黒川塾 七十 ダイジェストレポート(後編)

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(画像=日本実業出版社)

本記事は6月25日に御茶ノ水で行われた「『ローカルなゲーム大会』から『産業』へと変貌しつつあるeスポーツの今後」について議論が交わされた「黒川塾 七十」のダイジェストレポート・後編になります。

前編のレポートはこちら。ぜひ、合わせてお読みください(文責:日本実業出版社)。

ゲームを「魅せる」タレントの育成と可能性

続いて、立ち上げからちょうど1周年となる「浅井企画ゲーム部」についての紹介が行われた。浅井企画のYouTubeチャンネル「channel ASAIKIKAKU」では、通常の所属タレントの動画と共に「浅井企画ゲーム部 リポート」をはじめとするゲーム関連動画が多数公開されており、中でも「奥村茉実のゲーム配信」がダントツの人気を誇っているということだった。

色摩氏によると「奥村さんはゲーム部に加入した段階ではほとんどゲーム経験がなかったが、今年春先に行われた『ストリートファイターリーグ Powered by RAGE』で準優勝したネモオーロラチームの一人参加したことでゲームタレントとして覚醒した」とのこと。

実は、奥村さん自身はリーグを通じて1勝もしておらず、ファンの間では「いつか勝つんじゃないか」という期待が高まると同時に「リーグ終了とともにゲームをやめてしまうのではないか」という懸念も広がっていた(なお、奥村さんはその後別の大会で公式戦初勝利を飾り、大変盛り上がったとのこと)。

しかし、前述のチームメンバーであるネモ選手から勧められた「カプコンプロツアーの配信」を公式ストリーマーとして認められたことで、活動の幅を広げている。

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「奥村茉実のゲーム配信」の配信主・奥村茉実さんとそのプロフィール(画像=日本実業出版社)

ちなみに、ツアーの応援配信をするときは通常Twitch(ツイッチ、Amazonが提供するゲーム専門のストリーミングプラットフォーム)が使われるが、奥村さんの配信ではYouTubeが用いられている。これは浅井企画社長の意向もあるが、ゲームを知ってる人でないとほとんどダウンロードされないTwitchよりも間口の広いYouTubeでファン層のすそ野を広げたい、という狙いもあるようだ。

事実、奥村さんの配信は順調に視聴者数を伸ばしているそうで、「『成長を見守るタレント』という、ゲームを知らないタレントでも食い込んでいける可能性がここにあるのではないか」とのことだった。

eスポーツを「興行化」するために必要なこと

本イベントでは「現在のeスポーツシーンがいくつか抱えている課題・問題点」についてもトークが繰り広げられた。その一つが「観客の育成」についてである。

色摩氏は「実況など周辺環境が育ってきた今、もっとも必要なのは『観客の育成』ではないか」と語ると、それを受けた平岩氏も「今eスポーツを見ているのは基本的にプレイヤーであり、『見る専(見るだけの人)』は少ない。野球やサッカーは実際のプレイヤーが数%になっているように、『見て楽しむ人』を増やすことが興行化に必要なことではないか」と応じた。

そのうえで平岩氏は「いま見ているコアなファン層は総じてリテラシーが高いので『わかっているからこその盛り上がり』はある。昨年行われたシャドウバースの大会(注:Shadowverse World Grand Prix 2018)で、ふぇぐ選手が優勝を決めたとき、初めて『社交辞令的ではない』スタンディングオベーションを見た。こうした熱狂感は他のプロスポーツにはない、全員がわかるからこその醍醐味があるからだろう」と述べている。

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eスポーツシーンと選手のタレント性について意見が交わされている様子(画像=日本実業出版社)

但木氏は「観客は勝手に育つものではない」と指摘し、「野球やサッカーで『応援団』という存在が場を温め、周囲の観客をのせていくように、興行側が意図的に仕掛けていく必要があるのではないか」と述べた。

木曽氏は「eスポーツは、メジャースポーツとシーンが違うように感じる。どちらかというと格闘団体に近いのではないか。野球は野球という大きいルールがあるが、格闘団体はそれぞれの団体が違うルールを設け、それぞれでファンを獲得している」と指摘する。

そのうえで、「こうした小さなスポーツコミュニティは『お金を払って支えたい』とする観客に育てられ、花開いていくものだが、今のeスポーツシーンには残念ながら『お金を払って支えよう』という観客や構造が存在しない。どちらかというとプロ野球のような観戦するだけという感覚のファンが多いのではないか」と懸念を語った。

これを受け、但木氏は「YouTubeなどの動画配信システムが備える、いわゆる『投げ銭』システムを上手くeスポーツに繋げられれば、という思いはある」とコメントし、平岩氏も「アメリカでは今、大会会場における客単価を上げようと工夫している。チケットや物販・飲食に加え、選手のプレミアム握手会など支えていくための動きがある。日本ではeスポーツにおける客単価はほぼゼロなので、このままでは成り立っていかないだろう」と応じた。

また、木曽氏は「結局、パブリッシャーがeスポーツを『ゲームを売るための広告行為』として見ている限りはマススポーツのようなスタイルにならざるを得ず、それによって興行として捉えたときと噛み合わないのではないか」としている。

色摩氏は、韓国で開催された「ストリートファイターV」の大会で起こった選手同士の煽りあいのようなシーンについて言及。このプロレスで見られるようなシーンに対しネット上では大反響があったことを引き合いに「プロゲーマーが『試合外で魅せ場を作る』ということの表れで、eスポーツシーンを高めていくコンテンツの1つとして捉えていけるのではないか」とコメント。

