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(画像=Combatcamerauk / Shutterstock.com)

はじめに

特にTVを見ていると情報が「流れていく」。すなわちつい1週間前に報道されていたことが何だったか思い出すことは難しい。下手をすれば昨日流れていたことも、である。つい1~2か月前には散々話題になっていたBREXITについても今やあまり報道されなくなってしまった。

その典型が「イスラム国(IS)」である。もはやシリアで同国は壊滅したとされ各軍は同地から撤退し、中東ではむしろイランやサウジアラビアに焦点が集まっている。その別称である「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」にあるイラクにおいても「イスラム国(IS)」は掃討されてしまっている。すでに「イスラム国(IS)」は消滅してしまったのか?

当然ながらそのようなことは決してない。先月下旬にスリランカで発生したテロ事件について「イスラム国(IS)」が犯行声明を出した上、今やインドパキスタンにおいて「イスラム国(IS)」が独立を宣言しているのだ。

(図表1 インドで政府軍に殺害された反乱軍司令官の埋葬光景)

図表1
(画像=Asia Times)

マレーシアでも逮捕されたイスラム教原理主義者がイスラム国(IS)との協力関係を明言したことで、クアラルンプールにある寺院が警戒を厳格化している。ここで生じているのが再度の「『イスラム国(IS)』の東漸」(東への進展)である。昨年11月11日(マニラ時間)にはフィリピンにおいてイスラム教徒の反政府勢力がイスラム国(IS)に参加していることが“喧伝”されていたのであり、冷静に振り返ると、「イスラム国(IS)」は中東で勃興が“喧伝”されては欧州や((東)南または中央)アジアに現れ中東で掃討され、その後しばらく経つと中東で指導者が復活し(厳密には「生存」が“喧伝”される)、再び中東での掃討作戦が繰り返されるというパターンを繰り返してきたのである。

しかしこのように中東から欧州・(東)南アジアから再び中東へというイスラム国(IS)の行動パターンが崩れる可能性が生じていると筆者は考えている。どういうことなのか?本稿は再び勃興しつつあるイスラム国(IS)の今と未来を分析する。

「イスラム国(IS)」の今 ~何が起きているのか~

念のため、イスラム国(IS)とは何かを整理しておきたい。公安調査庁による報告を参照するとこうなる:

ア 活動目的

独自のシャリーア解釈に基づくカリフ国家の「建国」とその発展やスンニ派イスラム教徒の保護を目標とする。同「国家」の支配地については,シリア北部からイラク中部にかけての地域に言及する一方で,究極的には,欧米諸国やイスラエルなどを打倒した上で,中東域外への影響力拡大の姿勢も示している。

イ 攻撃対象

イラク,シリアの両国において,①政府,②治安部隊,③親政府系民兵組織,④クルド人勢力,⑤シーア派などイスラム教スンニ派以外の宗派,他宗教の住民-などを標的としてきた。このほか,酒類販売業者などISILが不道徳とみなす主体,インフラ設備,外国人を含むジャーナリスト,反体制派勢力などに対してもテロを実行してきた。

また,イラク駐留米軍の撤退(2011年12月)後も,声明を通じて,米国を標的としたテロの実行を警告してきた。

さらに,イラクやシリアでのISILに対する空爆開始(イラク:2014年8月,シリア:同年9月)以降は,空爆に参加する欧米諸国などを標的としたテロの実行などを呼び掛けており,2015年以降には,掃討作戦などによって軍事的劣勢が強まるにつれ,これら欧米諸国やISIL掃討に関与する国々への攻撃姿勢を強めている。

 イスラム国(IS)を巡っては何度もその指導者の殺害・生存確認が“喧伝”されてきた経緯があることを忘れてはならない。たとえば早くは2017年6月にロシア国防省がその指導者であるアル・バグダディ師を殺害した旨公表している。

(図表2 イスラム国(IS)指導者殺害を公表したロシア国防省について報道するロシア・メディア)

図表2
(画像=YouTube)

しかし2018年8月23日にはイスラム国(IS)が同師による音声メッセージを公表している。さらに先月末にはアル・バグダディ師自身が出演しているとされる動画が公開されているのだ。

