(本記事は、五戸美樹氏の著書『人前で輝く!話し方』=自由国民社、2018年5月12日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
簡単!台本書き換え戦術
「日本話し方センター」を1953年に創立した、故・江川ひろしさんの著書『500人の前でも話せます―話し度胸がつく本』(KKベストセラーズ)には、「話すことがないと話にならない」とあります。
ごもっともです。しかし、現代人にはいささか厳しく聞こえるでしょうか。そこでいくつかの、簡単な方法をご提案します。
「挨拶テンプレート」を使う必要はないのです。それを知っただけで「よし、では自分の言葉で内容を作ろう」と思える方はぜひそのまま進めていただいて、「いやそんなこと言われても、何を話したらいいかサッパリわかりませんよ」という方は、「挨拶テンプレート」を「応用」する方法があります。
結婚式の挨拶の例を考えてみましょう。
「この度はご結婚誠におめでとうございます。ご両家ご親族のみなさま、心より御祝い申し上げます。ご年長の方をさしおいて甚だ僭越ではございますが、ご指名により、お祝いを述べさせていただきます」
このままだと、誰が挨拶しても同じで、また、「書き言葉」が多くて読みづらく、伝わりづらいです。
なので、これをしゃべりやすく、伝わりやすい言葉に書き換えちゃおうという“小技”をご紹介します。
私はこれを「台本書き換え戦術」と呼んでいます。
「AくんBさん、そしてご家族の皆さん、ご結婚本当におめでとうございます。人生の先輩がたくさんいる中で自分が挨拶するのは恐れ多いんですけど、せっかくなので、お祝いの言葉を伝えたいと思います」
全くこの通りにすると、それこそ没個性になってしまいますが、ひとつの参考として見ていただけると幸いです。
台本書き換え戦術のポイントは2つ。
・「書き言葉」を「話し言葉」に変換 ・「難しい言葉」を「わかりやすい言葉」に変換
まず「書き言葉」を「話し言葉」に変換する方法ですが、簡単に言うと「普段の言葉遣い」にするということです。
例えば、代表的な書き言葉に「にて」や「より」があります。「本日当店にて商品お求めいただくと」「今月より発売する新商品になります」など。
「にて」は「で」に、「より」は「から」に書き換えちゃいましょう。右の文なら「今日、こちらのお店で商品をお求めいただきますと」「今月から発売する新商品です」などと変換できます。
また、音読みの熟語は、文字で見ればわかるけれど、耳で聞いただけではわかりづらい、書き言葉な場合が多々あります。
例えば右の文なら「商品」は聞いてすぐわかりますが、「本日」「当店」はそれぞれ、「今日」「こちらのお店」に置き換えるほうがよりわかりやすいです。
「本日」は耳馴染みのある方が多いと思いますので、絶対に「今日」に換えたほうがいいとは言いませんが、「本日は天気がいいですね」と話す人はあまりいませんよね。でも文書では「本日をもって」と使います。つまり、書き言葉だということです。
また、前後の文脈から「トーテン」は「当店」と判断できますが、同音異義語に「読点」もありますので、「お店」と訓読みにしたほうがわかりやすく、普段の言葉遣いに近くなります。
音読みの熟語でも「商品」のほかにも、「利用」や「契約」や「新人」などなど、聞いてすぐわかる言葉はたくさんあります。ただ、「タイカン」は「体感」なのか「体幹」なのか「退館」なのか、あるいは「戴冠」なのか……漢字を見ればすぐわかりますが、耳で聞いただけではすぐに判断できない場合があります。
日本語には同音異義語がたくさんあります。「シシャ」なら「試写」「死者」「支社」など。
以前会議で「少し時間を作るので、黙考してください」と言われ、「木工?今から工作をするってこと?あ、黙考か」と思ったことがあります。これは稀な例ですが。
全ての言葉に対して「書き言葉」なのか「話し言葉」なのか、「同音異義語」があるかどうかを考えるのは大変なので、「普段使っている言葉かどうか」と「耳で聞いてわかりやすいかどうか」をポイントにしていただくのがいいと思います。
“バカなフリ”で爪をかくす
「台本書き換え戦術」の2つ目のポイント「難しい言葉」を「わかりやすい言葉」に変換することについてです。
例えば先ほどの「黙考」は、文書で「沈思黙考」と書いてあったらなんとなく意味がわかりますし、「黙って考えてみました」と書くよりも頭が良さそうに見えます。
にわか雨は「驟雨」と書き、ずるいときは「狡猾な」と書くなど、難しい言葉で書いたほうが、知識の多い人に見え、自分をアピールできることはたくさんあります。文書の場合は、今ならスマートフォンで簡単に調べられますので、問題ないと思います。
ただ、“難しい言葉”というのは、とかく「トーク」になるとリスクになる場合があります。「どういう意味ですか?」と聞き返すのは、勇気がいるからです。
私も、頭が悪いと思われたくないとか、アナウンサーなのにそんなことも知らないのかとか、思われたくなくて、「わかりません」「知りません」と発言するときは慎重になります。プライドが高くてダメだなぁと思いますが。なんとなく意味を想像して、やり過ごして、痛い目に合ったことが少なからずあります。
つまり、多少なりとも聞き手にプライドがあると、内容がわからなくてもあまり聞き返してもらえないことがある、ということです。
また、大勢に対して話すときは、聞き手は聞き返すことができないので、なんとなくしか伝わらないことがあります。
人前で話すときは、極力わかりやすく話すのがおすすめです。これは難しい熟語に関しても、専門用語に関してもそうです。
専門用語は、専門家の間で使う場合は話が早く進み、“専門家同士である”という認識を深められ、利点が多いですが、こと別の集団に対して話すときは、意味が伝わりにくく、また相手に疎外感を与えることがあります。
アナウンサーだと「巻く」(時間を短くすること)、「押す」(指定の時間を過ぎていること)、「バミリ」(立ち位置の印)なんて言葉もありますね。最近では一般的にも使われるようになったので、あえて「巻きでお願い」なんて使い方をすることもありますが、限定的です。
ビジネス用語であれば「コンプライアンス」(法令遵守)や「ニーズ」(欲求、要求、需要)や「マーケティング」(市場調査、販売戦略)は比較的一般的になってきましたが、「インターナル」(内部の)、「エクスターナル」(外部の)、「ファクト」(過去の事実、事例)に「プライオリティ」(優先事項)は、意味を知らない方も多いと思います。
決して、使ってはいけないわけではなく、私も“言葉狩り”をしたいわけではないのですが、人前で話すときに使う言葉として考えると、どうだろうかというところです。相手のプライドを傷つけないために「知らない」ことを前提にして話すと、わかりやすいプレゼンになり、挨拶になり、自分の評価も上がると思います。
専門用語で伝えたいときもあると思います。その場合は、ひとこと説明を付け足せば大丈夫です。
小池百合子東京都知事は、外来語をよく使っていますが、今では一般的になった「都民ファースト」も、はじめは「都民の皆さまを第一に考える『都民ファースト』で」と言っていました。
ビジネス用語なら例えば、
「この商品マーケティングは、ファクトとロジックに基づき、ベネフィットが高いものを選択しています」
という文章を考えていきましょう。
「マーケティング」はそのまま使えると考えて、「ファクト」と「ロジック」は補足を入れる、そして「ベネフィット」は日本語に書き換えるとスッキリします。
「まずこの商品のマーケティングについてです。ファクトとロジック、つまり、過去の事実から理論を組み立てているので、利益が高いものを選ぶことができています」
と変換できます。
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