はじめに
欧州各国が猛暑に喘いでいる。北アフリカから押し寄せる熱波により、各国で歴代最高気温を更新しているという。たとえばドイツでは東部で史上最高となる38.6度を記録したのだという。ポーランドやチェコでも最高気温記録を更新し、フランスやスイスでは、アルプスの高地でも30度を超えているのだ。
気温とは対照的に、欧州経済には冷や水が浴びせかけられている。先月末に公表された、欧州(EU)圏における今年第2四半期の国内総生産(GDP)速報値は前期比0.2パーセント増であり、前四半期より半減した。前年同期比で見ると1.1パーセント増であり、この水準は5年ぶりの低水準だという。同時にインフレ率も上昇率が鈍化しているのだ。
他方で欧州は各種の人事刷新を迎えた。まずは英国でメイ首相が先月24日(BST)に辞任し、ボリス・ジョンソン元外務大臣が新たな首相に就任した。いわゆる「ハードBREXIT」論者と言われているジョンソン新首相の下、英国は来る10月31日(GMT)の離脱期限に向かって欧州連合(EU)離脱へと動いている。
また先月2日(ブラッセル時間)には欧州中央銀行の総裁としてフランスのクリスティーヌ・ラガルド国際通貨基金(IMF)専務理事を指名した。これに伴い同専務理事は来月12日(米東部時間)に専務理事職を辞任するという。
英国、ドイツといった主要国の状況を見ると、欧州勢の未来が明るいとは決して言えない。様々な変化を迎える欧州経済がどのようになっていくのか。本稿はそうした変曲点を迎えた欧州勢がどのような進展を迎えることになるのかを分析する。
欧州の実態 ~何が起こっているのか~
欧州の現在の状況を振り返ることとしよう。前述したように、ジョンソン元外務大臣が首相職に就いた。就任に当たっての演説では“[W] e are going to fulfil the repeated promises of parliament to the people and come out of the EU on October 31”とBREXITに向けた積極的な姿勢を高らかに宣言している。人事(閣僚)面で見ても、かつてメイ前首相下でBREXITを担当したものの同政権とEU側による合意案に反発し辞任したラーブ元EU離脱担当大臣が外務・英連邦大臣に就任している。さらにイスラエルへの家族旅行中に無断で同国のネタニヤフ首相らと会談したことで辞任した、脱EU派であるプリティ・パテル元国際開発大臣も内務大臣として入閣している。このようにBREXIT強硬派を閣僚に迎えているのであり、この面でも英国の強硬姿勢は明らかである。
他方で大陸欧州に目を転じると、様々な状況にある。まずドイツが深刻な経済不況に至りつつある旨、同国内などで警告されている。労働マーケットの状況を見るに連鎖倒産が生じる可能性があり、個人消費の減少など経済的停滞が懸念されているのだという。イタリアも引き続き懸念の元となっている。擬似通貨とも言えるミニBOTの発行を巡り、イタリアとEUの対立が続いているのだ。欧州における経済危機が鎌首をもたげつつあることに留意しなければならない。
これだけではない。去る2017年に欧州中で放射性物質が拡散した問題について、流出元が1957年に原子力事故を起こしたロシアのマヤーク核技術施設の可能性があるとの研究結果が公開されたのである。
このように欧州情勢は様々な困難を抱えているのである。
ロシアへの接近がもたらす欧州危機 ~米国という「脅威」~
ここで非常に興味深いのが、フランスこそがBREXITを巡る重要なキー国になる旨、“喧伝”されているのだ。ここにきて英国内においていくつもの媒体がフランスにとってBREXITはメリットがある、マクロン仏大統領こそがジョンソン首相のパートナーであるといった言説が“喧伝”している。
そのフランス自身は別に奇妙な動きを見せている。G7に先立ち、マクロン大統領がロシアのプーチン大統領を今月19日(パリ時間)にフランスへ迎えるのだという。先月からメドヴェージェフ首相がそのカウンターパートであるエドゥアール・フィリップ仏首相と会談を執り行う、G20でマクロン・プーチン両大統領が会談を行うなど、仏ロ勢は接近を図ってきた。
英国自身も、スクリパリ事件を巡るそれまでの対立を軟化させるかのように6月26日に大阪でメイ前首相とプーチン大統領が会談を行ってきた。ロシア系メディアであるRTが英当局から罰金措置を受けるなど、両国の対立は再燃しているものの、ロシアが再び西欧へと接近しているのである。
こうしたロシアへの接近を受けて、欧州にとって新たな国家が動いている。それが「米国」である。
(次号(下)に続く)
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。
大和田克 (おおわだ・すぐる)
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所グローバル・インテリジェンス・ユニット
リサーチャー。2014年早稲田大学基幹理工学研究科数学応用数理専攻修士課程修了。同年4月に2017年3月まで株式会社みずほフィナンシャルグループにて勤務。同期間中、みずほ第一フィナンシャルテクノロジーに出向。2017年より現職。