(本記事は、陰山孔貴氏の著書『ビジネスマンに経営学が必要な理由』=クロスメディア・パブリッシング、2019年2月1日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

ビジネスマンに必要とされる3つのシフト

ビジネスマンに経営学が必要な理由
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ビジネスマンが変化に強い人材となり、これから先においても価値を発揮し続けるためには、3つのシフトが必要だと私は考えています。

特に「ゆくゆくは会社の経営に携わりたい」、「より活躍したい」、「市場価値の高い人材として仕事に困らない人間になりたい」と考えている方にとっては、この3つのシフトを実現できるかは重要なポイントだと私は考えています。その3つのシフトとは、次の通りです。

1.「問題解決能力」から「問題発見能力」へのシフト
2.「テクニカル・スキル」から「コンセプチュアル・スキル」へのシフト
3.「勉強する」から「学問する」へのシフト

シフト1 「問題解決能力」から「問題発見能力」へ

1つ目は「問題解決能力」から「問題発見能力」へのシフトです。

これまで、ビジネスにおいて「問題解決能力」が大事と言われてきた方も多いと思いますが、変化のスピードが激しい現在においては、それ以上に「問題発見能力」が大切になります。

多くの方は学生時代から、与えられた問題を正確に解くトレーニングを重ねてきたはずです。

さらに会社に入ってからも、仕事というのは何かしらの問題解決であることが多く、営業であれ、開発であれ、「問題解決能力」が大事と教わり、目的を達成するために立ちふさがる問題を一つひとつ取り除くように仕事をしてきたという方が多いのではないでしょうか。

しかし、この「問題解決能力」をどれだけ高めても限界があります。というのも、「問題解決能力」のほかにもっと重要な能力があるからです。

それが、「問題発見能力」です。

経営者の仕事は、今後どのような事業に注力するか、企業の目的を達成するために組織をどのように変えるかといった、企業全体の方向性を意思決定することが主です。「問題を見出し、定義する」ことが仕事なのです。

しかし、実際、企業で働いたり、日常生活をしていると、私も含め多くの方は問題そのものについて考えるよりも、解決策を見つけることに注力してしまいます。より極端に言ってしまいますと、問題解決さえできればそれで問題なしと思っています。

そのために、解決する必要のない問題でも、長い時間、解決策を求めて時間を浪費したり、根本的な解決にはならないような些細な問題に一生懸命に取り組むことも多いのです。

高度成長時代は、問題解決型でも良かったように思います。しかし、これからの時代には、問題解決以上に「問題発見能力」が重要になってきます。

限りある経営資源を使い、より多くのチャンスをつかむためにも、どの問題に対応すれば企業としてより良くなれるのか。ここは大切な点であり、「問題発見能力」を磨いていく必要があります。

また、問題発見の際は、解けない問題では仕方ないので、問題を上手に分解することも学んでいかねばなりません。仕事ができる方々を見ていると、この分解が非常に上手です。

会社の「問題発見能力」を伸ばす取り組み

私が以前に調査させて頂いたある企業のお話をさせてください。

この企業は、建築業界の企業なのですが、この業界でナンバー1になることを目標として取り組まれています。ちなみに、この企業のナンバー1とは売上高のことを指しているわけではありません。この企業が指す業界ナンバー1とは「ナンバー1の存在」になることなのです。

そして、大変興味深かったのが、この目標は経営者の方が決めたのではなく、社員の方々が話し合った結果で決めたというものでした。そのために、品質、接客、設計、開発などをどのような状態にまでもっていけばいいのかを社員の方々がディスカッションをすることで決めていったというのです。

やはり、与えられた受動的な目標は多くの場合、無理があります。自らで設定して、それで会社がまわっていくならば、それが一番素敵なことです。多くの社員が能動的に前向きに「この問題を解決してやるぜ!」という感じになった企業は強いように感じます。

また、私が調査した他のある企業の経営者の方は、問題発見をしやすいような状況をつくるために、社員の前向きなコミュニケーション量を増やすことに取り組んでおられます。

イベントをできるだけやってみんなが話しやすい雰囲気をつくったり、職場の会議室もガラス張りにしてどのような方が社内に来ているのかをわかりやすいようにしたり、メンバー間で褒め合いが進むようなSNSを導入したりとできるだけ上下間、部署間を越えたコミュニケーションが増えるような工夫を行っています。

また、場所を変えれば、メンバーの勤務時以外の様子も見えるということで、会社以外の場所で行うイベントを増やしたり、海外への社員視察なども積極的に行ったりしています。前向きなコミュニケーションが増えれば、若手から先輩への相談もしやすくなるでしょうし、問題発見がしやすくなります。

この経営者の方が言われていたことの中で印象的だったことがあります。

「売上高が上がらない時に、訪問件数などのKPI(Key Performance Indicatorの略称:重要業績評価指標のこと)のことを言う人が多いけれど、本質は違うことが多いのですよね。

顧客が求めていることを理解しているのか、顧客や自身が置かれている状況を的確に理解できているのか、また、顧客や協力してくださる企業や社内のメンバーとの関係がつくれているのか。そういう一見、見えないところを解決することこそがドライバーになっていろいろなことが伸びることがよくあるのですよね」

確かに訪問件数なども売上高を上げるためには大切なことなのですが、その企業の課題や悩みがわかっていなければ、訪問しても意味はありませんし、その課題や悩みをどう解決していくのかが重要なわけであり、その方法についても社内のコミュニケーションが円滑になれば、各人がもっている解決方法をメンバーが共有して使えるようになります。

結果として、企業としての引き出しが増えるのです。

実際、この企業は着実に、売上高と利益を拡大させています。

問題発見能力こそ「コンセプチュアル・スキル」だ

根本的には、問題を発見できるか否かは「コンセプチュアル・スキル」の有無にかかっていると私は考えています。

コンセプチュアル・スキルは、米国の経営学者・ロバート・L・カッツ先生が考えた概念であり、「組織の諸機能がいかに相互に依存し合っているか、またその内のどれか一つが変化したとき、どのように全体に影響が及ぶかを認識することであり、個別の事業が、産業、地域社会、さらには国全体の政治的、社会的、経済的な力とどのように関係しているかを明確に描けること」を指します。

つまり、コンセプチュアル・スキルとは、物事の関連性を捉える力と言い換えてもいいかもしれません。物事を注意深く観察したり、社員のコミュニケーションを改善したりして得たあらゆる情報から、点と点を結びつけて、その関連性を導き出すことが、適切かつ根源的な問題を発見することにつながるのです。

ビジネスマンに経営学が必要な理由
陰山孔貴(かげやま・よしき)
獨協大学経済学部経営学科准教授。博士(経営学)。1977年大阪府豊中市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修士課程を修了後、シャープ株式会社に入社。液晶パネル事業の経営管理、白物家電の商品企画、企業再建等に携わる。同社勤務の傍ら、神戸大学大学院経営学研究科専門職学位課程、同博士後期課程を修了。獨協大学経済学部経営学科専任講師を経て2017年より現職。2018年より早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター技術経営研究部会招聘研究員も務める。

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