同様に平岩氏も、セルフプロデュースを意識しないとスポンサーがつかず、プロゲーマーとしての活動ができない状況を説明し、ステージ上のふるまいも含めたパフォーマーとしての要素も求められつつあると述べた。

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ショーとしてのeスポーツを魅せる要素について語る色摩氏・平岩氏(画像=日本実業出版社)

一方で但木氏は、格闘技やプロレスにおけるパフォーマンスと比較するかたちで持論を展開した。プロレスラーなどは肉体的に鍛え上げられているためパフォーマンスもビジュアル映えするが、プロゲーマーはフィジカル面で劣るため格闘技と同様のパフォーマンスには無理があると指摘。

そのうえで、韓国の「プロゲーマーが歌う『ファンでなければ聞くに堪えないレベルのカラオケ』が人気コンテンツになり、キャラクター付けとして成功している」といった例を引き合いに、タレント化や自分を演出する方向でセルフプロデュースを行なう方向性を示唆。

「ストリートファイターリーグでは、選手の成長過程が見られたことが評判を呼んだ。昔から芸能人でも、番組でのチャレンジを通じて生まれるストーリーが好感に繋がるプロセスがあった。プロゲーマーでも日常や人となりを見せていくフォーマットを学んだ方がいいのではないか」と語った。

これを受け、色摩氏も高校野球などを引き合いに「『成長が見られるコンテンツ』は日本人の気質に合っている」「若いころからの成長ストーリーを見せるのは芸能人も取り入れたほうがいい」と同調。平岩氏も高校野球の地方大会やメジャーリーグの大谷翔平選手の例を出しつつ「選手のバックグラウンドはとても大事」とし、「eスポーツの選手も人となりなど、背景を見せていくことで『上手い人のファン』ではなく『その人のファン』ができていく」と語った。

その後、話は「芸能界とeスポーツの関係」に戻り、浅井企画以外の芸能事務所も続々とeスポーツに参入している現況について色摩氏に伺ったところ「基本的に人員は割かれておらず少数で運営している状況。実績が上がらない限り、人的リソースも増えていかない」とし、「芸能界とゲーム業界との垣根は若干高いのでは」と語った。

そのうえで、各事務所で異なる参入戦略についてコメントをしつつ、大資本をもつところが(分野として)開拓してくれることに期待していると感想を述べた。

「日本と世界の違い」とeスポーツの未来

イベントの最後は、日本と世界の温度感の違いを交えつつ、eスポーツ業界の未来についてそれぞれの見解が述べられた。

但木氏はこれまでの話を受けて「企業の広告予算がTVからネットへ移行する流れがあるが、媒体としての特性上ネットは嗜好の分散が激しい。そのなかでも『当たりが大きい場』としてゲームが位置づけられている」と説明。

そのうえで「広告は配信者の動画に乗っかるかたちで露出するので、芸能関係者もいずれは対応していかざるを得ず、これは世界でも同じ傾向を示している。だから、日本と世界の違いというのも実はそんなに無くて、まず太い基盤としてトレンドがあり、その上で地域ごとの特殊性が若干乗っかっている程度と思っている」と述べた。

木曽氏は、自身の専門領域からeスポーツシーンにできることとして「どうやって外からお金を流し込むか」と語った。現状の広告予算をメディア間でパイの奪い合いをしている状況では誰も幸せにならないため、産業として規模を拡大する方法として「スポーツベット」を挙げた。

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産業として拡大するための方法論として「スポーツベット」を解説する木曽氏(画像=日本実業出版社)

まず、グローバルではスポーツとスポーツベットの文化が1セットとして存在することを説明、その顕著な例として「DAZN(ダゾーン)」を挙げている。DAZNはスポーツベットの施設に映像配信を行っている会社であり、スカパーからJリーグの放映権を10倍の値で買い上げたことを実例として「ギャンブルが絡むとコンテンツには10倍の値が付く」ことを解説。

そのうえで、スポーツベットは日本の現行法では実現できないため、景品表示法(景表法)の範囲内で「疑似スポーツベット」(木曽氏によると、一番近い例が「商店街の福引」とのこと)を実現するべく特許を取得。eスポーツに限らず、日本のスポーツシーンに根付かせるべく奔走しているとのこと。

平岩氏は、現状はeスポーツそのものが盛り上がっても、最終的に資金の行きつく先はゲームメーカー・パブリッシャーであり、現状のままではリスクを取ってeスポーツに参入する動きが増えないことを指摘。同時に、木曽氏が提唱するスポーツベットのしくみによって、結果確認を目的とした動画視聴の増加やタイトルそのものの認知なども増えるといった好循環が生まれるのでは、と期待を述べた。

イベントの締めとして黒川氏から語られたのは、音楽業界とゲーム業界それぞれのデータを引き合いに市場規模の推移について。まず、ゲーム市場はオンラインプラットフォームによる牽引もあり全体としては伸長傾向にあるものの、家庭用ハード・ソフトは減少傾向にあり、それは音楽業界でも同様の傾向があることを解説。

一方で、ライブエンタテインメント市場は復調の兆しをみせていることから「その場所でしか得られない、共感できるもの」に対する注目が高まっていることを示唆。eスポーツも「ゲームでありながらも同様のエンタテインメントとして成立するのでは」と語り、イベントをまとめていた。

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最後に登壇者全員で記念撮影。黒川塾7周年&70回という節目であることに加え、出版記念として著書を模したケーキが用意されていた(画像=日本実業出版社)

(提供:日本実業出版社)

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