●家計管理方法別に見た共働き世帯の家計分担~夫は住居や自動車などの大物、妻は日常生活周り

家計管理方法別に家計分担状況を見ると、「夫が管理」では、夫担当の費目が多いが、「妻が管理」では妻担当ではなく、夫婦共通のお金が多い(図表5)。これは、前述の通り、「妻が管理」は妻の年収が比較的低い世帯で多いためだろう。

一方で、当然ながら、「一部共同管理」や「支出分担のみ」では夫担当と妻担当の配分が増える。なお、夫担当は「住居費(家賃、住宅ローン)」や「自動車、ガソリン代、日常の交通費」などの高額な費目が、妻担当は「子どもの洋服代」や「子どもの理美容費」、「家族の日常的な食費」など、日常生活に関わる比較的少額な費目にとどまる。夫婦の収入差に加えて、家事・育児の分担が妻に偏る家庭が多いためだろう。

共働き世帯の家計分担 共働き世帯の家計分担
共働き世帯の家計分担
(画像=ニッセイ基礎研究所)

●属性別に見た共働き世帯の家計分担~妻が高年収ほど共通の財布からが増える

年代別に家計分担状況を見ると(図表略)、家計管理方法で「共同管理」や「支出分担のみ」が比較的多かった若い世帯ほど夫婦共通のお金の割合が高く、夫担当の割合が低い傾向がある。妻が若いほど、妻の年収300万円未満が少ないため(5)、年齢による違いの背景には、妻の年収の影響があるようだ。このほか、若いほど両親等を含むその他が、40歳代で夫担当が、年齢が高いほど子どもの割合が高い傾向がある。若いほど親の援助が得られやすく、40歳代では妻の年収が比較的低い世帯が多いために夫の分担が多く、高年齢ほど子どものアルバイト代による分担が可能だということだろう。

妻の年収別には、高年収ほど、食費や住居費、家族のレジャー費など家族全体に関わる支出や子どもに関わる支出における夫婦共通のお金の割合が高くなり、夫担当の割合が低くなる傾向がある(図表5)。妻の経済力が増すと夫婦共通の財布が膨らむために、夫の負担が減るのだろう。また、両親を含むその他の割合も低くなるため、援助の必要性も弱まるようだ(6)。なお、夫婦の理美容やファッションについては、妻の年収が高いほど、夫婦それぞれの分担割合が増える傾向があり、特に妻の費目で顕著である。

共働き世帯の家計分担
(画像=ニッセイ基礎研究所)

ところで、妻が高年収であるほど、食費や住居費等における妻担当の割合が高まるが、夫と比べて必ずしも負担は大きくない。例えば、住居費の妻担当の割合は、妻の年収300万円未満で5.8%、300~700万円未満で11.8%、700万円以上で12.1%だが、妻の年収によらず夫担当は4割を超える。一方で、食費や子どもの洋服代は、妻の年収が300万円以上の世帯では妻担当の割合は夫担当を上回る。妻の経済力が増しても、妻のみでするものは、家族共通の支出の中では食費など日常生活関連のもので、比較的少額のものにとどまるようだ。

ところで、子ども担当(アルバイト代等)の割合は、妻の年収300万円未満と年収700万円以上で比較的高い傾向があるが、これは妻の平均年齢が比較的高く、アルバイトのできる年代の子どものいる世帯が多いためだろう。妻の年収別にライフステージ(7)の分布を見ると、第1子が高校生以上の割合は年収300万円以上で43.6%、年収300~700万円未満で28.4%、年収700万円以上で57.1%である。

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(5)妻の年収300万円未満の割合は、妻の年齢25~29歳で65.2%、30歳代で71.3%、40歳代で80.7%、50歳代で79.9%。
(6)このほか妻の年収が高いほど、妻の平均年齢が高く、親の援助を期待しにくいという観点もある。妻の平均年齢は、妻の年収300万円未満で43.6歳、300~700万円未満で41.1歳、700万円以上で45.9歳である。
(7)調査では「未婚(独身)」「結 婚」「第一子誕生」「第一子小学校入学」「第一子中学校入学」「第一子高校入学」「第一子大学入学」「第一子独立(結婚・就職)」「末子独立(結婚・就職)」「孫誕生」の10の選択肢を用意し回答を得た。

おわりに~女性の経済力向上で進む「家計の個別化」、消費把握で増す「個」の重要性

仕事と家庭の両立環境の整備が進む若い世代ほど、女性の出産後の就業継続率が高まることで、共働き世帯の妻の年収は増えるだろう。また、労働者の賃金水準が低下した影響も相まって、若い世代ほど夫婦の年収差は縮小していく。一家の大黒柱は必ずしも夫だけではなくなり、「稼ぐのは夫、家庭のことは妻」という役割分担意識が弱まることで、消費市場で求められる商品やサービス、効果的なマーケティング方法も変わってくる。

現在のところ、家事・育児関連の商品やサービスは主に母親をターゲットとしている。例えば、ママチャリと言われるように、子どもを乗せる自転車の大半はサドル高が低く、母親が使うことを前提としている。また、30~40代の女性ファッション誌には子ども関連の商品の広告も多いが、男性ファッション誌には見られない。

新入社員男性の育児休業取得意向が約8割(8)を占めるようになり、若い世代ほど気負いなく家事・育児をする男性は増えている。ブリヂストン社と光文社の女性ファッション誌「VERY」は、父親でも乗りやすいサドル高の高いママチャリをプロデュースしたが、今後は男性目線も考慮した家事・育児用品のニーズが強まるとともに、母親だけでなく父親に向けた商品・サービスの訴求の効果も高まるだろう。

一方で、女性の経済力が増す若い世代ほど妻が高年収の世帯が増えているわけだが、妻が高年収になるほど、夫婦それぞれの財布を持ち、ファッションや理美容などの個人的な出費は各自が負担する傾向が強い。女性の社会進出が進む中で、長らく「家計の個別化(個計化)」が指摘されているが、女性の経済力がさらに増すことで、この流れは加速するだろう。総務省「家計調査」では、2018年1月より、電子マネーなど多様化する決済方法に対応するために、従来の世帯単位の紙の家計簿という回答方法に加えて、スマートフォンなどでも回答可能なオンライン家計簿を導入している。今後は、「家計の個別化(個計化)」に対応するために、「一括管理型」や「共同管理型」、「個別管理型」、「ハイブリット型」といった家計管理種別に合わせて組立可能な入力方法も検討している(9)。

平成の30年余りで、人々の暮らし方や価値観は大きく変容した(10)。どのような消費者がどのような財布を持ち、どのようなニーズを持っているのか。新時代は、より「個」という観点に重きを置きながら消費活動を捉える必要がある。

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(8)公益財団法人日本生産性本部「2017年新入社員 秋の意識調査」
(9)総務省「家計調査の改善・刷新に向けて」(平成28年12月27日)
(10)久我尚子「平成における消費者の変容(1)~(4)」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート、2019/3 

久我尚子(くが なおこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員

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