シンカー: G20サミット中に行われた米中首脳会談では米国の対中追加関税発動の実施見送りと中国ハイテクメーカーに対して汎用部品の販売などを認める合意がされた。停滞していた米中貿易摩擦は交渉決裂による最悪事態は回避され、進展の兆しが見えたことで、株式市場などはラリーした。しかし、マーケットでは引き続き、世界経済の景気拡大モメンタムが維持されているかが注目を浴びている。イールドカーブは一時のフラット化からスティープ化に転じ始めていることで、景気後退リスクがどのように変わったか投資家は解釈に悩んでいるようだ。中央銀行の緩和的な政策運営が債券市場を支え続けるなか、利下げなどを過度に織り込み短期債利回りの大幅低下のみによるイールドカーブのスティープ化では、まだリセッションリスクが後退したとは言えないだろう。ただ、金利水準の低下や政策対応で経済活動が減速せず、堅調な経済指が続き、中長期的な景気見通しが楽観的になると、中朝長期債利回りの上昇が加速し、イールドカーブは更ににスティープ化するだろう。そのような状態が確認されたら、マーケットの景気減速懸念も後退し、景気拡大は続くとの見方が強まるだろう。ここ数か月で急激に緩和的になった金融政策がどのように経済指標に影響を与えているかに注目は集まるだろう。
グローバル・フォーカスの解説
●次期欧州委員会委員長とECB総裁についてEU首脳が合意
EU加盟国の首脳は2日、次期欧州委員会委員長の候補としてウルズラ・フォンデアライエン氏 (ドイツ、国防相)、ECB総裁の候補としてクリスティーヌ・ラガルド氏 (フランス、IMF専務理事)を指名することで合意した。欧州理事会議議長 (EU大統領)の後任はシャルル・ミシェル氏(ベルギー・首相)、EU外交安全保障上級代表の後任候補には、ジョセップ・ボレル氏(スペイン・外相)が推薦された。フォンデアライエン氏が欧州委員会委員長に就任するには欧州議会の承認が必要になるが、EPP(中道右派)に属する同氏の就任にS&D(中道左派)などの会派が反対する可能性がある。また、ラガルド氏のECB総裁の指名もユーログループが推薦し、EU加盟国首脳が欧州議会やECB理事会の意見をふまえて公式に任命するという手続きがあるため最終的なものではない。ただ、これは形式的なものでユーログループによる推薦は7月9日の会合で行われ、9月中旬に公式に確定される可能性が高いだろう。ECBのツールが少なくなる中、インフレ低下圧力に対抗し、ユーロ圏経済を押し上げなければならない状況で、直接的に金融政策の経験がないことはラガルド氏にとって不利かもしれない。少なくても最初のうちは、ドラギ氏のようにリーダーシップを発揮するというよりは理事会メンバーたちの総意に基づいたアプローチがとられるだろう。
グローバル・レポートの要約
●世界経済(7/1):米中交渉…G20サミットで瀬戸際から脱出
米国と中国の間で続いている貿易紛争は、休戦に到達した。(大阪での)G20サミットで米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席が友好的な話合いを行った後で、米国はさらなる追加関税の実施を控えると共に、ファーウェイ社にハイテク部品を販売することも認めた。米中2国間の交渉が再開され貿易協定に辿り着く可能性もある。貿易戦争のさらなるエスカレートが先送りされたことで、市場が安心するかも知れない。とはいえ事前の望みは叶わなかった。交渉再開は良いニュースだが、完全合意に期待することには引続き慎重になるべきだ。また、FRBが現在の休戦状態によって経済へのリスクが軽減されると見なす可能性もあるが、今回のニュースでリスクが解消したとは弊社ではみていない。
●英国経済(6/25):ジョンソン保守党党首=合意無き離脱が最有力に
