紙パ、宿泊・飲食、商社に上方修正期待。円安方向の想定レートに要注意
要旨
● 6月短観における今期の収益計画によれば、売上高の半期ごとの伸び率は19年度下期に鈍化に転じるが、経常利益については19年度下期に増益に転じる。年度後半に情報関連財の在庫循環が底打ちし、収益回復への市場の期待が高まれば、株式相場の押し上げ要因となることも期待されよう。
● 売上高が最大の上方修正となったのが「鉄鋼」であり、それに続くのが「木材・木製品」「通信」と素材業種が目立つ。設備老朽化に伴う操業トラブルから持ち直す「鉄鋼」に加えて、旺盛な日本企業のIT投資意欲の恩恵を受けやすい「情報通信」関連の上方修正が期待される。
● 経常利益計画から業績の上方修正が期待される業種を見ると、燃料価格や原料の古紙調達価格が落ち着いた「紙・パルプ」、インバウンドに加えて10連休や改元の恩恵を受けた「宿泊・飲食サービス」、原油や鉄鉱石価格上昇の恩恵を受けやすい商社を含む「卸売」と続く。レジャー関連に加えて、市況価格変動の影響を受やすい企業の上方修正が期待される。オフィス市況が好調な不動産が上方修正となっていることにも注目。
● 大企業製造業の想定為替レートは、2019年度 109.42円/㌦だが、足元のドル円レートは107円台。中でも円安方向に今期の為替レートを想定しているのが、「食料品」の111.00円/㌦、「紙・パルプ」の110.30円/㌦、それに続くのが「情報サービス」の110.20円/㌦となる。
● 今後は交渉再開となった米中通商協議や10月末が期限となっているEU離脱等に加えて、FRBが利下げに前向きな姿勢を示して為替レートの水準が更に円高方向になれば、こうした今期の為替レートを円安方向に想定している業種に属する企業を中心に今期業績が修正される可能性があることも注意が必要。
今年度は増収減益の計画
7月1~2日にかけて公表された6月短観の大企業調査は、6月下旬にかけて金融・保険を除く資本金10億円以上の大企業約1900社に対して行った調査であり、先月公表された法人企業景気予測調査に続いて、今期業績予想の先行指標として注目される。
そこで本稿では、同調査を用いて、7月下旬から本格化する四半期決算発表で堅調な今年度計画が見込まれる業種を予想してみたい。
資料1は、3月短観の調査対象大企業(全産業、除く金融)が計画する半期別売上高・経常利益前年比の推移を見たものである。まず売上高を見ると、19年度は下期にかけて伸び鈍化となるものの、前回調査からは上期下期とも+0.5%ポイントの上方修正となっている。
一方、経常利益は19年度上期で減益率が大幅に拡大しており、前回調査からも修正率も▲5.8%ポイントとなっている。ただ、下期に関しては前年比で+1.6%と増益に転じる見込みは変わってない。このことから、企業は業績の底を今年度前半と見ており、今年度後半は持ち直すと予想している。
つまり、産業全体で見れば、売上高の半期ごとの伸び率は19年度下期に伸び鈍化に転じるものの、、経常利益については19年度下期に増収増益を計画する姿に変わりは無い。特に、年度後半に向けて半導体電子部品を含む情報関連財の在庫循環の底打ちが見え始め、収益回復への市場の期待が高まれば、株式相場の押し上げ要因となることも期待されるだろう。
売上高上方修正期待の素材関連
続いて、6月短観の売上高計画を基に、上方修正が見込まれる業種を選定してみたい。資料2は19年度の業種別売上高計画を前年比と修正率に分けて状況を見たものである。
結果を見ると、製造業では「鉄鋼」「生産用機械」、非製造業では「物品賃貸」を除く全ての業種で増収計画となる中で、前回調査から最大の上方修正率となっているのが「鉄鋼」の+28.5%である。それに続くのが「木材・木製品」の同+8.1%、「通信」の同+2.7%であり、素材業種の上方修正が目立つ。
従って、19年度の業績見通しにおいては、こうした業種に関連する企業について売上高計画が注目されよう。特に今回は、昨年度に設備老朽化に伴う操業トラブルが相次いだ「鉄鋼」に加え、「情報通信」も引き続き旺盛な日本企業のIT投資意欲の恩恵を受けそうだ。
上方修正期待は紙パ、宿泊・飲食、商社
続いて、6月短観の経常利益計画から上方修正が期待される業種を見通してみよう。(資料3)。
結果を見ると、上方修正幅が最も大きいのは燃料価格や原料の古紙調達価格が落ち着いた「紙・パルプ」の+11.5%となる。それに続くのが、インバウンドに加えて10連休や改元の恩恵を大きく受けた可能性がある「宿泊・飲食サービス」の+8.6%、鉄鉱石や原油価格上昇の恩恵を受けやすい商社を含む「卸売」の+7.5%となる。
このように、今期の経常利益見通しでは、上方修正が期待される業種として、インバウンドや改元・10連休の恩恵を受けたサービス関連に加えて、昨年度に原油をはじめとした市況価格急変動の悪影響を受けた紙・パルプや、資源メジャー減産に伴う鉄鉱石価格の高止まりの恩恵を受けやすい商社を含む卸売関連が期待される。
これら以外の業種でも、既存ビルの稼働率改善に伴う賃料増加等により、オフィス市況が好調な不動産も上方修正となっていることにも注目だろう。
為替レートの変動で業績が修正される可能性も
なお、6月短観の収益計画では、企業の想定為替レートも公表されることから、業種別の想定為替レートも今後の業績見通しの修正の可能性を読み解く手がかりとして注目したい。
資料4にて実際に今期の想定為替レートを確認すると、大企業製造業における事業計画の前提となる想定為替レートは、2019年度は109.42円/㌦となっている。しかし、足元のドル円レートは107円台である。
中でも足元のドル円レートよりも円安で今期の為替レートを想定しているのが「食料品」の110.00円/㌦、「紙・パルプ」の110.30円/㌦、それに続くのが「情報サービス」の110.20円/㌦となっている。
以上の結果を踏まえれば、今後は交渉再開となった米中通商協議や10月末が期限となっているEU離脱等に加えて、FRBが利下げに前向きな姿勢を示して為替レートの水準が更に円高方向になれば、こうした今期の為替レートを円安方向に想定している業種に属する企業を中心に今期業績が修正される可能性があることも注意が必要だろう。
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 首席エコノミスト 永濱 利廣