はじめに ~経済利権としてのCO2~

CO2
(画像=acinquantadue / Shutterstock.com)

去る6日、東欧ポーランドがCO2の排出制限について変更する旨、発表した。具体的にはそれまで同国がCO2削減の対象として除外してきた、家庭用電気の発電等によって生じるCO2についても上限割当ての対象としてみなすことを決めた。

一般的にはCO2=二酸化炭素といえば、地球温暖化を生じさせる主原因として考えられている。他方で弊研究所はこれまで、北半球地域において進行しているのはむしろ寒冷化である可能性を指摘してきた。またトランプ米大統領もCO2排出量と地球温暖化の関係性について疑問を呈した。CO2排出問題をめぐっては、このように様々な意見が示されており、議論されている。

本校においては、まず前述のポーランドを含む、主に東欧諸国のCO2削減に向けた取り組みについて確認し、続けてCO2排出権取引のスキームを確認しつつ、我が国とその他の諸外国のCO2排出削減に向けた取組みも比較検討したい。その上でCO2排出量の主原因であった化石燃料の多用に代わる代替エネルギーである原子力発電や水素エネルギー等を検証しつつ、今後の環境問題ビジネスの展開可能性を検討してまいりたい。

前述の通り、ポーランドが自国CO2削減のための努力をより一層高めようとしている。同国としては今次措置によって「CO2の排出権」取引が拡大することを狙っており、環境問題を1つのビジネスと捉えている。

ポーランドの前にチェコが既に同様の措置を採用しており、環境問題が1つの利権として考えられている。上述の2か国も含む東欧諸国を中心として、環境問題に取り組むファンドが設立されている。「EU Modernization Fund」と名付けられた同ファンドにはブルガリア、クロアチア、ハンガリー、ルーマニアなどが参加している、CO2排出に関する問題提起、効果的なプロジェクトの提案などを行うと謳っている。

諸外国の事例 ~比較して見えてくるCO2ビジネスの現状~

我々が排出権取引と呼ぶのは別名キャップ・アンド・トレードと呼ばれるシステムである。CO2の排出枠が予め定められており、その枠の大きさによって各主体の負担するコストが決まるというものだ。原則としては、電気事業者などはその必要性の高さからより多くの排出権を認められるか、そうでなければ再生可能エネルギーや原子力発電の割合を高めることで対応してきた。キャップ・アンド・トレードの場合、各企業はCO2排出量に上限(キャップ)が課され、目標値を達成できない場合は罰金が科せられる。上限を超えそうな企業は、他の企業から排出権を購入(トレード)することが可能であり、その結果全体のCO2排出量を削減することが可能になると考えられている。

他方、京都議定書によれば、グリーン開発メカニズム(CDM)と呼ばれる制度が在る。具体的には先進国が途上国にてCO2削減プロジェクトを実施し、同途上国でCO2削減が達成されれば先進国がその削減分の一部を自国の排出枠へ組み込むことが可能になるというものだ。このように環境問題をめぐっては様々なスキームの下、各国が取り組みを行っている。

我が国については京都議定書以来大きな成果が示せていない。しかし去る21日(5月)東京都がU20東京メイヤーズ・サミットの場で「2050年までのCO2排出ゼロ」を突如目標として掲げた。具体的には再生可能エネルギーの推進と電気自動車などゼロエミックスビークル(ZEV)の推進によって達成を目指すとしている。また国レベルでも2070年までのCO2排出ゼロを掲げ、東京都と同様に再生可能エネルギー等の活用を謳っている。また水素エネルギーへの注目も徐々に高まりつつある。

我が国の外では化石燃料を用いて製造されるプラスチック製品の使用を控えることでCO2排出削減に貢献しようという動きが在る。例えばプラスチックストローを別のもので代替するといった具合である。他方ではカーボン・ニュートラルな企業を目指すとして、自動車産業で有名なドイツに所在する企業が、CO2ゼロエミッションビークルの開発に力を入れている。

このように引き続きCO2排出問題をめぐっては当面も国内外で投資が活発化する。果たして同分野が将来的にはどのような展開可能性を持つのか、関連技術やCO2排出問題とは切っても切り離せない原子力発電事情にも触れつつ検証いたしたい。

おわりに ~CO2ビジネスの新しい展開~

まず、これまでの検討を踏まえ、ビジネスベースで環境問題を考えた際に、CO2排出問題についても化石燃料を用いない代替措置への投資などが推進されている。再生可能エネルギーはその代表例である。また水素エネルギーも近年注目を集めており、貯蓄・輸送のハードルは依然あるものの、クリーンエネルギーとして活用が期待できる。

また排出されるCO2を有効利用しようという動きもある。具体的にはCO2を回収し、貯蔵ないし再利用するためのスキーム作りが検討されている。「CCUS(Carbon dioxide Capture Utilization and Storage)」と呼ばれるもので、大気中に排出される前にCO2を回収することで環境への影響を抑える他、そのCO2を油田に注入することで生じる圧力で産油効率を引き上げることが出来る。化学製品や燃料の開発への応用も研究されている。

他方、元来原子力発電も地球温暖化対策として期待されてきた技術であるが、過去の原発事故を受けてその注目度は下がりつつある。しかし平時の原子力発電の有用性を謳う声が未だ根強くあるのが事実である。そもそものビジネスモデルとして原子力発電は国策としての色合いが強く、原子力発電事業では日本原電、原子炉メーカーも日立や東芝といった限られた企業にのみ許された寡占状態である。国家も絡む事業ゆえ、そう簡単には原子力事業が店じまい出来ない中で、国際原子力機関(IEA)も地球温暖化対策としての原子力発電の有効性を“再喧伝”し始めたのだ。国際原子力機関(IEA)はより安全性を高めた小型モジュール(SMR)の利用について言及しつつ、原子力ビジネスの存続を図っている。去る2017年には既に中国ではその小型モジュールの試験運転を開始している。我が国でも昨年末に官民で同モジュールの開発を進めていく旨“喧伝”されており、今後の展開として、環境保全ビジネスと同時に原子力ビジネスも復活の機会を虎視眈々と窺っていることを留意すべきである。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

岡田慎太郎(おかだ・しんたろう)
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー。2015年東洋大学法学部企業法学科卒業。一般企業に勤務した後2017年から在ポーランド・ヴロツワフ経済大学留学。2018年6月より株式会社原田武夫国際戦略情報研究所セクレタリー&パブリックリレーションズ・ユニット所属。2019年4月より現職。