要旨

● 世帯主が65歳以上で二人以上の「高齢者世帯」の場合、月平均の支出額は「250,550円」となり、二人以上世帯の平均「287,315円」よりも3.7万円近く下回る。また、世帯主が70歳以上で二人以上の高齢者世帯では、月平均の支出額は「237,034円」となり、二人以上世帯の平均よりも5万円以上下回る。

● 10大費目別に二人以上世帯平均に対する倍率を計算すると、高齢者世帯は「保健医療費」への支出が多く、世帯主が60-69歳の世帯で平均より1.11倍、世帯主が70歳以上の世帯で平均より1.14倍も支出している。一方、高齢者世帯では「教育費」への支出が圧倒的に少なく、世帯主が60-69歳の世帯で平均に対して0.16倍、世帯主が70歳以上の世帯で平均に対して0.04倍しか支出していない。

● また、「交通・通信費」も特に世帯主が70代以上の世帯で平均に対して0.62倍と少なくなっている。更に10大費目の中で、特に世帯主が70代以上の高齢者世帯の支出額が平均より月4,000円以上減るのが、「食料」「被服及び履物」「教養娯楽」となる。それぞれの支出減のけん引役となっているのが「外食」や「洋服」「教養娯楽サービス」となっており、主に外出を伴う負担が減る要因が大きい。

● ただし、収入が年金だけの場合、平均支給額が国民年金で5.4万円、厚生年金で14.8万円となり、今回の家計調査(2018年)の結果のように月23.7万円の平均支出をすることは出来ない。70代以降も家計調査ベースの平均的な生活を送りたいと考える際には、65歳以上も働き続けて貯蓄を確保しておくか、国民年金や厚生年金に上乗せする確定拠出年金などにより、老後の支出を支える現金収入の準備が必要になってくる。

(※)本稿は日経ヴェリタスへの寄稿をもとに作成。

老人
(画像=PIXTA)

二人以上シニア世帯の月平均支出額は約

25 万円6月7日に家計調査年報家計収支編( 2018 年)が更新された。これによれば、世帯主が 65 歳以上で二人以上の「高齢者世帯」の場合、月平均の支出額は「 250,550 円」となり、二人以上世帯の平均「287,315 円」よりも 3.7 万円近く下回ってい る 。

また、世帯主が70歳以上で二人以上の高齢者世帯では、月平均の支出額は「237,034 円」となり、二人以上世帯の平均よりも5万円以上下回っている 。

そこで本稿では、最新の家計調査に基づいて、高齢者世帯になると消費支出にどのような変化が生じるのかについて調べてみたい。

高齢になるほど増える「保険医療費」

家計調査(2018年)を見ると、消費支出は、「食料」「住居」「光熱・水道」「家具・事用品」「被服及び履物」「保健医療」「交通・通信」「教育」「教養娯楽」「その他」の 10大費目別に分けて見る ことが出来る。このため、消費支出の10大費目別に分けて、二人以上の世帯平均に対する倍率を計算すれば、高齢者世帯の消費支出の傾向がわかる 。

そこで、10 大費目別に二人以上世帯平 均に対する倍率を計算すると、高齢者世帯は「保健医療費」への支出が多く、世帯主が60ー69歳の世帯で平均より1.11倍、世帯主が70歳以上の世帯で平均より1.14 倍も支出していることがわかる。

平均世帯と異なるシニア世帯の支出
(画像=第一生命経済研究所)

これを金額で見ても、二人以上の高齢者世帯は保健医療費として世帯主が60代世帯で月14,659円、世帯主が70代以降世代に至っては月15,135円となっており、二人以上平均の13,227円よりも月2,000円近くも多くの支出をしていることがわかる。なお、更に細かい費目別に見ると、特に「保健医療サービス」や「医薬品」「健康保持用摂取品」への支出が増えているようだ 。

高齢になるほど減る「子育て費」

一方、高齢者世帯では「教育費」への支出が圧倒的に少なく、世帯主が60ー69 歳の世帯で平均に対して0.16倍、世帯主が70歳以上の世帯で平均に対して0.04倍しか支出していないことがわかる。

これを金額で見ても、高齢者世帯の教育費支出は世帯主が60代世帯で月1,866円、世帯主が70代以降世代に至っては月482円となっており、平均の11,785円よりも月1 .1万円以上も支出が少なくなっていることがわかる 。なお、高齢者世帯の「その他の消費支出」も金額的にはかなり減るが、内訳を見ると「仕送り金」が最大の減少要因となっているため、こちらも幅広い意味で子供にかかる負担が減ることを示していることがわかる 。

平均世帯と異なるシニア世帯の支出
(画像=第一生命経済研究所)

「教育費」以上に減る「交通・通信費」

また、「交通・通信費」も特に世帯主が70代以上の世帯で平均に対して0.62倍と少なくなっている 。これを金額で見ると、高齢者世帯の交通通信費支出は世帯主が60代世帯で月43,674円と平均の42,107円を上回っているが、世帯主が70代以降世代に至っては月25,919円となっており、平均よりも月1.6万円以上も支出が少なくなっていることがわかる 。

そして内訳を見ると、特に「自動車関係費」や「通信費」が大きく減っており、運転免許を返納して自動車を手放すシニアが増えるといった年齢的な要因と、そもそも携帯電話やネットの利用が若年世代に比べて少ないシニアの世代的な要因が混在していることが背景にあることが推察される 。

更に10 大費目の中で、特に世帯主が70代以上の高齢者世帯の支出額が平均より月 4,000 円以上減るのが、「食料」「被服 及び履物」「教養娯楽」となる 。そして、それぞれの支出減のけん引役となっているのが「外食」や「洋服」「教養娯楽サービス」となっており、主に外出を伴う負担が減る要因が大きいことがわかる 。

医療費以外に減らせる項目も多い

このように、特に世帯主が70代以上の二人以上高齢者世帯の支出の特徴としては、「保健医療」支出が平均対比で月2,000円近く増え る が、一方で「教育」支出が1.1万円以上、「交通・通信」支出が1.6万円以上、仕送り金減等により「その他の消費支出」が7,000円以上、「食料」「被服及び履物」「教養娯楽」がそれぞれ4,000円以上減ることから、トータルで月23.7万円と、平均世帯の月28.7万円から5万円以上も支出が減ることがわかる 。

ただし、収入が年金だけの場合、平均支給額が国民年金で5.4万円、厚生年金で14.8万円となり、今回の家計調査(2018年)の結果のように月23.7万円の平均支出をすることは出来 ない 。

従って、70代以降も家計調査ベースの平均的な生活を送りたいと考える際には、65歳以上も働き続けて貯蓄を確保しておくか、国民年金や厚生年金に上乗せす る確定拠出年金などにより、老後の支出を支える現金収入の準備が必要になってくるといえる。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 永濱 利廣