(本記事は、陰山孔貴氏の著書『ビジネスマンに経営学が必要な理由』=クロスメディア・パブリッシング、2019年2月1日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
ビジネスマンが変化に強い人材となり、これから先においても価値を発揮し続けるためには、次の3つのシフトが必要だと考えていると説明しました。
1.「問題解決能力」から「問題発見能力」へのシフト 2.「テクニカル・スキル」から「コンセプチュアル・スキル」へのシフト 3.「勉強する」から「学問する」へのシフト
本記事では3つ目の、「「勉強する」から「学問する」へのシフト」についてお話をしていきたいと思います。
シフト3「勉強する」から「学問する」へのシフト
3つ目は「勉強する」から「学問する」へのシフトです。
ここでは、知的レベルを上げるためには「学問する」ということが重要であること、「学問する」とはどういうことか、「学問する」ためにはどうしたら良いか、といったことについて説明していきます。
学生時代の「頭の良さ」と経営者・ビジネスマンの「頭の良さ」は違う
私がシャープで20代の頃に携わった液晶パネル事業は規模が非常に大きいため、ビジネス構造や組織構造が複雑であり、「全体として会社が何をやっているのかよくわからない」という状態に陥ってしまいました。
当然、経営者のように、「会社が今後どうしていくべきか?」を考えることなど到底できませんでした。
そこで、働きながら経営学を学ぶために大学院へ通い始めました。この理由は「経営者の頭の良さの正体」を知りたいと思ったからでした。
学生時代、母校のビジネススクールにもぐり込んで(登録さえすれば、理工学研究科の大学院生であった私でも受講できる科目があったのです)受講した講義の中で出会った経営者の方々や社会人になってから出会った経営者の方々は、どなたも頭が良い人ばかりでした。
しかし、その頭の良さは、高校時代や大学時代に接していた頭の良い友人に対して感じていたものとはまったく異なるものでした。
「一体何が違うのだろう?」
その答えを大学院で考えてみようと思ったのです。
結論を言ってしまえば、それは「勉強する」と「学問する」の違いでした。
高校時代や大学時代の頭の良さは主に「勉強ができる」ということです。「勉強」とは、知識をインプットし、その知識を使って正しく早く正解にたどり着けるようにすることを指します。第2章の内容に絡めて言えば、それはテクニカル・スキルを習得したに過ぎません。
一方、「学問する」とは、問題を提起し、試行錯誤を繰り返しながら今まで見えていなかった物事の本質を見えるようにすることです。「学問する」過程では、問題発見能力と問題解決能力、コンセプチュアル・スキル、ヒューマン・スキル、テクニカル・スキルのすべてを開発・強化する必要があります。学問は、より統合的な取り組みであるともいえます。
「学問する」とスキルの関係
本書を書いていたある日、あるカリスマ美容師の方にお会いする機会がありました。そこで、この方に「学問する」ことについて質問をしてみました。
私はその時、「美容業界には学問など関係ないですね。必要なのはセンスですよ」と言われると予想していたのですが、意外にも出てきた言葉はこのような言葉でした。
「美容道にも終わりがないんですよね」
この方曰く、美容道も「学問」だというのです。
実際、美容の世界にも座学があり、最新のカット技術についてアメリカをはじめとした世界各国の動画などを観て学ぶそうです。特に新人の頃は、いろいろな雑誌を見たり、先輩達の仕事をみたりしながら、カットの練習をひたすら繰り返すそうです。仕事が終わってからの練習なので、帰宅は深夜になることも当たり前だというのです。
まさに、テクニカル・スキルを磨く日々です。さらに、シャンプーなどをしながら実際にお客様と接することで、接客技術を高めていく、つまり、ヒューマン・スキルの向上をはかっていきます。そして、ある程度のテクニカル・スキル、ヒューマン・スキルがついてくると、お客様の要望を聞いて、そのカット後の姿を徐々にイメージしていけるようになるそうです。
まさに、コンセプチュアル・スキルがついていくのです。ただ、実際にイメージをできても、カット技術が伴わない場合は、そのイメージが実現できないので、またカット技術というテクニカル・スキルを磨いていく。その繰り返しを行うことによって、より高い価値を顧客へ提供できるようになるのだそうです。
そして、一定の状況まで来ると非連続な劇的な変化をもたらすことがあるとのことでした。実際、この美容師の方も、深夜のカットの練習と実際の接客を繰り返していたある時、「急にお客様のカットした後の姿が、カット前に見えるようになった」と仰っていました。
これは多くの方に私自身がインタビューをさせて頂いて気づいたことなのですが、美容の業界だけではなく他の業界や企業の方々にも同じことが言えるようで、後から振り返ると「あの時から、違う景色・世界が見えるようになった」という経験がある方が多いのです。
ビジネスマンになった今こそ経営学を学ぶとき
「学問をする重要性についてはわかった。では、何を学んだら良いの?」と思われた方もいるかもしれません。そこで何を学ぶべきかについて私の考えを述べておきます。
学ぶ内容について、私は極論を言えば「何でもいい」と思っています。
どの分野を極めようとしたとしても、コンセプチュアル・スキルが身につけられれば、横展開が容易だからです。結局のところ、自分の興味がある分野、モチベーションを高く保ちながら取り組める分野を選ぶことが、いち早くスキルを上げる近道といえます。
しかし、もし特に興味のある分野がないのであれば、経営者やビジネスマンの方々には「経営学」を学ぶことをお勧めします。これは単に私が経営学を教えているからという理由ではありません。理由は、経営学ならばみなさん自身が日常的に抱えている問題に直結するからです。
社会に出て数年間働いてみれば、疑問に思うことや納得のいかないことなどに、いくつも直面したはずです。ビジネスに問題意識を持っている今が経営学について「学問する」絶好の好機といえます。
経営学部を卒業した方であっても、ビジネスに深く触れていなかった学生時代と数年間当事者としてビジネスに携わってきた今では、立てられる問いの質がまったく違うはずです。
そして、学問する際に大切になることは「自分事」として「学問する」ことです。例えば、飲み屋で行われる愚痴・不満の多くは、自分事ではなく、他人事であることが多いように思われます。
もちろん、職務や組織の問題でかかわれない状況もあることでしょうが、他人事の状態では、自身のスキルを日々の忙しい中で高めていくことは難しいのも事実です。自身の中での優先順位を挙げ、取り組んでいくことが求められます。
私たちは学生時代の大部分を「答え探し」の訓練に費やしてきました。ですが、「答え探し」には限界があります。学生のテストとは違い、ビジネスの現場では明確な答えがあることの方が少ないからです。それに目まぐるしく変わる環境において、今日の正解が明日も正解とは限りません。
正解を探そうとする経営者やビジネスマンは、やがて行き詰まります。だからこそ、答えのない問いについて仮説検証を繰り返し、「学問する」ことで、スキルを向上させていくことが今の経営者やビジネスマンには必要であり、「学問する」必要があるのです。
そして、その学問として経営者やビジネスマンであるならば、「経営学」という「巨人の肩の上に乗ること」をさりげなく、お勧めしているのが本書になります。