シンカー: Fedが今週のFOMCで10年ぶりに利下げに踏み切るだろう。ただ、米国経済はハードデータは堅調であることなどから、Fedの利下げは足許の景気悪化への対応という意味合いよりは景気減速を避けるための予防的な利下げとの意味合いのほうが強いだろう。ECBも先週の政策会合で年内に利下げや追加緩和などを実施する可能性が高まっているとのメッセージを送った。ユーロ圏も米国同様にハードデータは順調に推移しているが、不透明感が続く中、景気後退リスクが顕在化する前に政策対応を行うスタンスを示している。グローバルに中央銀行の政策スタンスは従来のハードデータの悪化を確認した後の政策対応からハードデータの悪化を確認するに予防的な政策対応に変わってきている。予防的な政策対応へのタイミングの変化が景気循環の構造どう変えていくかが今後の注目だろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバル・フォーカスの解説

●【スペイン】サンチェス氏は議会の信任を得られず

スペインでは4月28日に総選挙が行われ、与党であったPSOE (スペイン社会労働党)が下院の350議席中、最大議席数を獲得した。だが、単独で過半数を占めた政党はなく、サンチェス氏率いるPSOEは政権発足に向けて他党の協力を得ようとしている。スペインでは首相候補が下院で信任される必要があり、7月23日にサンチェス党首の信任投票が行われた。一回目の投票で絶対過半数(350議席の過半数である176議席)が確保できなかったことで、2日後の25日に再び投票が行われた。しかし2回目の投票で単純過半数(棄権や無効票を除く賛成票数が反対票数を上回る)も確保できず、サンチェス氏の首相続投への不透明感は高まっている。初回の信任投票から2ヶ月以内に信任される首相候補がいない場合、議会が解散され再選挙が行われる。よって、9月23日までに新政権が誕生していなければ、再び総選挙(11月10日?)になるだろう。PSOEとの連立相手の可能性としては、1)ポデモスと地域政党(カタルーニャ州独立派政党を除く)による連立政権、2)ポデモスとカタルーニャ州独立派政党による連立政権が考えられる。2)のポデモスとERC (カタルーニャ共和主義左翼)をはじめとしたカタルーニャ州独立派政党との連立の場合は、カタルーニャ州独立運動への譲歩を迫られる可能性が高い (独立派と連立を組む場合は、ポデモスとERCのみで180議席を獲得できる)。よって絶対過半数には1議席足りなくなるものの、1)のポデモスとカタルーニャ州独立派以外の地域政党による連立政権の可能性が高いだろう。その場合、新政権は地域政党に対して協力の見返りとして、さらなる財政拡大の必要に迫られるかもしれない。ポデモスはPSOEを支持する見返りとして、閣僚入りを求めていたが、PSOEはカタルーニャ州独立問題へのスタンスの違いなどを理由に拒否し、協議は難航している。

グローバル・レポートの要約

●欧州経済(7/26):ECB:9月に緩和策実施へ、場合によってはQEも含む

本日(25日)のECB理事会からは、9月に追加緩和が実施されるというハト派的なメッセージが送られた。だが新しい政策パッケージの詳細は、まだ不明確だ。重要なことに、ECBは該当委員会に対し、フォワードガイダンス、(政策金利の)階層化、量的緩和(QE)で選択肢を検討することを課している。市場は当初、これで追加QEが確実になったと読み取ったが、ドラギ総裁は労働市場や信用伸び率が順調に推移していると強調して、(QEの)決定は依然として経済指標しだいだと示している。ドラギ総裁はまた、今年後半の景気見通しに対しさほど自信が無く、不確実性の長期化でショックの発生に等しい効果が既に実現したと示している。ほかに、現在の製造業の減速が広がった場合には財政政策から対応することが必要だと強調する一方で、ドイツやイタリアの景気が弱いことは特異なショックだとみられ、国の政策で処理すべきだとした。結局、本日示された情報からは、弊社が見込んでいた9月利下げ(中銀預金金利引下げ)はより大幅(20BP)で階層化(テクニカルな詳細はまだ不明確)を伴い、MRO金利引下げや追加QEの可能性も高くなったとみられる。弊社の基本シナリオでは、今年は経済指標が底固くQEは回避されると見込んでいるが、そうでなければ、2020年の弊社シナリオ(中銀預金金利がマイナス0.8%、MRO金利がマイナス0.1%にそれぞれ引下げ、月額400億ユーロのQEが実施される)が早く実現する可能性がある(詳しくは、弊社のテーマレポート…参照)。今年も落ち着かない夏が待つ。

●欧州経済(7/25):ECBは「残るすべての手段を」実行準備、次の景気後退では財政政策を求める圧力

下方リスクが高まる中で、ドイツ鉱工業生産の低調さや米国金利見通しの急転回により、ECBは警戒感を強めている。ECBの信頼感が脅かされているだけではなく、実効力を伴って何ができるのかも不確実になっている。ECBの政策担当者は追加策を実施する余地があるという心強いメッセージを送っており、市場もそれを積極的に織り込んできた。しかし弊社には、急進的な策の実施を正当化するほど、経済指標がすぐに弱い内容になるとは考えづらく、追加緩和は来年になると見込んでいる。デフレリスクが台頭すれば、ECBは「残された手段を何でも」実行するとみられる。だが巨大バズーカ砲を発射する時期は大方過ぎ去った。その代わり、生産を安定させるために(またリセッション時には、景気変動を加速させる緊縮財政や改革、および債務リストラが急速に進むリスクもあることから)、財政政策に圧力がかかっている。

●債券市場(7/29): 記憶に残る9月となるか

中央銀行は9月の新たな金融緩和ラウンドに向けて準備を進めている。今回は欧州中央銀行(ECB)主導の緩和となる見通しだ。先週の理事会では、ドラギ総裁のハト派的な姿勢が我々を驚かせた。ドイツ国債やイタリア国債の弱気な反応は、デュレーション・ロングやフラットナーのポジションを構築しやすいエントリー・ポイントを提供している。

●債券市場(7/22): 扉を開けたままに

欧州中央銀行(ECB)と米連邦準備制度理事会(FRB)は、今週から来週にかけて金融政策会合を開催する。最近のハト派的な政策スタンスは、経済情勢が比較的健全でありながら、少なくとも当面は強い景気下振れリスクによって正当化される。両中央銀行とも、次回以降の会合を見据えて、さらなる行動への扉を開けた状態に維持する公算が大きい。ユーロ圏の場合、とくにECBが9月の利下げ開始を示唆するようであれば、これは金利の低下、スプレッドの縮小、イールドカーブのフラット化を意味する。米国では、50BPの利下げが一度に実施されるのか、あるいは25BPの利下げが二度に分けて実施されるのかが焦点となる。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司