シンカー: 足許の経済指標は改善の兆しを見せ始めている。中国の4-6月期のGDP成長率はリーマン危機以来の低成長となったが、同時に発表された月次データは堅調な動きを見せており、政策支援の効果が表れ始めていることが確認された。米国でも6月の雇用統計は反発し、米国の労働市場は引き続き堅調であることが確認された。しかし、主要国中央銀行は経済見通しに対するリスクはが強まっているということを理由にハト派的な政策バイアスを維持している。パウエル議長の議会証言やFOMC議事録でも、経済見通しに対するリスクに重きが置かれ、足許の指標が強くても、予防的な意味合いを含め、緩和策を実施する必要性が重要視されているようだ。足許のデータに対応する形で実施されていた金融政策は、マーケットの期待などをもとに今後の期待形成を誘導する形に変わってきているようだ。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバル・フォーカスの解説

●FOMC議事録とパウエル氏の議会証言

6月18-19日のFOMC議事録では、経済見通しに対するリスクに対し、FEDが近いうちの利下げに傾いている可能性が改めて示された。会合で金利は据え置かれたものの、経済についての不確実性や下振れリスクが“著しく高まった”と判断され、"多くの参加者が最近の動向が長期化し、経済成長の重しとなり続けた場合、近いうちの利下げが正当化される"としている。このミーティングで25BPの利下げを主張したのは1名だけだったが、数名の参加者は近いうちの利下げは“将来起こり得る景気へのショックを和らげるのを助ける可能性がある"として、前向きな姿勢を示した。一方、"一部の参加者は、FF金利の適切なパスが以前想定されていたよりもフラットになると判断しているが、利下げに動く強い論拠はまだ見られない”と慎重な姿勢を示しているメンバーもおり、意見の一致が取れているわけではないようだ。パウエル氏議会証言(下院)では、“強かった雇用統計による政策の変更はない”とされ、経済への不確実性、下振れリスクを背景に“より緩和的な金融政策の必要性が高まっている”と述べた。2日目には、経済は良好な立場にあり、消費支出も堅調な状態が続いているが、貿易摩擦を巡る不確実性が見通しの重しになっていると発言。企業の投資が弱くなってきていることを指摘し、“多少ではあるが一段の金融緩和が適切になる可能性があるとメンバーの多くが考えている”とした。さらに“2%の物価上昇率を大きく下回りたくない。後手に回らないようにするのが、日本から得た教訓だ”とも述べ、早期の利下げに傾いていることを示した。中立金利について、”以前考えられていたより低いことが分かりつつあり、自然失業率も従来の想定を下回っている”ことから“金融政策はこれまで考えられていたほど緩和的ではない”とし、緩和の余地があることを示唆している。

グローバル・レポートの要約

●英国経済(7/4):英国:景気見通しは利上げを正当化しない・・・次の動きは利下げになる

英国の直近月次GDPデータでは、3カ月/3カ月成長率が、4月は0.3%からサプライズ上方修正され0.4%となり、5月もそれをわずかに下回るだけの0.3%になった。だが詳細をみると、第2四半期(Q2)の成長率が前期比マイナス0.1%になる(Q1の同プラス0.5%に続き)という、弊社の現行見通しが裏付けられた。また弊社が独自に算出している「SG合成指数」は、Q3に英国景気が大幅減速すると示している。弊社は「BOEの引締めはすでに終了した」という従来からの見方を繰返す。弊社はまた、初回利下げは2020年になると見込んでいる。しかし、それが前倒しされるリスクが(現在でも)大きく、しかも高まりつつある。特にノーディール(合意無き)ブレグジットという愚の骨頂ともいえる事態が避けられなかった場合はリスクがさらに高くなる。

●アジア経済(7/8):日本の対韓国輸出規制…短期的な影響は両国ともに小さい

日本政府は、韓国での半導体生産で重要な素材となる3品目の輸出に関して、必要な手続きを強化する方向に動いた。新しい規制はこうした3品目の輸出を完全に禁止するものではないが、韓国企業としては、半導体や電子部品の生産で重要な品目を調達するハードルが上がる。韓国にとっての大きな懸念材料は、日本の新たな輸出規制に左右される品目が、韓国の輸出全体に占める割合が最も高い分野にも影響することだ。だが各工場には現時点で、こうした日本から調達している主要品目の在庫が数カ月分残っており、韓国の輸出に直ちには影響が出ないとみられる(弊社も、中期的な不確実性が高くなる可能性があることは認めるが)。また 韓国が「ホワイト国」(安全保障リスクを及ぼさないとみられる国)リストから外れても、現時点ではシンボリックな影響しか出ないだろう。日本としても、韓国に新たな輸出規制を課すことで自らが受ける影響は、限定的になるとみられる。規制される化学品が、日本の輸出全体に占める割合は非常に小さい。しかも日本企業も生産や販売の構造的な多角化を進めており、個別国への輸出規制で生じる売上高や収益性(の全体)への影響は限られる。

●債券市場(7/12): ショーは決して終わらない

デュレーションやリスク資産のロング・ポジションは先週、またしても迅速な勝利を収めた。市場の不透明感に解消の兆しが見えないため、この勝利は確定的なものではない。しかし、インフレがほとんど消滅した状態にある以上、征服者たる債券強気派の側に立たない理由は見当たらない。そして、先週のイタリアほど完全たる勝利はなかった。まだ物足りないという投資家は、依然としてイタリア国債にある程度の利回りを追い求めることが可能である。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司