今後、7~10 月にかけて、駆け込み買いが耐久財を中心に起こると考えられる。その対象範囲を名目GDP ベースで試算すると、約24 兆円となる。住宅と自動車の平準化対策で約26 兆円が外れる試算だ。さらに、約24 兆円の主体となる家電なども、キャッシュレス決済のポイント還元によって、駆け込み買いされる動きは大きく封じられることになろう。今回の駆け込み買いは、前回に比べて相当小さくなると予想される。

消費税
(画像=PIXTA)

自動車・住宅対策駆け込みは半分になる

駆け込み需要が及びそうな個人消費の範囲はどのくらいだろうか。耐久消費財では、家電・携帯電話・PC、家具や内装品、住宅リフォーム、自転車・バイクなどが挙げられる。名目GDP ベースでは、住宅購入・自動車購入を含めて対象は42.6 兆円(2018 年度ベース、住宅投資+耐久財消費)。もっとも、前回2014 年4月のときの教訓から考えると、ここに化粧品、ゴルフ・スポーツ用品、バック、おもちゃなどの消費財でも駆け込み買いがあった。それらを含めると、駆け込み買いの範囲は広くとって約50 兆円になると想定される(図表)。

消費税の駆け込みと反動(中編)
(画像=第一生命経済研究所)

その一方、住宅と自動車は、平準化対策として10 月以降に住宅ローン減税・すまい給付金、自動車税の軽減があって、基本的に駆け込み買いは起こらないと予想されている。名目GDP ベースでは、住宅と自動車は26.4 兆円にも及ぶ。つまり、駆け込み買いの対象約50 兆円のうち半分が、平準化策によって、この10 月以降に駆け込みが起こらないように手当てされていると考えれる。駆け込みの対象は約24 兆円となる。

細かい話だが、前回2014 年のときは、食料品の中の調味料や飲料にも駆け込み買いが起こったと聞く。今回は、軽減税率によって、それらは外れることになる。残るのは、酒類に限られる。

筆者のヒアリングでは、2014 年のときは+3%の税率分を節約しようとして、化粧品、調味料、飲料をまとめ買いしすぎたという反省の弁を聞く。今度は、+2%の税率分なので、事前にまとめ買いをすることの利得はより乏しいものになりそうだ。

10 月以降の割引効果

残った駆け込み買いの対象では、家電が主なものとなる。正確には、家事用耐久財(冷蔵庫、洗濯機、掃除機、電子レンジ)、冷暖房器具(エアコン・ストーブ)、情報機器(スマホ、PC)、自転車、ベッド・ふとん、照明器具などが挙げられる。

これらが素直に駆け込み買いされそうかというと、それも確実とは言えない。10 月以降は、キャッシュレス決済で▲5%のポイントが付く。その対象は、中小企業に絞られるので、だいたい25%の金額になるとみられる(総務省・経済産業省「経済センサス」(2016 年)から計算した)。家電等を街の電気店で買おうと考えている消費者は、それらの店でカード決済等ができることを確認して、むしろ買い控えると考えられる。

では、家電等の駆け込み買いが、大手の量販店等を中心に起こるかというと、そこでも別の考え方ができる。これまでは、増税直後の割引セールは制限されていたが、今回は制約は少なくなる。「8%まで消費税を還元」というような税負担を免除することを想起させるのは禁止である。一方で、普通の割引セールは禁止されない。従って、消費者の方もそれを見込んで、必ずしも10 月までに家電等を前倒しで購入しないと考えられる。むしろ、量販店等はキャッシュレス決済のポイントに対抗するようなキャンペーンを10 月以降に打ち出す可能性があり、消費者はそれを見込んで買い控えることもあり得る。キャッシュレスで▲5%のポイントが中小商店では与えられるので、量販店はそれに見合った割引等のメリットを提示するという見方もできる。

平準化対策の限界

こうしたキャッシュレス決済のメリットや、量販店での割引対抗措置は、消費の反動減を抑える効果が見込まれる。ただし、注意すべきは、値引きは量販店等の収益性を落とすことだ。値引きが消費者を引きつけて、販売数量を増やす効果が見込まれれば、値引きは続く。しかし、そうした数量増の反応がごく短期間であれば、値引きは短期間で終ってしまうことになる。

2020 年を展望すると、夏には東京五輪が開催される。昔は、五輪の手前にTV やレコーダーが売れるという経験則があった。今回も、2020 年夏までは、そうした五輪需要が家電の販売増には寄与するだろう。

問題は、2020 年秋以降に家電等の消費意欲が落ちて、先の量販店の値引きも、数量増が見込みづらい局面になってしまうことだ。中小商店向けのキャッシュレス決済も、予定では2020 年6月をもって終了する。例えば、その期限を東京五輪後まで延長すれば、家電需要は盛り上がるのか。多分、それはないだろう。

筆者が主張したいのは、今回の平準化対策がある程度駆け込みと反動という需要のアップダウンを均すことに成功したとしても、そのこと自体は消費需要そのものを上向かせるものではないということだ。平準化対策は、ごく短期の政策である、中長期的には雇用・所得政策や国民の将来不安を解消することが重要である。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 熊野 英生