1 はじめに

鑑定評価額
(画像=チェスターNEWSより)

相続税における財産評価の中で、土地の評価が中心的な争いとなることが散見されます。

先日も、土地の相続税評価が争いになった訴訟において、東京地方裁判所は、「不動産鑑定士による鑑定評価額が評価通達に基づく評価額を下回っているというのみでは、評価通達の定める評価方法によるべきではない特別の事情があるとは認められない」と判断し、不動産鑑定士による評価額を相続税法上の時価(相続税法22条)とは認めず、財産評価基本通達による評価額を採用し、納税者側が敗訴しました(東京地裁平成31年1月18日判決・確定済み)。

どのような事案であったか、以下で簡単に説明いたします。

2 事例紹介

(1)事例

納税者Xは、本件土地を相続により取得。当該土地の相続税評価額について、「不動産鑑定士の鑑定評価額」をもとにした相続税の申告書を期限内に提出していました。

これに対して、課税当局は、当該土地についての「評価通達が定める路線価方式による評価額」が「不動産鑑定士の鑑定評価額」が上回ると認定。課税当局は、「評価通達が定める路線価方式による評価額」と「不動産鑑定士の鑑定評価額」との差額を課税価格に加算する旨の相続税更正処分等を行いました。

そして、この処分を不服とした納税者Xは訴えを提起しました。

(2)争点

ⅰ)路線価の評価時点(1月1日)と相続開始日との間に一定の時間差があることによって、路線価方式の合理性が失われるか否か。

ⅱ)不動産鑑定士による鑑定評価額が評価通達に基づく評価額を下回っているというのみで評価通達の定める方法によるべきではない特別の事情があると言えるか否か。

(3)納税者側の主張

ⅰ)路線価評価時点(1月1日)と相続開始日とのには一定の時間差がある。とりわけ、本件土地のように地価変動が激しい地区においては、一定の時間差による土地の評価の変動は顕著であるとして、路線価方式による評価には合理性が認められないと主張しました。

ⅱ)本件土地の路線価方式による評価額は、不動産鑑定士の鑑定評価額と比べて約46%も高額であることから、本件土地の相続税評価額には不動産鑑定士による鑑定評価額を採用すべきであると主張しました。

(4)原審の判断

ⅰ)路線価の評価時点と相続開始日との間に一定の時間差があることをもって直ちに路線価方式の合理性が失われるものではないと判断しました。というのも、路線価方式による評価額は、1年間の時価変動に対応するなどの評価上の安全性を考慮して公示価格の80%程度の水準を目途として定められています。よって、地価が1年で20%超下落するようなことがない限りは、路線価方式による宅地の価額が地価変動を理由に時価を超えることはないからです。

ⅱ)ここで、本件についてみると、本件土地については、1月1日から相続開始日までに20%超の時価変動があったとは伺われないことから、評価通達の定める方法によるべきではない特別の事情があるとは認められないと判断しました。

仮に鑑定意見書等による鑑定意見書等による評価方法が一般に是認できるものであり、その算出価格が財産の客観的交換価値と評価し得るものであったとしても、その算出価格が評価通達の定める評価方法による評価額を下回っているというのみでは、評価通達の定める評価方法により算出された価額が相続税法22条規定の時価を超えるものということは認められないとしました。

ⅲ)以上から、本件土地の鑑定評価額をもって評価通達の定める方法によるべきではない特別の事情があるとは認められないとして、納税者の訴えを斥けました。

(提供:チェスターNEWS