要旨

●骨太方針案では、2019 年10 月の消費税率引き上げが明示される一方、海外リスク顕在化の際の経済対策を実施する余地が作られている。

●ここで「機動的なマクロ経済政策」との文言が使われている。この言葉がアベノミクス下の骨太方針で使われたのは初めてである(従来は「機動的な財政政策」)。マクロ経済政策は財政・金融政策を包含する言葉だ。政府が日銀に財政・金融政策の協調を求めているようにも映る。

●補正予算が編成される場合には、追加で国債発行が実施される可能性が高い。税収上振れ分等が財源として想定されるが、それだけでは十分な額を捻出できないだろう。

●追加経済対策実施の場合、内容は公共投資が想定される。しかし、近年建設業の供給制約の強まりから経済対策のGDP 押し上げ効果が小さくなる傾向がある。景気浮揚効果については慎重に見ておくべきである。

消費税
(画像=PIXTA)

増税実施の一方、経済対策に含み

 今回の骨太方針におけるマクロ経済政策運営の文章では、消費税率を10%へ引き上げることが明示された。従来方針通り、増税と併せて教育無償化などの恒久的な家計還元策と、昨年末に策定したキャッシュレスポイントなど一時的な経済対策を実施することで、景気への悪影響を抑制する構えだ。

 一方で、新たに加えられたのが、資料1の下線部の文言だ。米中貿易戦争激化など海外経済のリスクが強まっていることから、そうしたリスクに備えて機動的なマクロ経済政策を躊躇無く実行すると記された。増税実施を明言する一方、更なる追加経済対策に含みを残した格好である。

骨太・成長戦略2019 のポイント(消費税・経済対策編)
(画像=第一生命経済研究所)

「機動的な“マクロ経済政策”」の含意は?

 ここで筆者が気になったのは「機動的なマクロ経済政策」という文言だ。2013年以降の骨太方針を確認してみたが、この言葉が記載されたのは今回の原案が初めてだ(「機動的な“財政政策”」は複数回記載がある)。一般にマクロ経済政策と言えば財政政策と金融政策の2つを指すことが多い。「財政政策」と記していたところを「マクロ経済政策」に変えたということは金融政策を新たに含めたということになる。穿った見方かもしれないが、政府が財政政策と金融政策の協調、つまり景気悪化のリスクが顕在化した際の金融緩和を日本銀行に要請しているようにも映る。

補正編成なら追加国債発行が濃厚に

 追加の財政政策が実施される場合、追加の国債発行が必要になる可能性が高いだろう。補正予算の財源として想定されるのが、①2018年度純剰余金(≒18年度税収の上振れ分)、②2019年度想定税収の上振れ分、③国債費等の不用額の3つだ。①2018年度税収上振れについては、いくらかの財源が生じる可能性があろう1。②は財務省がどのような想定を置くかわからないが、足元の経済情勢を踏まえればむしろ下振れが自然体に思われる。③は例年予算編成の際の高めの想定金利と実勢金利の差分から国債費の不用が1兆円程度発生、今年も同様になると見込まれる。総じて、①~③で確保できそうな財源は楽観的に見積もっても2兆円程度となる。この額は景気下方リスクの中での経済対策としては小さい規模であり、追加の国債発行によってここから規模を拡大する可能性が高いだろう。昨年骨太で決まった財政再建計画においても、今年度の追加補正予算編成を縛る厳格な制約は無い(2025年度、2021年度のプライマリーバランスに数値目標が設けられている)。

公共投資と供給制約の問題

 経済対策が実施される場合、直接的なGDP浮揚効果のある公共投資が中心となりそうだ。しかし、建設業での供給制約が徐々に強まっている影響から、経済対策を打っても実質ベースの公共投資は伸びづらい環境が続いている2。今回経済対策が追加される場合も公共投資の積み増しが予想されるが、それがスムーズに執行されて即効性のある景気浮揚につながるかどうかに関しては、慎重に見ておいた方が良い。(提供:第一生命経済研究所

骨太・成長戦略2019 のポイント(消費税・経済対策編)
(画像=第一生命経済研究所)

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
副主任エコノミスト 星野 卓也


  1. Economic Indicators「一般会計税収(2019年4月末時点)」2018年度の税収額は60兆円程度の着地を見込んでいる。政府の見込みは59.9兆円でありこことの差分が上振れ分となる。。http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/macro/2019/hoshi190604.pdf

  2. Economic Trends「公共投資は消費税対策の役割を果たせるのか~供給制約が厳しくなってきた建設業~」を参照ください。 http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/macro/2018/hoshi190108a.pdf