ミドル世代は適度に「不真面目」になろう
肩が凝ったり、眠っても「寝たりない」感覚があったり……。「若い頃に比べて疲れを感じやすくなった」という人は多いのではないだろうか。日中のパフォーマンスを上げるため、できるだけ疲労を感じたくないと思うだろう。しかし、「疲れは悪いものではない」と話すのは、テレビ等でも人気の医師・秋津壽男氏。疲労のメカニズムとその対処法について、教えていただいた。(取材・構成=林加愛)
「疲れ」は決して悪いものではない
40代になると、「すぐ疲れるし、疲れが取れにくい」と感じる方々が多いようです。
しかし実は、疲れを感じるのは決して悪いことではありません。なぜなら、疲労とは、「そろそろ休息が必要です」と知らせてくれるサインだからです。
このサインを感じ取る力は、年齢を経ないと備わりません。若い人が疲れ知らずで働いたり遊んだりできるのは、そのせいです。それは一見元気なようで、いったん病気になると大病になるリスクもあります。
中年以降でも、センサーの働きにくい人はいます。これは漢方医学でいう「実証」という体質で、ろくに寝もせずバリバリ働くエネルギーを持っていますが、病の前兆に気づかず、ある日ポキリと折れる可能性あり。
逆に「虚証」体質の人は疲れやすいのが特徴ですが、そのぶん早めに休息をとるため、大きな病気を避けられます。
つまるところ、疲れはネガティブに捉えるべきものではなく、自分の健康を保つ手立てなのです。疲れのサインにいち早く気づき、それに合わせた対応力を身につけることが、大人の知恵と言えるでしょう。
キャリア構築を考えるうえでも、この知恵は必須です。20代の頃ならプレイヤーとして昼夜を問わず身体を酷使することも多かったでしょう。
しかし管理職になればそうした働き方ではなく、考えることや指示を出すことに重点が置かれます。プレイングマネジャーとして現場に出る方も、徐々に「マネジャー的働き方」の配分を増やしていくべきでしょう。
ではそもそも、「疲れ」とは一体どういう現象なのでしょうか。実は、目に見える変化や数値で表せるものではありません。疲労物質とされる乳酸も、近年は疲労回復のために分泌されるという説が出てきており、いまだ正体は不透明です。
つまり疲れは客観的現象ではなく、あくまで本人が覚える不快な感覚なのです。
3つの疲れの感覚を解消する方法
ビジネスパーソンの場合、「疲れ」の感覚は大まかに、(1)肩凝り等の身体的痛み、(2)精神的ストレス、(3)倦怠感や思考力低下等の睡眠不足感、の3つに分けられるでしょう。原因はいずれも、オーバーワークです。
逆に、働きすぎでもないのにこの感覚があれば、疲れではなく病気の疑いあり。また、この感覚を無視して栄養剤やニンニク注射でごまかすのも、病気を招き寄せるので避けたいところです。
では、3種類それぞれの、より良い解決策はなんでしょうか。
まず、肩凝り等のフィジカルな疲労は、デスクワークで「筋肉を使わない」ことで起こります。
したがって、ジムで運動する、仕事中も時折身体を動かす、といった工夫が有効です。
2つ目の「ストレス」は、中間管理職世代と切っても切れないもの。責任の重さや複雑な人間関係等で精神的に疲弊する人は多いでしょう。これを防ぐには「真面目になり過ぎない」のがコツです。
すべての業務に全力を注がないこと、人に気を使いすぎないこと、ときには自分を優先することなどを通して自衛しましょう。
睡眠は長さよりも目覚めの感覚を重視
3つ目の倦怠感や思考力低下は、「睡眠のコントロール」がカギになります。明らかな睡眠不足は別として、寝ているのに疲れが取れないと感じるなら、「睡眠下手」の疑いアリです。
こうした人は、よく寝られたか否かの基準を「睡眠の長さ」に起きがちですが、ここは「朝の目覚めの良さ」を基準にするのが正解です。
目覚めを良くするコツは、睡眠周期を上手に利用することです。睡眠中は、深い「ノンレム睡眠」と、浅い「レム睡眠」が交互に訪れます。この周期の区切りのところで起きると、スッキリ目覚められるのです。
1周期はおよそ90分ですが、個人差があります。スマホアプリを使えば、自分の周期を把握できますので、その倍数のタイミングで、目覚ましをセットしましょう。この方法で、かつ4時間以上寝ていれば万全。
つまり「長く寝る」必要はなく、例えば90分周期なら7時間よりも6時間のほうがベター。目覚めも良く、日中の頭の冴えもキープできるでしょう。
なお、帰宅後はできるだけテレビやパソコン、スマホなどの光刺激を避けること。人間の体内時計は、朝の日光を感知してから約18時間後に眠気を起こさせるしくみになっています。夜の光刺激はこの時計を狂わせるモト。
23時以降はスマホの電源を切る、観たいテレビ番組は録画して早朝や週末に見る、といった工夫をしましょう。
日常の中に小さな「幸せ」を仕込もう
このように、オフの時間に疲れを増やさないことは大切なこと。オフタイムは「スッキリすること」や「ホッとすること」だけをしたいものです。
ちなみに食事に関しては、「バランスよく食べる」という原則さえ守れば、あとは「幸せになれるもの」を食べるのがお勧め。
好きなメニューや、そのとき食べたいものを食べると「幸せホルモン」と言われるセロトニンやオキシトシンが出てストレスが軽減されます。
つまるところ、疲れをとる最強の手立ては「幸福感」と言えるでしょう。
美味しいものの他にも、好きな番組を録画しておいて観たり、良い香りの入浴剤を用意しておいたり、方法はいろいろ。「帰ったあとのお楽しみ」を仕込んでおけば、その日の疲れを引きずらずに済みます。
こうして心身ともに、自分のコンディションを上手にコントロールしましょう。年齢を重ねた人ならではの、セルフマネジメント力の見せどころです。
秋津壽男(あきつ・としお)
秋津医院院長
1954年、和歌山県生まれ。77年、大阪大学を卒業後、和歌山県立医科大学に入学。86年に同大学卒業後、循環器内科入局。その後東京労災病院等を経て、98年に秋津医院を開業。診療のかたわら、テレビ東京『主治医が見つかる診療所』等にレギュラー出演。『長生きするのはどっち?』『がんにならないのはどっち?』(あさ出版)など、著書多数。(『THE21オンライン』2019年4月号より)
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