他方で、2017年5月にはミンダナオ島でイスラム国(IS)が占拠を宣言し昨年後半になって掃討が完了した。またカザフスタンが昨年末以来、シリアからの避難民についてイスラム国(IS)の戦闘員が混在している可能性を憂慮し捜査を続けている。このような中で、アフリカにおけるイスラム国(IS)の活動が再度活発になりつつある旨“喧伝”されている。それはスリランカにおけるテロがイスラム国(IS)によるものであると真っ先に報道した新聞であり、非常に興味深い。いずれにしても、イスラム国(IS)が先月末の指導者によるメッセージ以来、再び勢力を盛り返すと共にその活動を活発化させているのは間違いない。

おわりに ~「イスラム国(IS)の東漸」という可能性~

イスラム国(IS)を巡っては非常に注目している報告書がある。米陸軍・海軍・空軍・海兵隊の特殊作戦部隊を統合指揮する米特殊作戦軍(United States Special Operations Command)の傘下にある米軍の特殊部隊を統合特殊作戦大学(Joint Special Operations University)が昨年上梓した報告書「ISIS 2.0:南アジアおよび東南アジアにおける機会と脆弱性」である。

著者はインド出身の専門家であるという。このような公表物に付きものな註ではあるが、これは統合特殊作戦大学(Joint Special Operations University)の意思ではないという。とはいえどもこの報告書が大学内で共有されている可能性はある訳で、無視しているということは無いはずだ。

(図表3 報告書「ISIS 2.0:南アジアおよび東南アジアにおける機会と脆弱性」)

図表3
(画像=Joint Special Operations University)

この報告書が興味深いのが、バングラデシュやミャンマー、インドネシア、更には先日独立宣言をイスラム国(IS)が出したインドにおける拡大を警告している点だ。インドネシアは世界でも最大規模のイスラム国家であり、早くは2016年1月にもイスラム国(IS)に関連する組織によるとされるテロ事件がジャカルタで発生している。今やイスラム国(IS)の拡大が“喧伝”されているが、むしろ「イスラム国(IS)の東漸」こそが我々にとって重要な論点なのである。

ただしこのまま南アジア・東南アジアにおける勃興で「イスラム国(IS)」が済むとは限らない。その確率は低いものの、東アジアにまでその歯牙を掛ける可能性が生じつつあるというのが卑見である。

まずは韓国である。シリア=韓国間には実は国交が無いものの、人道的観点から去る2014年には457人のシリア難民を受け入れている。なお韓国内にもインターネット上でイスラム国(IS)を支持する旨を発信した人物がいることを国家情報院が確認しているという。また現在は厳格化しているが、観光促進のためにビザ不要としていたことで、マレーシアなどで居住期限の切れたイエメン難民が昨年には済州島に一斉に訪れるという事態が生じたのだ。文化的な差異や財政負担が大きな問題となっているという。我が国と同様に東南アジアとの関係深化を図っており、特にインドネシアとの関係を深める韓国においてもわずかながらイスラム国(IS)が萌芽している。

次に中国である。ウイグル族に対し何度もイスラム国(IS)への参加が疑われ、逮捕される事態が生じてきたわけであり、ここ数か月の間に中国がウイグル自治区における締め付けを強化しているのは、このような側面から見ればテロ対策とも言えるのである。

我が国も例外ではないというのが卑見である。去る15日、時事通信が興味深いインタビューを発信した。イスラエル市民権を持つ日本人女性にインタビューをしたのだが、その女性がイスラエル軍の対テロ部隊に所属しているというのだ。言うまでも無くイスラエル軍はイスラム国(IS)への攻撃も行っている。同女史が参画する部隊がそうという公開情報があるわけではないが、当然ながらイスラム国(IS)に対する攻撃を想定した訓練は行っている。したがって、この部隊が対テロ作戦としてイスラム国(IS)を攻撃する事態があれば、報復措置を行う可能性もゼロではないというわけだ。かつてイスラム国(IS)に日本人ジャーナリストがやおら拘束され、殺害されるという事態があったが、今度は明確な報復という形で「イスラム国(IS)によるテロ行為」が生じても不思議でもないのだ。

かつて2015年には我が国にもその重要メンバーが潜伏していた旨、週刊文春が報道したことがあった。決して対岸の火事と高をくくってはいけないのである。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

大和田克 (おおわだ・すぐる)
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー。2014年早稲田大学基幹理工学研究科数学応用数理専攻修士課程修了。同年4月に2017年3月まで株式会社みずほフィナンシャルグループにて勤務。同期間中、みずほ第一フィナンシャルテクノロジーに出向。2017年より現職。