不動産投資のリスクを、実際に現場で起きている問題から学ぶ!

管理費滞納
(画像=PIXTA)

不動産投資のトラブルは、ミクロで見るとさまざまな事情や状況で多岐にわたりますが、法的な結論はシンプルで、いくつかのポイントを抑えておけば、トラブル回避は充分に可能です。そこで、私たち弁護士が実際に相談を受けた案件から、よくあるトラブルをご紹介。なぜ問題が生じたのか、そしてどのように解決したのかをわかりやすく解説します。

競落した物件に前所有者の管理費滞納があった!

管理費滞納
(画像=ヴェリタス・インベストメント)

千葉県在住 中村さん(67歳、男性)からのご相談

退職後、時間とお金に余裕ができたので、不動産投資をすることにしましたが、安く物件を手に入れることができるとあって、裁判所の競売物件に目をつけ、いくつか競売物件を見て、特に最低入札価格が相場よりも相当安いマンションの1室を競落しました。競落した当初は、物件が安く手に入り、よかったと思っていました。

しかし、その物件を手に入れてしばらくすると、その物件のマンション管理組合から「前所有者が管理費等を滞納していたので、支払ってほしい。」と連絡がありました。管理組合の話では、管理費1万円と修繕積立金1.5万円の合計2.5万円を4年間、総額で120万円も滞納しているとのことでした。

私が滞納したわけでもないのに、前所有者が滞納した管理費等を私が支払わなければならないのでしょうか?

よくあるトラブル(6)「滞納管理費等の支払い義務」

これで解決!

結論から言うと、支払わなければなりません。

たしかに、ご自身が滞納したわけではないのに、前所有者の滞納管理費等を支払わなければならないのは、納得いかないと思います。ただ、建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)第8条には、前所有者が管理組合に支払うべき管理費や修繕積立金を滞納していた場合、現所有者も、管理組合との関係では、前所有者と同様、滞納管理費等の支払義務を負うことが定められています。

また、区分所有法に根拠を求めずとも、各マンションの管理規約に、同様の規定がある場合が多いと思います。そして、管理規約には、管理費等の滞納の場合に、民法所定の5%を超える10%程度の遅延損害金が定められている場合や管理費等の回収のために管理組合が支出した弁護士費用なども負担させることを規定している場合も多くあります。管理規約には、各区分所有者は従わないといけないので、前所有者の滞納家賃だけでなく、高い遅延損害金や弁護士費用なども負担するリスクがあります。

もっとも、競売の際に基本情報として、管理費等の滞納があるか否かは確認ができますので、競売に参加する場合は、慎重に確認をする必要があります。特に、裁判所の競売においても、相場よりも相当安い場合には、前所有者の滞納分が実質的に値引かれている場合があるので、「安い」と飛びつく前によく確認をする必要があります。もちろん、前所有者の滞納管理費等を支払った場合、前所有者に支払った分を請求できますが、多くの場合、競売になるような人が前所有者ですから、前所有者に支払能力がない場合が多く、現実的に前所有者から回収することは困難です。

その意味で、競売も含めて、不動産投資には、やはりプロのアドバイスが重要ですので、信頼できる投資パートナーに相談することは大切です。

なお、管理費や修繕積立金は、5年で消滅時効にかかります。つまり、5年間、管理費を支払っていなければ、時効にかかるので、時効だと主張すれば、5年以上前の管理費を支払う法的義務はなくなります。ただし、その場合「時効の中断」がなされていないことが条件となります。「時効の中断」とは、管理組合が管理費等を支払わない不誠実な所有者に対して、消滅時効期間が満了する前に裁判上の請求をするなどの中断の措置を講ずることです。「時効の中断」措置が講じられている場合、消滅時効は援用されず、支払う義務が生じますので留意が必要です。(提供:ヴェリタス・インベストメント

>>【無料eBook】2020に向けた東京不動産の今

弁護士 種⽥ 和敏(たねだ かずとし) 弁護士(第二東京弁護士会)。池袋の城北法律事務所に所属。1982年に滋賀県大津市に生まれ、神奈川県藤沢市で育つ。2005年に東京大学法学部を卒業後、東京都港区役所に5年間勤務、成蹊大学法科大学院(夜間コース)を修了、2011年に弁護士登録。借地借家の問題を中心に不動産関係の法律問題に取り組む。著書に『だけじゃない憲法』(猿江商會)。