現在は米国株式市場の先行きを判断するのが難しい時期と言えそうだ。企業の利益や成長を損ないうる悪材料が多く出揃っているにも関わらず、投資家はそうした材料にもポジティブに向き合っていると考えられる相場となっているからだ。
米中貿易摩擦や米国経済の減速が懸念される中、6月21日大引け後までの1ヶ月でS&P 500は6%高となっており、6月も株式市場は底堅かった。更にダウ平均株価が0.4%高に留まる一方で、6月20日にS&P 500は史上最高値を更新している。
この強気市場に疑問を呈する向きがあれば、メーカーのような景気敏感株を分析するのがいいだろう。
直近の強気相場がファンダメンタルズに支えられているものなのか否か確認するため、我々は以下のメーカー大手2銘柄をピックアップした。
1. スリーエム
米国電気・化学メーカー大手のスリーエム(NYSE:MMM)の株価は、2018年初めにピークを迎えて以来下げ相場が続いている。2018年1月以降株価は23%以上下落しておりすぐに回復する兆しも見えない。年初来では8.5%安で、6月21日の終値は173.35ドルとなっている。
同社が4月に発表した1-3月期売上高は予想を下回り前年同期比5%減の79億ドルとなった。純利益も減少し、同社は年間見通しを下方修正した。
「インダストリアル」「ヘルスケア」「コンシューマー」「セーフティ&グラフィックス」「エレクトロニクス&エネルギー」の5事業において売上高が減少しており、需要減少が示唆されている。
液晶画面用フィルムなどを含むエレクトロニクス売上高は、スマートフォン需要の低迷を受け約12%減少した。自動車関連事業は、自動車メーカーの減産と在庫削減に煽りを受ける形となった。この業績悪化により同社は2000人規模の解雇を行っている。
4-6月期の予想売上高は80.4億ドルで、予想EPSは19%減の2.09ドルとなっている。
2. キャタピラー
採掘・建設機械メーカーのキャタピラー(NYSE:CAT)株は、経済の減速による影響を免れないとの懸念により下げ圧力がかかっている。6月21日の終値は133.9ドルを付け年初来6.6%高となっているものの、過去1年では4%安となっている。
直近の1-3月期決算において、同社は市場シェアの低下と中国による「挑戦的な価格戦略」により利益が減少する一方で、在庫は積み増していると報告している。
UBSはキャタピラー株の格付けを引き下げた。同社は2019年に「ピーク」を迎え、「需要が減少し2020年売上高と利益率に下げ圧力が掛かる」とコメントしている。
キャタピラーの軟調な見通しは、国際通貨基金(IMF)や経済協力開発機構(OECD)による直近の経済予測とも整合的である。地政学的リスクや貿易摩擦の高まりを受けIMFは4月、OECDは5月に2019年世界経済の見通しを下方修正している。
総括
このメーカー大手2銘柄を分析すると、直近の米国株式市場の強さは事実を伴わず、利下げ期待により支えられていることが読み取れる。また、見通しが不透明な局面で人気が集まる銘柄である公益事業株、生活必需品、不動産等のディフェンシブ銘柄が上昇していることもこのロジックと整合性が取れる。
我々の見立てでは、現在の反騰は非常に不安定なものである。この強気相場は、メーカーなどのシクリカル銘柄(景気循環株)が好調に転じなければ持続しないと考えられる。(提供:Investing.comより)
著者:ハリス アンワル