はじめに ~韓国経済の凋落~

日韓
(画像=Benguhan / Shutterstock.com)

韓国経済の凋落が叫ばれるようになってきた。数年前であれば日本の名だたるメーカーを抑えて韓国の電化製品や自動車など広く欧州やアジア地域でもてはやされてきた。未だある程度の人気こそ保つことが出来ているものの、韓国経済の低迷が徐々に囁かれてきているのである。その原因の1つとして中国への輸出製品が米中貿易摩擦の影響を受けて低迷していることが考えられている。

例えばサムスン電子は韓国経済を支える柱ともいえる企業である。同社はスマートフォンやテレビといった最終財の製造・販売メーカーとして日本でも非常に有名である。また半導体製品のメーカーとしても国際的に有名である。米国が中国との貿易摩擦の結果として科した追加関税のあおりを受ける形で韓国の対中輸出も大きな衝撃を受けたのであり、その衝撃によって最も大きい売上幅縮小を見せることになったのである。

サムスン電子のお家芸ともいえるメモリ事業は「メモリ・バブル」ともいえる活況の内は好調を維持してきたものの、同社のメモリ事業の“凋落”を受けて一気に転落し始めたと言われている。スマートフォン・マーケットそのものにおける需要低迷も同社やその他の韓国企業の業績悪化に対してさらに追い打ちをかける形になっている。テレビ用のディスプレイなどでも後進企業の成長のあおりを受けるように苦戦を強いられている。

韓国の主要なエアラインであるアシアナ航空がこの度売却に出されることになったという事実も韓国経済“凋落”を示す大きな出来事である。アシアナ航空は韓国の財閥である錦湖アシアナグループの傘下であるが、このニュースが意味するところは韓国の財閥企業経営という根幹が揺れ始めたということを意味している。

他方で、中国からは韓国のダンピングを指摘する声も上がっており、韓国経済がいよいよ窮地に立たされている。このようにかつては栄華を誇った韓国であるものの、ここにきてむしろ厳しい立場に立たされていると言える。我が国にとっては一見すれば競争相手である韓国の輸出とそれに伴う経済不調は朗報であるともいえる。国際マーケットで勝負している相手方が失速することになるからだ。製品の質の高さはお墨付きだが韓国製品より割高というイメージを持たれてきた我が国のメーカーにとっては今がチャンスと言える一方で、実は韓国経済の好調が日本の経済を支えてきた側面も実はあるのだ。

韓国製品の屋台骨を支える日本の技術

韓国メーカーと国際マーケットでしのぎを削る日本企業、というのが一般的に語られるイメージである。しかしアジア経済危機後は韓国の財閥メーカーであるサムスン電子やSK、LGといった名だたる企業群が日本のシャープにパナソニック、日立といった有名企業がシェアを守ってきた牙城を崩してきたのである。しばらくするとウォン安の影響を受けて、欧州やアジア地域で韓国製品がマーケットを席巻するようになった。その結果表向きはマーケット・シェアを奪われ、日本の輸出企業の低迷と日本経済全体への悪影響へとつながったされている。

しかし日本経済全体として見れば必ずしも負けっぱなしではなかったのである。韓国の電化製品製造の際に、その最終製品の部品を細かく見ていくと、実は多くの日本製中間財が含まれていることに気づくことが出来るのだ。特に鉄鋼製品やコンピューター・スマホ用の中間素材について、アジア通貨危機後の韓国が復活する際に日本製品が支えてきたことが分かっている。つまり例えばサムスン電子がスマートフォン・マーケットなどで快走すれば、他方で日本のLED大手のクラレや半導体大手のディスコが躍進するというわけである。

この仕組みが実は日韓双方にとってうまみのあるスキームであることはご存知だろうか。日本の最終製品が直接海外マーケット・シェアを落とす一方で日本の中間財を使った韓国製品が売れることで、日本が直接海外に商品を売り込むよりもコストが安く済むのだ。特に海外の企業に生産・販売をしてもらいそこで得た収益を配当という形で本国に戻すことで関税負担を抑えることが出来る。中間財貿易は最終財を自ら作って売る場合と比べれば、消費税や関税を価格に上乗せしなくてよくなるため、日本の半導体メーカーなどにとって大きな収入源として実は密かに使われている。

このようなスキームの下で実は韓国経済好調のうまみを得てきた我が国であるが、翻って見れば韓国経済の低迷がそのまま日本経済へ悪影響を及ぼしかねないということである。もちろん、韓国が世界市場でシェアを落とすことで日本企業が再び進出する可能性もあるが、同分野での中国の躍進なども考慮に入れると、やはり中間財による売り上げが主とならざるを得ないのである。韓国経済がくしゃみをすれば日本経済が風邪を引く可能性がある。では今後どのようなリスクが韓国経済あるいは日本経済を待ち受けているだろうか。そのカギはもう1つの隣国にある。  

おわりに ~朝鮮半島統一後の展開を考える~

韓国経済と日本の中間財メーカーの関係性を考えてきた。ではこれからも同スキームは継続されるのであろうか。その際に重要な要素となる可能性があるのが実は隣国北朝鮮であるというのが卑見である。既に弊研究所の各種調査分析レポートでは繰り返し言及してきた事実ではあるが、北朝鮮は同地域に豊富な天然資源が埋蔵されている蓋然性が高いのだ。レアメタルやその他天然資源は韓国経済を支える電子メーカーが重宝している半導体製品を生み出すために欠くことが出来ない重要資源である。現状、北朝鮮は自由に貿易が出来ない状況に追い込まれている。北朝鮮は日本との関係では拉致問題の解決が未だであるだけでなく、国際的にはやめるそぶりを見せない核開発と挑発的なミサイルの発射実験を繰り課したことで経済制裁を受けており、とても経済発展とは遠い状況にあると言わざるを得ない。

しかしながら他方でにわかに囁かれ始めた朝鮮半島統一が大きな変化をもたらす可能性がる。朝鮮戦争の勃発がその要因ともいわれているし、あるいは米国と北朝鮮の大団円も韓国経済の凋落を後押しし、朝鮮半島統一を達成することになる可能性がある。

仮に朝鮮半島統一が達成された場合、有り得るのは南北共同事業の再開、すなわち経済交流の再開である。統一国になる以上資源の利用も一層進むことになる蓋然性が高く、ついには「Made in (United) Korea」がマーケットに多く現れるようになる日も決して遠い未来ではない。しかもある最終製品に占める部品等の原産地も朝鮮半島の純正に出来る割合が増えるはずだ。技術的な進歩という面で南北がどのような協力・統合を進めるのかは現時点で不明瞭ではあるものの、可能性として考慮に入れるべき要素である。

我が国に関して言えばこれまでの中間財貿易のスキーム変更を余儀なくされる可能性がある。半導体メーカー全体の業績にも影響があるものと考えられる。アジア・マーケットの再編を受けて我が国が引き続き存在感を示すには製品の品質や性能の向上も含めた刷新が必要である。日本マーケットを考える際にはまずは隣国を見てみるべきである。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

岡田慎太郎(おかだ・しんたろう)
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー。2015年東洋大学法学部企業法学科卒業。一般企業に勤務した後2017年から在ポーランド・ヴロツワフ経済大学留学。2018年6月より株式会社原田武夫国際戦略情報研究所セクレタリー&パブリックリレーションズ・ユニット所属。2019年4月より現職。