パーソナルスペースに踏み込みすぎない
「第一印象は1秒が勝負」とお話ししましたが、もちろん最初の1秒だけ頑張れば、あとは気を抜いても大丈夫というわけではありません。
そもそも、こちらが最高の笑顔を相手に向けたとしても、相手がこちらの顔を見てくれない可能性もあります。うつむいたままで、目も合わせずに名刺交換をして、席に座ってからやっと相手の顔を見る、という人もいます。
ですから、正確には、「第一印象は、相手が自分の顔をちゃんと見始めてから1秒が勝負」です。
挨拶や名刺交換をする場面で注意しておきたいのが、相手との対人距離の取り方です。
人には「自分の空間=パーソナルスペース」があり、親しくない人にズカズカとパーソナルスペースに踏み込まれることに抵抗感を抱きます。
私が調査したところでは、初対面の場合、日本人男性のパーソナルスペースは平均108cm、女性は平均118cmでした。
パーソナルスペースの広さは国や文化によって大きく異なり、米国の文化人類学者であるE・T・ホールの調査では、米国人の平均は366cmでした。
また、低年収より高年収の人のほうが、接客業や営業職などの対人業務に就いている人よりも作家や画家といった一人で仕事をしている人のほうが、より広いパーソナルスペースを求めるという研究結果も出ています。
人は「自分のパーソナルスペースに踏み込まれた」と感じると、無意識のうちに、すっと後ろに身体を引いたり、笑顔が消えたりします。こうした様子が相手に見られたら、自分のほうから一歩引いて距離を置くようにしましょう。
理想のアイコンタクトは1分あたり32秒以上
席に座って、相手との会話が始まってからも、やはり大切になるのは表情です。基本は笑顔ですが、相手が悲しい話やつらい話をしているときは、こちらも相手の表情に合わせるようにしましょう。
その際に心がけたいのは、相手の発言に反応しながら、驚いた表情をしたり、微笑んだり、思いっきり笑ったりというように、表情を豊かに変えていくことです。すると相手は、「この人は自分の話をちゃんと聞いてくれている。興味を持ってくれている」と感じて、あなたに好感を抱き、もっと話したいと思うようになります。目安としては、1分間のうち、28秒以上は表情筋を動かして、表情を変えるようにしてください。
また、アイコンタクトを取りながら話を聞くことも大事。理想のアイコンタクトの長さは、1分間あたり32秒以上です。
ただし、黒目の中心をずっと見ていると、相手は威圧感を感じてしまうので、逆効果です。相手の右目と左目の目尻と、鼻の縦2分の1のところを線で結んで二等辺三角形を作り、その部分を見るようにすれば、相手は威圧感を覚えることなく、自分をちゃんと見てくれていると感じます。
もう一つ重要なのが声です。ナリニ・アンバディは、声に威圧感がある医師は患者から訴えられやすく、声に温かみのある医師は訴えられにくいという研究報告をしています。
自分の声を録音するなどして、普段、どんな声を発しているか、チェックしてみましょう。
相手のタイプに合わせて振る舞い方を変えよう
人には相性があります。同じように接しても、相手から好印象を抱かれることもあれば、悪い印象を抱かれることもあります。
そこで、相手のタイプに合わせて振る舞い方を少し変えてみるのもいいでしょう。
例えば、辣腕のワンマン社長と会わなくてはいけない場面があったとします。
こうした人は支配欲求が強いですから、こちらもパワフルさを前面に出して張り合おうとすると、相手と対立してしまうことになります。
仲良くなってからであれば、気の強い者同士で相性が噛み合うこともありますが、初対面のときは、張り合うのは避けたほうが賢明です。必要以上に胸を張ったり、鋭い目で見たりしないようにしましょう。
逆に、相手が年下や目下で、教えを請いに来ている場合などは、少し胸を張り気味にするなどして、頼りがいがある人物を演じます。
こうしたことをするためには、相手がどんな人物で、自分に何を求めているのか、事前のリサーチやイメージングが不可欠になります。ちょっと上級者向けのテクニックですから、まずは「背筋を伸ばし、広めの歩幅で歩くこと」と「笑顔を基本に、豊かな表情で相手と接すること」という基本から始めてみてください。これだけでも、あなたの第一印象がぐっと良くなるはずです。
佐藤綾子(さとう・あやこ)
ハリウッド大学院大学教授/博士(パフォーマンス学・心理学)
1947年、長野県生まれ。69年、信州大学教育学部卒業。ニューヨーク大学大学院パフォーマンス研究学部修士課程、上智大学大学院博士課程修了。日本におけるパフォーマンス学の第一人者。日本大学芸術学部教授を経て現職。社会人セミナー『佐藤綾子のパフォーマンス学講座R』主宰。『自分をどう表現するか』(講談社現代新書)、『できる大人の「見た目」と「話し方」』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。《取材・構成:長谷川敦》(『THE21オンライン』2019年5月号より)
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