前日については、パウエルFRB議長の米下院金融サービス委員会での議会証言において、前段階で日本時間21:30にアジェンダが公表され、「前回会合以降の不透明感が引き続き見通しを曇らせている」「貿易や世界経済の成長見通しに不透明感」「米景気拡大を支えるため適切に行動する用意がある」との見解が示されると、ドル円は108.95円付近から108.60円付近まで急落する動きとなりました。23:00の議会証言では、質疑応答で、6月米雇用統計で雇用者数が予想以上に増えたものの「FRBの政策見通しに影響はない」との回答をしたことから、従来通り7月の利下げはコンセンサス、さらには25bpでなく50bpの利下げの可能性もあることから、ドル円はさらに下値を拡大し、108.351円まで下落しました。

その後に公表されたFOMC議事要旨においても、「リスクが高まる中、多くの当局者が利下げの根拠が強まったと認識」との見解が示され、ポジティブサプライズはないとの考えから、上値が抑えられるかたちとなりました。パウエルFRB議長が利下げを示唆したことから、7月FOMCの焦点は25bpか50bpかの利下げ幅に移行したと考えらえます。25bpであれば従来のコンセンサス通りであるため、影響は限定的になりそうですが、50bpになるようであれば、ターゲットは107円前半、中期スパンで105円台を目指す動きになりそうです。

特徴的だったのが、リスク回避の動きでなく、ドル独歩安の動きであったことです。ランド円では7.750円まで上値が拡大し、トルコリラ円でも19.098円まで上昇しています。特に、ランドについては、ラマポーザ南ア大統領がクガニャゴ南アフリカ準備銀行(SARB)総裁を再任したとの報道もあり、中銀の独立性に加え、長期スパンでの経済政策も確保されたとの考えが主導したものと思われます。ウルスア・メキシコ財務相が急遽辞任を表明したメキシコペソについては、ロペス・オブラドール・メキシコ大統領が「政権内で他にも辞任するメンバーがでる可能性も」との見解を示し、ドル同様に上値が抑えられています。

今後の見通し

FXプライム,市況解説
(画像=PIXTA)

前日のパウエルFRB議長の議会証言にて、「本日から月末にかけて重要な経済指標がある」と発言しており、指し示す経済指標は、米・6月消費者物価指数ではないかと考えらえます。利下げ観測が強まった背景として、米中貿易戦争の激化があるものの、根本的には消費者物価指数の低迷だと考えられています。消費者物価指数の前年同月比では5月は1.8%、今回は1.6%予想になっています。FRBが目標とする2.0%の水準を下回り、CPIコアについては、昨年7月以降、鈍化傾向が続いています。ポジティブサプライズがあるとすれば2.0%になることですが、市場予想通り1.6%程度であれば50bpの利下げ観測が強まるかもしれません。

ただ、同議長は、「貿易摩擦などの米経済に対する影響を考慮して、必要に応じて行動する」とも発言しており、クラリダFRB副議長が表現した「予防的利下げ」に合致する可能性が高く、25bpの利下げが落としどころになる可能性が非常に高いと思われます。米景気は拡大局面が11年目に突入し、戦後最長を更新したばかりです。物価上昇圧力が弱まっていることが要因であれば、「予防的利下げ」に落ち着き、25bpの利下げに収斂するのではないでしょうか。市場はほぼ100%に近いかたちで25bpの利下げは織り込んでいるため、利下げ公表後はドルは買い戻される動きになるのと考えています。

パウエルFRB議長の議会証言の内容を完全に読み違えた

108.70円で途転買いに戦略変更したものの、パウエルFRB議長の議会証言内容を完全に読み違えました。また、それ以上にドル円は109.00円のラインがテクニカル的に重いということが示されました。損切り水準は108.30円下抜けでしたが、108.40円にて損切り手仕舞です。ドルについては、ここからFOMCまでは様子見ムードが強まることを想定されるためポンド円に方向転換とします。136.20円が直近のレジスタンスラインとして意識されそうなため、まずは135.80円までの戻りを待ちたいと思います。135.80円での戻り売り戦略、利食いは135.00円、損切りは136.20円に設定します。

海外時間からの流れ

トランプ米大統領を「無能」と評した極秘報告を本国に送っていたと報じられた英国のダロック駐米大使は、現状では大使としての職務の遂行が不可能と判断したため辞任しました。一旦ポンド売り材料になるかとも思われましたが、トランプ大統領の反発こそありましたが、影響は限定的となりました。保守党党首選が注目される英国ですが、次期欧州委員長候補であるドイツのフォンデアライエン国防相は、欧州議会会派との会合で、英国のEU離脱に関し「もし英国がもっと時間が必要なら、延期は正しい考えだろう」と語り、「合意なき離脱」を回避するため、10月末に迎える離脱期限を再々延期することもあり得るとの認識を示しました。ボリス・ジョンソン氏が党首になったとしても、状況によってはポンド急落が免れる材料が出てきています。

今日の予定

本日は、トルコ・5月経常収支、米・6月消費者物価指数、米・新規失業保険申請件数、加・5月新築住宅価格指数などの経済指標が予定されています。要人発言では、デベル・RBA総裁補佐、ウィリアムズ・NY連銀総裁、ボスティック・アトランタ連銀総裁、バーキン・リッチモンド連銀総裁、そしてパウエル・FRB議長半期議会証言(上院)が予定されています。

(提供:FXプライムbyGMO)

FXプライムbyGMO情報分析チーム
為替のみならず、株式、商品相場の経験者が多角的な目線でマーケットを分析します。執筆者は営業推進部マーケッツグループ長、稲井有紀、グループ長代行、崔 敏樹。