

日本の移民政策 ~日本は本当に「移民大国」なのか~

日本は移民大国だという指摘がある。実は我が国はこれまで200万人以上の外国人居住者を受け入れている実績を持つ国なのだ。この数は世界でも第7位につけている。その数字にはビジネス・パーソンや非正規滞在者を含んでおらず実質ベースではより多くの外国出身者が日本で生活している。

では果たして日本は「移民大国」なのかと問われると、必ずしもそうとは限らない。増え続けているのは単純労働者として一時的に流入している層が多いと考えられているからだ。彼らは「移民」ではなくあくまで「短期滞在者」に留まるからだ。無論、彼らに定住してもらうことで彼らは「移民」になることも出来るものの、日本は移民の入国審査に時間を要するという別の課題も考慮に入れる必要がある。日本の治安の良さや、経済的な豊かさ、さらには教育環境の良さを求めてやってくる人々は後を絶たないが、気の遠くなるような審査時間を経てようやく滞在が許可されるといったことある。すなわち、日本には外国人居住者が数多く存在し、外国人労働者も積極的に受け入れる動きを見せつつあるものの、「移民大国」という呼称は誤りである可能性がある。

特に申請が集中するのは東京である。実際、筆者は外国からの約半年間を目途に外国人を給与付きで受け入れる準備を進めていた方に話を伺う機会があったが、分かったことは移民や難民でなく、日本の企業が外国から労働者として招聘する際でも勤務開始予定日から少なくとも3か月は事前に書類を提出する方が良いということだった。

このような事情を受けて、第2次安倍政権になってから、日本は外国人労働者を積極的に受け入れていくべきだという論調が叫ばれるようになった。それは日本が高齢化社会に突入したことが最大の原因だといわれている。人口の高齢化が進んでいるということは若年労働者の相対的減少を意味するに他ならない。その穴埋めをすべく期待されているのが外国から若い労働力を獲得するという方法である。

また日本は難民をもっと受け入れるべきだという論調もよく聞こえる。特に人道的な見地からもっと受け入れるべきではという意見が寄せられている。ここで日本がより一層移民及び難民の受け入れを加速させる場合に大きな問題となるのが入国審査をいかにして高速化するのかである。そこで採用される可能性があるのがAI技術による審査プロセスの自動化である。 日本でAI技術が導入される蓋然性が高い理由として、個人情報の商用利用に対する規制が他国のそれと比べて緩いためだ。特に東京には常に順番待ちの移民申請者がいることから、対応の処理速度を上げるためにカナダ同様に移民の分類作業からまずはAI技術が利用される可能性がある。そしてそこで集められる個々の移民の情報が蓄積されるだけでなく、日本の入国管理局から情報が集約されることで将来的な入国審査のAI技術による自動化が実施される。仮にそうなった場合、日本がどのように変化していくのであろうか。日本は「移民大国」になるのだろうか。

おわりに ~日本は「移民」を受け入れていくのか~

日本がこれから移民の取り扱いに際してAI技術を利用する可能性について述べた。仮にそうなった場合に日本においてもカナダが行ったのと同様にAI技術で移民を選別することになれば、移民をより受け入れるよりもむしろ都合のいい人物だけを選定しようとする動きになることも懸念されている。そうなりかねない危険性を踏まえつつも、日々大量にやってくる移民とその情報を処理するには限界があるのだ。例えば自動化は移民の分類作業にのみ限定するなど、アナログとデジタルの折衷案を求める方向性もある。

また移民がテロ事件や地元住民との衝突に繋がる可能性もあり、いわゆる地政学リスクとしてマーケットへ負の影響を与えることも同時に考慮しなくてはいけない。

他方で、必ずしも移民が常に悩みの種ということはないのではないか。なぜならば極めて優秀なグローバルな環境で活躍のできる人材の獲得競争という観点から見れば、決してマイナス面ばかりではないからだ。。AIによる移民受入審査の自動化は確かに不都合な人物を除く側面ばかりが注目されるが、逆もまた然り、ということもあるはずだ。政府が主体となって彼らにとって好ましい人材を入れる、というような動きに出ることも考えられる。その動きがAIによる自動審査で加速すれば、「移民」の増加を受けて日本が本当の意味で「移民大国」化することもありうる。

かねてより弊研究所は日本のデフォルトの可能性について述べてきた。仮にそうなった場合にむしろその窮地を活かすことが出来れば、デフォルトから復活したモデル・ケースとして日本が国際秩序の中心に躍り出る可能性がある。その一助として世界中にいる、日本的なるものと日本の可能性に共感する人物が日本を中心とした平和秩序というものの形成に繋がりうることも踏まえて、今後の日本の移民政策とAI技術導入がどのように展開していくのか注視して参りたい。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

岡田慎太郎(おかだ・しんたろう)
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー。2015年東洋大学法学部企業法学科卒業。一般企業に勤務した後2017年から在ポーランド・ヴロツワフ経済大学留学。2018年6月より株式会社原田武夫国際戦略情報研究所セクレタリー&パブリックリレーションズ・ユニット所属。2019年4月より現職。