英国の保守党党首選挙で、ボリス・ジョンソン氏が最終段階に駒を進めた。保守党議員のうち160名がジョンソン氏に票を投じた。対してもう1人の最終候補となったジェレミー・ハント氏は77票を獲得した。弊社は、保守党党首選でのジョンソン氏最終勝利を想定して(可能性は高いとみられる)、各シナリオの実現可能性を示す樹形図をアップデートした。その結果(ブレグジットに関する部分)は、ノーディール(合意無き)・ブレグジットが、①「10月31日に実現」25%、②「それより後に実現」18%(合計43%)、「ブレグジットが円滑に実現」37%、そしてEU条約第50条(に基づく手続き)の撤回(ブレグジットの中止)が20%である。弊社はまた、国民投票の可能性が39%、総選挙の可能性が25%だとみている。
●ブラジル経済(7/2):年金改革の議論は順調、追加緩和が控える
市場では、年金改革が完了することと、大幅な金融緩和が今後実施されることが見込まれている。弊社もこれとほぼ同じ見方で、(希薄化などを受けない)「良い」内容の年金改革法案が、2019年の第3四半期(最も可能性が高い)か第4四半期の初めに議会を通過するとみている。BCBの四半期インフレレポートでは、インフレ率を2019/20年は中銀目標よりも低い水準、2021年も中銀目標をわずかに上回るだけの水準と見込んでいる。またBCBは2019年のブラジルGDP成長率予測を、従来の2.0%から大幅に下方修正、(弊社予測の1.0%も下回る)0.8%とした。国家通貨審議会会議(CMN)は昨日(6月27日)、2022年インフレ目標を3.5%(2021年目標より25BP低い)と発表した。この結果BCBは、2021年初めに(景気が力強さを増すならそれより早く)金融引締めの開始を強いられる可能性がある。だが政策担当者の考えでは、これにより市場の信頼感がさらに改善する(そしてこれは、低インフレ/低金利環境の維持に欠かせない)。世界の景気や金融状況も、BCBが緩和的なスタンスになることを求めている。弊社は現時点で、追加の(また大掛かりな)金融緩和が今年中に実施される可能性が高いとみている。今年末時点の政策金利(SELIC)予測も、従来の6.5%を5.5%に引下げた。もちろん年金改革案が議会を通過しない限り、弊社の金利見通しに対するリスクは、下方に強く傾くことになる。
●グローバル・ストラテジー(6/28): 米国リセッション…いよいよ間近に、既に始まった可能性も
米国では、逆イールドの発生がリセッション入りのシグナルとして信頼されている。だが実際は、そのシグナル点灯からリセッション発生までの期間は長く、しかも一定ではない。リセッションの危機がそれよりも遥かに間近に迫る、または現実になるのは、逆イールド発生の後に(順イールドに戻ってから)イールドカーブの急速なスティープ化が起こった時だ。これは、景気拡大サイクルの終了と丘の上に避難する時期であることを、投資家に告げている場合が多い。その急速なスティープ化が現在発生しつつあり、リセッションが間近に迫った可能性、またはリセッションが既に始まった、のいずれかを示している。
●債券市場(7/1):断固たる強気
G20大阪サミットが明るい見出しを飾っても、継続中の貿易交渉が難航するリスクは弱まらないだろう。米連邦準備制度理事会(FRB)が7月の会合で50BPの利下げに踏み切るとの見方は後退したが、世界の中央銀行の緩和的な政策運営は債券市場を支え続ける公算が大きい。このため、弊社は債券相場に強気な投資スタンスを維持していく。マーケット指標は引き続き、利回り低下の方向にリスクが傾いているシグナルを発している。
●債券市場(6/27): 2019年下半期外国債券市場見通し: 流れに逆らうな
・ 長引く世界的な不透明感と持続的な低インフレの予想が、金利上昇への期待を打ち砕いている。
・ 債券市場の正常化を目指す中央銀行の取り組みは奏功せず、「ニューノーマル(新常態)」の世界へと逆戻りした。
・ 利回りが低下したことで、投資家は流れに乗ってデュレーションを延ばす以外に選択肢のない状況に追い込まれている。
・ フロントエンドの金利低下は、イールドカーブのさらに先へ先へと下押し圧力を加え続けるだろう。
・ 不透明な政治情勢を踏まえつつ、投資家は引き続きスプレッド・リスクの積み増しも検討すべきである。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司