全世界の水資源
(画像=PIXTA)

はじめに

 昨年、ブラジルで世界水評議会(以下:WWC)の総会が開催された。WWCとはフランスに本拠地を置き、グローバルな面で水問題を議論し、政策提言などを行う組織である。加盟組織は全世界にまで及んでおり、3年に1度の総会を開催する他、関連組織がイベントを毎年開催している。たとえば今年9月には韓国国際水週間(KIWE)が水問題を議論するイベントを開催予定である。
 弊研究所は今年4月にWWCから加盟承認を受け、先月WWCメンバーとして正式登録した。
 今水問題を注目すべき理由は「水資源がグローバル・アジェンダの最前線に躍り出ている中で豊富な水資源を持つ国々がステーク・ホルダーになる可能性がある」からだ。たとえば豊富な水資源を有する勢力として我が国や、シベリア地域に水資源を有するロシアがある。我が国においても日本水フォーラム(以下:JWF)がWWCの関連団体として国内外の水問題に関する政策課題を提起し、議論している。
 グローバル世界で生じている現象が太陽活動の激変に伴う気候変動である。また人類の発展に伴う環境破壊もある。それらの要因が徐々に世界の水資源を破壊し、水資源が枯渇し始める蓋然性を高めている。そのため昨年に開催されたアジア太平洋水フォーラムの場では水資源の保全や有効利用・再利用の道を探るべくパネリストたちがそれぞれの考えを提起した。
このように「いよいよ」最も重要なグローバル・アジェンダの1つになりつつあるのが水資源を巡る問題の現状である。本稿は水資源問題の主要アジェンダとして上述のアジア太平洋水フォーラムを参考にしつつ、現状何が検討課題として提起されているのかを検証する。その上で今年下半期とそれ以降の水資源は如何なるものか、またそれを巡り注目すべきエリアについて卑見を述べることと致したい。

何が問題なのか ~水問題を議論する~

 上述のアジア太平洋水フォーラムでは「貯水」がメインテーマであった。数ある国の中で例として上がった1つがモンゴルにおける水資源への対応である。モンゴルが水問題を考える上で参考になるのは同国が多様な自然環境を有しているからだ。モンゴルには山に大河森林、草原地帯、また半砂漠地帯がある。さらにゴビ砂漠があるなど複雑な自然環境を持つがゆえに、様々な角度から水資源の保全をモンゴルがこなしてゆく必要があるのだ。我が国も山々に囲まれ、伏流水が非常に有名である。その点でも我が国がアジア太平洋水フォーラムの政策提起から得るものがある。
 アジアの国々を例にとって議論を提起したアジア太平洋水フォーラムの場で、スピーカーが特に強調していたのが「雨水の貯水」である。そもそも貯水が重要である理由の1つは増え続ける大量のごみが近年グローバル規模で深刻になっていることだ。人類の生活環境が便利になっていくのに比例して増えるごみが水資源を破壊しているのである。特にプラスチックごみが河川を漂い、東南アジアを中心に深刻な水質汚染を引き起こしている。そのような状況で水資源が急激に回復する蓋然性は低い。そこで思案されているのが、限られた雨水を貯水し有効に活用していくという現実路線である。
 アジア太平洋水フォーラムでは水資源の浄化システム(装置)の構築が必要であることを前提としつつも、貯水の効率性の向上や目的に見合った適切な量の水を使用する型の確立を目指すべきとスピーカーが提案し、まずはそもそも水資源の活用状況が適切なのかどうかを議論した。特にある地域から他の地域への水の輸送が適正ではなく、水資源の使用を極力縮小・効率化すべきだということが提案された。 これらは非常に注目すべき結論である。前述したように貯水を通じてある意味で「自前の」水資源のみを用いて、更に水輸送を避けるべきであるというのは、まさしく「保護貿易」と同義だからである。特に食糧輸出入を阻害することにつながり得るということが重要である。
他方で水資源を利用する際に無駄を出さないために、一部の国がインフラストラクチャーを整備する必要があるとして、1,000万ドル規模以上の投資も求めている。
 雨水の有効活用という面ではモンゴルが例になり、同国の泥炭地が重要であるとの主張があった。泥炭地が水資源で有用であるのは、泥炭地は水を効率的に吸収・貯水することが出来るからだ。それが植物の成長を助けることで自然環境が維持され、それが同泥炭地の肥沃さをさらに高めることに繋がるという訳だ。
 まずは上記のような自然環境の維持・保全が急務であることは明白である。水資源の保全が特に昨今になってグローバル・アジェンダの中心になりつつある以上、直接的な水資源保全の為の協力だけでなく、教育面で地元地域への貢献が必要である。いわゆるSDGs投資の考えがこの場でも中心的なコンセプトになる。正義感云々というよりも「必要だから保全する」というプラクティカルな姿勢こそが今次の水問題を考える上で必要な姿勢であるはずだ。  

おわりに ~今後のアジェンダはどうなるのか~

 改めてWWCやJWFといった「国際的な水評議会」を今注目すべき理由を考えると、上述してきたように気候変動と環境破壊の深刻化がいよいよ水資源を希少にしていることが分かる。それだけでなく、気候変動によってある地域では温暖化、ある地域では寒冷化が生じる可能性が在り、地域によっては深刻な干ばつに苦しむ地域が出てくる可能性もある。すなわち水資源分布の刷新すら生じ得るのが2019年下半期以後の展開可能性の1つである。このように水資源がいよいよグローバル・アジェンダの最前線に躍り出る蓋然性が高まる中で、フランスに本拠地を置くWWCがより一層存在感を現しつつある。巷でよく叫ばれている国家間協力だけでは実際上の推進力としては弱いというのが卑見である。むしろ気候変動などに水資源が枯渇する地域が出始めるなど、よりプラクティカルな必要性(需要)が明確化され、経済的効率性を重視した水資源管理方法への投資が今後の課題である。当然経済力を根拠にした「水管理の民営化」もこのような水資源の保全これからさらに叫ばれていく可能性が在る。
 上記のような理由で、「水資源の保全」から「水利権の獲得」が今後の水問題を巡るグローバル・アジェンダになる可能性が在るというのが卑見である。そして水資源を豊富に有する我が国こそがその文脈で中心的な存在になる蓋然性は高い。昨年のアジア太平洋水フォーラムの場で「熊本市の水管理」がモンゴル等と共に1つの議題として選出されていることからも、世界が我が国に注目をし始めている証左である(なお熊本県合志市が一昨年にフランスの大手水メジャーであるヴェオリアに上下水道料金徴収業務を委託するなど、既に我が国への進出が進んでいる点は、先般話題になった水道法の改正に係る騒動を見るまでも無く注目していきたい)。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

岡田慎太郎(おかだ・しんたろう)
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー。2015年東洋大学法学部企業法学科卒業。一般企業に勤務した後2017年から在ポーランド・ヴロツワフ経済大学留学。2018年6月より株式会社原田武夫国際戦略情報研究所セクレタリー&パブリックリレーションズ・ユニット所属。2019年4月より現職。