韓国の経済成長率がマイナスに(速報)

韓国銀行は4月18日に発表した「2019年経済展望(修正)」で、韓国の経済成長率(実質)の予測値を2.5%に下方修正した。これは今年の1月24日に発表した「2019年経済展望」の予測値2.6%を0.1ポイント下回る数値である。経済成長率の予測値は2018年4月から今年の4月までの1年間で4回も下方修正された。

一方、韓国銀行が4月25日に発表した「2019年第1四半期実質国内総生産(GDP)速報」によると、2019年第1四半期の経済成長率は対前期比マイナス 0.3%と、世界金融危機だった2008年第4四半期の経済成長率がマイナス3.3%になった以降、およそ10年ぶりの最低値を記録した。民間および政府の消費支出は対前期比それぞれ0.1%と0.3%ずつ増加したものの、輸出は半導体をはじめとする主力製品の不振が続いた結果2.6%も減少し、さらに設備投資は10.8%も減少した。

韓国,経済成長率
(画像=ニッセイ基礎研究所)

経済成長率(四半期)がマイナスになったのは文在寅政権になってからもう2度目

経済成長率がマイナスに転じたのは文在寅政権になってからもう2度目のことである。80年代以降の歴代大統領のうち、経済成長率の減少を二回以上経験したのは盧泰愚元大統領(1988年第2四半期:マイナス2.0%、1989年第1四半期:マイナス0.1%)と金大中元大統領(1998年第1四半期:マイナス7.0%、1998年第2四半期:マイナス0.6%、2000年第4半期:マイナス0.7%)のみであった。

盧泰愚元大統領の場合は、1988年と1989年の年間経済成長率がそれぞれ11.9%と7.0%になったので、一時的に経済成長率がマイナスになったことは大きな問題にはならなかった。また、金大中元大統領時代に経済成長率がマイナスになったことは1997年末に起きたアジア経済危機の影響が大きく、その後韓国経済が回復し始めたので非難の的になることはなかった。まだ、文在寅大統領(以下、文大統領)の経済政策を評価することは時期尚早かも知れないが、このままだと非難を免れない可能性が高い。

文大統領が就任後初めてサムスン電子を訪問、非メモリー半導体分野の成長に期待

現在の韓国の経済情勢に危機感を感じたのか、文大統領は今年の4月30日にサムスン電子の華城(ファソン)事業場を訪ねた。文大統領がサムスン電子を訪問したのは就任してから初めてのことである。文大統領はこの日、開かれた「非メモリー半導体(システム半導体)ビジョン宣言式」に参加し、「現在、半導体分野は韓国の輸出の20%を占め、17.5万人が働いていることを強調しながら、政府も分野別に革新戦略を立て国民と企業が新産業分野に進出できるように積極的に支援する」と話した。政府は、この行事の前である4月22日に非メモリー半導体、バイオ、未来型自動車を「3大重点育成産業」に選定しており、非メモリー半導体産業に政府主導でドライブをかけると対外的に公表したばかりである。

半導体メモリー分野ではサムスン電子とSKハイニックスが健在し、韓国企業の世界シェアはDRAMが70%以上、NANDフラッシュメモリーが40%以上を占めている。しかしながら、非メモリー半導体分野における韓国企業のシェアは3~4%で、世界1位の米国(60~70%)はもちろん、ヨーロッパや台湾にもおされている。

半導体メモリーがデータを記憶して保存する機能があることに比べて、非メモリー半導体はデータを処理して演算・制御する機能を持っている。従って、今後各国政府が自律走行、AIなど第4次産業革命をさらに推進することを考慮すると、半導体メモリーより非メモリー半導体の成長可能性が高いと言える。サムスン電子は非メモリー半導体分野での劣勢を乗り越えるために、今年の4月に、2030年前までに非メモリー半導体分野に133兆ウォン(約13兆円)を投資すると発表した。

文大統領のサムスン電子への訪問に対しては賛否両論がある。保守層は、韓国経済が直面している危機を乗り越えるためには、輸出の大きな割合を占めている大企業と協力しながら、国が積極的に支援を行うべきであると主張する。一方、進歩層は、所得主導成長や中小企業との産業環境を強調した革新成長を目指している文政権が、財閥との協力を考えること、特に横領・わいろ供与容疑に対する最高裁(大法院)の宣告を残しているサムスン電子のイ・ジェヨン副会長を訪ねて、“支持”という立場を見せたことは適切ではないと問題視している。

政府の所得主導成長政策の核心政策である最低賃金の大幅引き上げや週52時間勤務制の実施は、政府の期待を外れて雇用を減らし、所得格差を拡大させる結果をもたらした。公共事業を無理やり拡大することで、一時的に政府支出は増えたものの、その効果を国民は実感していない。また、上記の二つの政策と法人税の引き上げなどは企業の経営環境にマイナスの影響を与え、製造業を中心とする企業の「脱韓国」が進んでいる。海外直接投資が大きく増加したことに比べて、最近、国内への設備投資が大きく減少したのは企業の「脱韓国」の影響かも知れない。企業の「脱韓国」がさらに進むと、政府の雇用創出政策は失敗に終わってしまう。ビジネスフレンドリー政策を適切に実施することにより、企業の「脱韓国」を防ぎ、雇用創出と労働者の所得水準改善を目指す必要がある。

結びに代えて

最近、韓国政府の経済政策は中国のことわざである「殺鶏取卵」によく例えられる。「殺鶏取卵」は直訳すると、ニワトリを殺して中にある卵を取ること、つまり、目先の利益に目がくらんで、将来的に大きな損をすることを意味する。日本のことわざ「木を見て森を見ず」に似ている。韓国政府は目先の損得に惑わされず、長期的な損得を考えて経済政策を実施する必要があるだろう。

金 明中(きむ みょんじゅん)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

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